美麗なる舞姫




一座を迎えた翌日
空き家を借りる事となった女性達だが早朝から何やら忙しない動きを見せていた
男達は次々と荷をほどき中から現れたのは多くの楽器

それらを手に持つと早速一人また一人と音色を奏で始める

その音色は二階の寝室にまで聞こえ、それに合わせてベッドのふくらみが微かに動いた

中から現れたのは金髪の女性
何も纏わず生まれたままの姿で起き上がると腕を上げ気持ちよさげな吐息を一つ


女性「もう朝なのね…私もそろそろ準備をしないと」


女性は薄手の服を手に取るとそれを軽く羽織り部屋をあとにした
階段をゆっくりとおりると楽器を奏でている1人の男が彼女に気が付き声をかける


「おはよう、フール」
フール「おはよう、素晴らしい眼覚めをありがとう」


フール
それがこの女性の名だった
自分たちの演奏で目覚めた事に気付くや男達は思わず苦笑する

女性はそんな彼らにクスリと笑みを見せると近くの椅子へと腰掛ける


「ところで今回はどうだ?悪くない街だと思うんだが」
フール「そうね……確かに悪くはないわ、皆とても可愛らしい子達ばかり」


昨日見た住人達の顔を思い出しながら答える
徐に長いすらりとした足を組む


「ハハハ、それならフールも満足できるだろうな!よかったじゃないか」
フール「ええ、そうね……けどちょっと気になるのがいるのよね」


彼女が言う気になる人物
それはジャックの存在だった
思いもよらなかった登場人物につい溜息をもらす


「ああ、あのジャック・スケリントンの事だろ?厄介なのか?」
フール「厄介かどうかは今のところなんとも言えないわね…ただ今回はちょっと慎重になった方がいいかもしれないわ」


するとそこでフルートを奏でていた男が声をあげた


「それならいっそのことジャックを狙ってみたらどうだ?」
フール「彼を?」
「そりゃあいい、フールなら余裕なんじゃないか?」


皆の言葉を聞きフールは1人考え込んだ
厄介な相手の目を盗んで行動するよりも、その相手自体を真っ先に標的にした方がその後が楽なのは確かだ


フール「…そうね、アナタ達の意見も最もだわ」
「だろ?」
「決まりだな!」


男達が次々とやる気を漲らせ立ち上がり声をあげる
そんな彼らに向け笑みを浮かべるとフールは立ち上がるなり再度寝室へと向かった

扉を閉じ壁際に置かれている荷に手をかける
中には様々な色とデザインを模した衣装が仕舞いこまれていた


フール「あの子達もやる気十分みたいだし…アタシも気合いれないとね」


衣装を一着取り出すと身に着けている服へと手を伸ばす
ボタンを一つ二つとはずし、薄手の服はハラリと足元へと滑り落ちた























住人達が徐々に目を覚まし街中に姿を見せ始める
そんな最中、ベッドの中で静かに寝息を立てる骸骨が1人

窓から差し込む日差しを白い顔に浴び、その眩しさから瞼が開かれた


ジャック「んー……あぁ、もう朝か」


眠たげに目をこすりながらゆっくりと身を起こすとそのまま軽くのび一つ

さぁ起きなければ

そこで聞こたのは可愛らしい犬の鳴き声
視線を向けると愛犬であるゼロがご機嫌な様子で懐に飛び込んできた


ジャック「やぁゼロ、おはよう!」
ゼロ「ワン!」


朝の挨拶を済ませるとベッドから長い足を出す
立ち上がり窓へと歩み寄るとそのまま外を見つめる
朝日に晒された街中には住人達の行き交う姿


ジャック「さて、着替えて朝食にしようかな…何を食べようか」



未だ抱かれたまま此方を見上げてくるゼロへ問いかけながらクローゼットへと足を向かわせる


朝はさっぱりしたものがいいかな
まずはサラダがいい
蝶卵チップがあったはずだからそれを上に散らして
サリーが焼いてくれたパンもまだ残っているからそれに嘆き林檎のジャムでいいかな
控えめな甘さだし丁度よさそうだ

飲み物は色々あるから悩むけど合いそうなのを探して…


考えついた朝食を想像していると燕尾服を身に着けたジャックの腹の音が聞こえた

それに思わず苦笑しゼロを引き連れ階下へと向かった






街中を行き交う住人達が互いに声を掛け合う
その中に町長であるメイヤーの姿もあった


町長「おはよう諸君!」


ご機嫌な様子で皆に声をかけていくメイヤーはふとある物を見て足を止めた
それは煌びやかな衣装をたなびかせ金髪を揺らし歩くフールの姿だった

昨日同様美しいその姿に思わず見惚れてしまう
そんなメイヤーに気付いたのか笑顔を見せたフールが歩み寄って来た


フール「おはようございます、町長さん」
町長「あ、お、おはようございます!えっと…」
フール「ふふ…申し遅れました、フールと申します」


フール…素晴らしいお名前だ


町長の脳裏に女性の名がこだまする
そんな町長を見てクスクスと笑いながらフールが静かに声をかけた


フール「町長さんはこれから何か御用時ですか?」
町長「へ?い、いえ!朝食を取りに向かうところです!」
フール「まぁ、そうなんですか…よろしければご一緒しても構いませんか?」


その問いかけに町長は驚き慌てふためいた
朝からこのような美女と食事を共に出来るとは!


フール「あ、もしご迷惑なようでしたら…」
町長「え!?いえいえ!迷惑だなどとんでもない!貴女さえよければぜ、是非…っ」
フール「まぁ嬉しい!」


さぁ向かいましょう!
すっかり舞い上がってしまっているメイヤーはフールを引き連れ街中を歩き出した
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