美麗なる舞姫
ソウルラバーに引かれみるみる内にタウンホールへと近付く
このままでは壁にでもぶつかってしまうのでは
そんな不安にかられメイヤーは思わず目を強く閉じた
しかしジャックがそのようなミスをするはずなどはない
入り口へと近付くと素早く腕を引いた
装飾を掴むソウルラバーが離れジャックの身体が勢いをつけたまま中へと飛び込んだ
町長「ふおああああああ!!!!」
文字通り内部に転がり込んだジャックは体勢を立て直し立ち上がった
何か聞こえた気がするけど
そう考え振り向き足元を見つめた
そこには目を回し床に転がっているメイヤーの姿
ジャック「町長、大丈夫ですか?」
町長「うぅ…目の前がグルグルします…」
身を屈ませ頭をふらつかせるメイヤーの身体を引き起こした
それと同時に周囲に目をやる
タウンホール内は灯りもなく闇に包まれており、その様子を伺い知る事は出来ない
しかしジャックは何かの気配のみ感じ取っていた
それはきっと目的である彼女のものだろう
ジャック「奥にいるようですね…行きましょうか」
町長「は、はい…」
ようやく正常を取り戻したのかメイヤーは大きく頷くと先に歩みだしたジャックの後に続いた
ブギー「こいつら殴ってもキリがねぇなぁ」
向かってくる住人達を軽々といなしていたブギーは面倒くさそうに口を開く
飛び掛かる住人の頭を掴んで押さえつけるとふとタウンホールへ視線を向けた
そこに見えたのは扉の中へ素早く飛び込むジャックとメイヤーの姿
他の住人や一座連中はその事に気付いている様子はなく、陽動作戦は成功だと確信する
つまり自分達の役目は一応終わったのだ
かといってそのまま撤退、という行動に出る事はなかった
笑みを浮かべると押さえつけていた住人を適当に放り投げると大きな声をあげた
ブギー「お前ら~っ!ここからは自由にやっていいぞ!思う存分楽しんで来い!」
ブギーの号令を耳にした小鬼達は待ってましたと言わんばかりに掛け声を一つ
すると今まで住人達を翻弄するだけだった動きが一気に豹変した
3人は各自武器を構えると自ら迫り来る住人達の元に飛び込んでいったのだ
相手は大人だ
つかまってしまっては力の差から不利ではあったが、自らの小さな体を逆に生かしたのだ
素早い動きでならば大人達に負けはしない
それに合わせゴーストやスケルトンを召喚して手数を増やし、場はまるで戦場と化していた
楽し気な声をあげる小鬼達の様子を見てご満悦といった表情を浮かべるブギーだったが自身へ向かってくる気配を感じその場から軽く飛び退いた
見るとそこに立っていたのはウェアウルフ
そして彼を中心に立つ吸血鬼ブラザーズの姿
殺意剥き出しの表情で此方を見つめている
ブギー「こいつらならちっとは楽しめそうだなぁ」
嬉しそうに呟くと自らその距離を詰めていく
その距離が狭まるにつれウェアウルフ達の眼が怪しい光を帯び、各々の表情が殺気立つ
ブギーに襲い掛かる為ウェアウルフが身構えた
しかしそこで黄色い何かがその顔に覆いかぶさった
突然視界を遮られウェアウルフはその場で暴れだす
それは蝙蝠だった
鋭い爪が引き剥がそうと振るわれるが、その動きをかわすよう蝙蝠が素早く上空へと飛び去る
上空を待った蝙蝠はその姿を即座に変え、ブギーの隣へと舞い降りる
ブラム「遊んでいる場合ではないはずですがね」
ブギー「別にいいじゃねぇか、ジャックの野郎の頼みはもうきいてやったんだしよ」
ブラム「だからといって住人達と長くやりあっては彼らが傷付いてしまう…」
そう、彼らはただ操られているだけなのだ
出来る事ならばあまり傷つけるような事は避けたかった
ブギー「じゃあ一つ聞くがよ…お前あいつらを相手にただ逃げ回るだけで済ませろってのか?逆に疲れちまうと思うぜ」
他の住人達は戦う術のない者などが多く簡単にあしらう事は出来る
しかし今、目の前に彼らは違う
戦闘能力に長けた者ばかりだ
ウェアウルフは勿論、同じ吸血鬼で兄弟でもある彼らの強さは勿論ブラムも理解していた
ブラム「はぁ……まぁ、ほどほどに」
何を言っても無駄だろうと諦めブラムは溜息を洩らし呟いた
暗闇に包まれた空間に二つの靴音が響く
ジャックは周囲の様子に気を配りながら歩を進めていた
その後に続くメイヤーは不安げな様子で落ち着きなく周囲を見つめる
すると奥に光が見える事に気付く
ジャック「町長、気を付けてくださいね」
町長「わ、わかりました」
2人は警戒を続けながら光を目指し歩いていく
徐々にその距離が近付くと女性の笑い声が聞こえた
しかし何かがおかしい
ジャック達の耳に届くその笑い声は二つ
とても聞き覚えのあるものだった