美麗なる舞姫



屋根に着地すると同時にカツンと黒い靴の音がする
ジャックはふと足を止め片膝をついた
視界に映る街の景色
そこには目的地であるタウンホールが見えた


町長「うぅん…住人達の数が多いですね」


手をつき屋根の上から様子を伺っていたメイヤーは大いに悩んでしまった
タウンホールの中にどうやって侵入すればいいのか

入り口前には多くの住人達が集っている
そこでジャックはある違和感を覚えた

今まで見た者達とは違い、うろつく姿は一切ない
皆揃って立ち止まりタウンホールの入り口をただ見つめている


すると彼らの視線の先にある扉が静かに開かれた
そこから現れたのは数人の男達
旅の一座の者達だった

彼らは何も告げる事無く住人達の前に立ち並んだ

一体何が起こるのか

ジャック達はその様子を暫し眺める事とした



そのまま暫し時が流れたが何の変化も起きない
このままただ見ているだけでは埒が明かない
とにかく中へと侵入する為に行動しなければ

そう考え立ち上がろうとした時
住人達がざわめいた

開かれた扉の奥から姿を現した人物に多くの視線が向けられる

それはフールだった
黒一色の民族衣装を身に纏い、その顔はフェイスベールに包まれている

高いヒールを鳴らしながら前へと出ると、住人達はまるで神を崇めるかのように平伏した

フールは周囲を見渡すと溜息を洩らしすぐ傍に立っていた一座の男に歩み寄った


フール「街の連中はほとんど影響下にあるようだけど……肝心の彼はどうしているのかしら?」
男「そ、それが…捕縛するようけしかけたものの、逃げられたようで」


そこで男は頭部に痛みを感じ言葉を詰まらせた
フールが男の髪をひっつかみ睨みつけている


フール「…逃げられた?ワタシの聞き間違いかしら」


此方を射抜く鋭い視線に男の顔はすっかり青ざめ声を震わせた


男「で、ですがまだ打つ手はあるんだ!だからもう少しだけ時間を…」


男の必死な言葉にフールはつまらなそうに舌打ちすると男の髪を乱暴に離した

するとその場に集っていた住人達がまるで道を作るかのように左右にわかれた
奥から何かが歩いてくる

その正体を確認しようとジャック達は目を凝らす
近付いてきたのはウェアウルフ達の姿


町長「あ、あれは…っ」


メイヤーがある事に気付き慌てて其方を指差した
指し示した先に見えたのはクドラクの肩に担がれた何か

それはブラムだった

すっかり傷付き、気絶しているのだろうか全く動かない


ジャック「…あれは、ブラム」


その名を囁くと同時に骨の手に力がこもる
彼は自身を逃がす為に一人あの場に残り戦った

彼の願いを無視して自分もあの場に残り共に戦っていれば彼は今無事に隣に立っていたのかもしれない
過ぎた事を悔いても仕方のない事とはわかってはいるが…



フール「ふぅ…まぁいいわ、もう少しだけ時間をあげる…必ず彼を連れてきなさい、いいわね」


男達に指示するとフールは不機嫌な様子で再びタウンホールの中へとその姿を消した




町長「ジャック、どうしましょうか…」
ジャック「彼女があの中にいる事はわかりましたけど……ブラムをあのまま放っておく事は出来ませんよ」
町長「で、ですがあの人数ですよ?私はその、戦いには不向きですしいくらジャックとはいえ…」


彼の言う事は最もだった
いくらジャックが強く優れているとはいえ1人で群がる住人達相手にするのはあまりにも不利といえた







「おー随分賑やかじゃねぇか」



後方から突如聞こえた謎の声
2人はゆっくりとその場で振り向いた


ブギー「よぉ」


そこにはいつの間にか背後に接近していたブギーの姿
そして彼の背中につかまっている小鬼達がいた

突然の登場にメイヤーは驚き思わずその場で飛び跳ねた
その際にバランスを崩し屋根から足を滑らせる

自分が宙に浮かんでいる事に気付き、内心これで自分は何もかも終わった…と諦め目を強く閉じた


しかし彼は地面へ落ちる事はなかった
恐る恐る目を開くと身体が宙にブラブラと浮かんでいる

落ちる直前にメイヤーの襟首をブギーの麻袋の手が掴んでいたのだ



ブギー「何やってんだお前」
町長「は、はは…いや、まぁ…」


そんなメイヤーの様子を見て小鬼達がケラケラと笑い声をあげた


ロック「びびってるびびってる!」
ショック「ほーんと臆病よねー!」
バレル「流石ー!」


すっかり馬鹿にされてしまっている事にメイヤーは流石に怒りを覚え小鬼達に怒鳴ってやろうと声をあげかけた


ジャック「町長、あまり騒ぐと見つかりますよ」
ブギー「おう、お前らもちっと黙ってろ」

小鬼「「「はーい!」」」
町長「…す、すみません」


どうにも納得いかない…
そう考えるものの確かにここで騒いでは大変な事になってしまう
メイヤーはなんとか怒りを抑え込み口を閉じた








ブギー「…で、あの女の所に行こうって事になったわけかよ」


現在の状況を理解したブギーは屋根の上に座り込みなんとも面倒そうに答える
小鬼達も揃ってその長々しい話を最初は大人しく聞いていたが、その集中力はすぐに切れ現在は屋根の上から身を乗り出し集っている住人達に手を振るなどしてふざけ合っている

気が付かれては困るのでやめてほしいな

ジャックは1人溜息を洩らし小鬼達を軽々と抱えてはブギーの前に座り込ませていた


町長「で、ですが彼女にも何かしらの事情があったのかもしれませんし…そもそも彼女自身も住人達と同じく他の誰かに操られているかもしれないし、その」
ブギー「あーそりゃぁねぇだろうなー」


未だにフールの事を信じたいと願うメイヤーであったが、そんな彼の思いをブギーの一言が容赦なく切り捨てる


ブギー「この街の異変は確実にあの女の仕業だぜ、これだけは間違いねぇ」
町長「……やはり、そうなんでしょうか」


その会話を黙って聞いていたジャックだったがブギーの言葉に反論する事無いまま酷く落ち込むメイヤーを気遣うように肩に手をおく


本当に彼女の事が好きだったんだな


日頃から色々と関わりのあるメイヤーの恋だ
出来る事なら応援したい
しかしブギーの言う通りフールは明らかに今回の元凶だと確信しているのだ

街の異変を戻す為には彼女と対峙するしかないのだ


そんな事を考えていたが、ジャックはふとある事に気付いた



ジャック「……ところでブギー、ちょっと気になったんdなけど君達はどうしてここにいるんだい?」
ブギー「あ?……まぁそれは別にいいじゃねぇか、気にするな」
ジャック「気にするなって言われてもなぁ…理由をはっきりさせないと安心できないんだ、もしかしたら君達も皆のように操られているのかもしれないし」


ジャックの疑問は最もだった
住人達はすっかり豹変しありとあらゆる手をもって此方に襲い掛かって来たのだ
今目の前にいるブギー達がその影響を受けていないという確証はなかった


バレル「親分はやっぱり街の方が気になるって言って様子を見にきたんだ!オレ達は面白そうだったからついてきた!」
ブギー「おい、余計な事言ってんじゃねぇ!」


その怒声にバレルはしまったと自身の口を抑え込む
しかし既に手遅れ

ロックがこの馬鹿!と言わんばかりにバレルの頭をペチンと叩き、ショックは溜息を一つ漏らした
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