美麗なる舞姫
追ってくる住人達から逃れる為、ひたすら駆けていたジャック達だったが通りを曲がったところで一度足を止める
ジャック「皆しつこいな…町長、大丈夫ですか?」
声をかけながら視線を下ろすと膝に手をつき必死に呼吸するメイヤーの姿
そこでジャックはようやくある事に気が付いた
腕を掴み彼を引っ張り走って来たものの、よくよく考えれば自身と彼では歩幅が違いすぎる
ジャックの速度に合わせるのは相当辛かったことだろう
ジャック「あー…すみません、つい」
身を屈ませ必死に呼吸するメイヤーの背を何度か擦る
ようやく落ち着いたのかしっかりと身を起こすとコホンと咳ばらいを一つ
町長「私なら大丈夫です!…しかしジャック、これからどうしましょうか」
ジャック「フールの元へ行くにしろ彼女が何処にいるのかわからないと動きようがないですね」
まだ酒場にいるのか、それとも自身の家に戻っているのか
居場所が判明していない今の状態で動き回ってはすぐに住人達の眼にふれてしまうだろう
町長「フールさんの居場所……そういえば酒場で別れた後にタウンホールのある方へ向かっていく姿を見ましたけど」
ジャック「タウンホールですか……?町長、あの時家に戻ったはずなのに何でそんな事を知っているんですか?」
ジャックの問いかけにメイヤーは咄嗟に顔を赤らめた
何やらもじもじと落ち着きなく身をくねらせている
町長「そ、その……フールさんと、お話でも、と…」
ジャック「?…あ、もしかして彼女が好きなんですか?」
この人は普段恋愛ごとに鈍いのに何故こんな時に限って鋭いのでしょう…
そんな事を考えながらメイヤーはコクリと頷いた
町長「あ、で、ですがいくら好きな方とはいえ今回の問題を彼女が引き起こしたというのならば放っておくわけにはいきません!」
ジャック「そうですね、とにかく一刻も早くタウンホールへ向かわなくては」
早速移動しましょう
そういって住人の様子を伺う為に壁際からそっと顔を覗かせた
そこには此方を探しさ迷う者達の姿
再び走り抜けるか
しかしそれではジャックはともかくメイヤーがもたないかもしれない
そこでジャックはある事を思いついた
懐に手を入れ何かを漁り始める
メイヤーは何をするのだろうとその様子をまじまじと眺める
ジャック「そういえばこれがあったんですよ」
そう言って差し出されたジャックの手の中には瓶が一つ
中には何やら緑色の液体のようなものがつまっている
瓶の蓋に触れそっとあけた
開封された瓶の中に入っていた緑色の液体がうねり一気に外へと飛び出す
それはまるで生き物のように動きジャックの腕へと素早く巻き付いた
町長「な、なんですか?それ」
ジャック「これはソウルラバーといって博士の発明品です、なかなか役に立つんですよ」
ソウルラバーが巻き付いた腕を軽く振るう
その動きに合わせソウルラバーは鞭のようにしなり再びジャックの腕に絡みついた
ジャック「これを使って屋根の上を移動したらどうでしょうか、道を移動するより遥かに安全だと思いますよ」
町長「それは……名案ですね!!!」
なんと素晴らしい!!!
メイヤーは目を輝かせ最高の笑顔を見せた
ジャック「町長、振り落とされないようにしっかり捕まっていてください」
町長「な、なんだか申し訳ないですね…」
なんとも言えない表情を浮かべるメイヤー
それもそのはず
現在彼はジャックの背におぶさった状態だ
ソウルラバーはジャックが所持している為、その動きに安全について行くには彼にしがみつくしかなかったのだ
ジャックは腕を頭上に向け大きく振るった
その勢いに合わせソウルラバーが素早く伸びる
屋根の出っ張りを掴むと続けてジャックの身体が上空に向け引っ張り上げられた
高く跳びあがった途端メイヤーは驚き必死に燕尾服を掴む
屋根の上まで上がるとジャックはなるべく音をさせないように着地した
念のため下を覗き込む
そこには未だにうろつく住人達の姿
どうやら見つかってはいないようだ
ジャック「うまくいったようですね、このままタウンホールを目指しましょう…一応言っておきますけど落ちないように気を付けて下さいね?」
町長「が、頑張ります」
メイヤーが強くしがみつくのを確認するとジャックは屋根の上を駆けだした
夜空に浮かぶ月に細長い黒のシルエットが浮かぶ
ジャックは屋根の上を苦も無く軽快なステップで飛び越え突き進んでいく
飛び越えられない距離では彼の腕に装着されたソウルラバーが大いに活躍した
ふと足元を見ると先程よりも住人達の数が増えている
街の中央に近付くにつれ増えるその数にメイヤーは思わず息をのんだ
この状況下で手を滑らせ落下してしまったらあっという間に囲まれすぐさま捕まってしまうだろう
それだけはどうしても避けたい
その思いからジャックの燕尾服を必死に握りしめた