美麗なる舞姫



その素早い動きにジャックはその場で身を翻し寸でのところでその攻撃をかわす
空を切りフリッツはそのまま何もない地に飛び降りる
手をついた際に彼の鋭い爪が地面に突き刺さり抉れた

あんなものをまともに食らいたくはない

ゆっくりと立ち上がるフリッツの後ろ姿を見つめていたジャックは背後に気配を感じ、再び身を翻す
それと同時に細長い足を高く上げ、身を翻した勢いで感じた気配の元へと鋭く放った

気配の正体はカシング

フリッツに気を取られているジャックを背後から襲おうと飛び掛かったのだ
ジャックのはなった蹴りを腹部に食らったカシングはそのまま勢いをつけ後ろへと飛んだ

地へとぶつかりその身を転がす
しかし咄嗟に鋭い爪を地に突き刺しその勢いを緩和し転がる身はその動きをとめた

その地には爪で抉られた線がいくつも出来ていた

片膝をつき俯いていたカシングがゆっくりと顔をあげる
その口元は怪しく笑みを浮かべ牙が鋭く光っていた

フリッツと同じくまるで何事もなかったかのように簡単に立ち上がる姿を見て、ジャックは思わず心のうちで舌打ちを漏らす

どうやら彼らは痛みなど感じていないようだ


ジャック「気絶させるしかないかな…」


少々手荒な事になるけれど、その場から逃げる為
自分にそう言い聞かせ再び身構える

すると突然ジャックの眼前に何かひも状のものが横切った

一体なんだ

そう思ったのも束の間、突然身体が何かに巻き付かれた
咄嗟の事で対応できずにいたジャックは視線を下げた
そこには自身の身体を縛るロープ

慌てて抜け出そうとするがロープはジャックの身体をきつく締めあげ解ける事はない

これはまずい

力をこめ引き継ぎろうとするも何故かそのロープは余程頑丈なのか何も変化を見せない

同時に頭上から再び聞こえた笑い声
見るとそこにはウィッチズの姿
彼女達の手にはロープが握られていた

彼女達は魔女だ
普段から不思議な薬や怪しげな道具を作っている
そこでようやく気付いた
どうやらこのロープも何かしらのまじないでもかけられているのだろう


迫り来る吸血鬼達
両腕を封じられたジャックはどうするべきか困り果ててしまう

果たして今の自身の状態で彼ら手からうまく逃れる事が出来るだろうか

箒に跨ったウィッチズが手を上げると同時に巻き付いたロープがジャックの身体を締め上げる


なんとかこのロープを切る事が出来れば













するとその場を突風が襲った

その勢いにジャックは咄嗟に眼をつぶる
同時に何かが切れる音

ゆっくりと目を開く
見ると先程まで身体を縛り上げていたロープがほどけていく
どうしたんだと顔をあげるとウィッチズがロープを手放し跨っていた箒ごと地へと落ちてきた

足元に転がった2人は気絶し全く動かない


「大丈夫ですか!」

耳元で声が聞こえ顔を向けるとそこには一匹の羽ばたく蝙蝠


ジャック「君は…もしかしてブラムかい!?」

見覚えのあるその姿に聞き覚えのある声
それは吸血鬼ブラザーズの長男であるブラムのものだった

しっかりと此方が誰であるか認識し、喋る彼にジャックは思わず安堵の息をもらす


ブラム「街の皆が何やらおかしくなってしまい、気になって様子を見ていたのです…一先ずここを離れましょう!」


ブラムの言葉と共に倒れていたウィッチズが微かに動きを見せる
一刻も早くこの場を離れなければならない

するとブラムが素早くジャックの後方へと飛んだ
見るとカシングとフリッツの二人が腕を伸ばしジャックに触れようとしていたのだ

寸でのところで二人の前に飛び出すと彼らの視界を遮るように眼前を飛び回る

2人は邪魔だと言わんばかりにブラムを叩き落とそうと腕を素早く振るう
だがその動きを見切っているのかのように軽く避け、同時にフリッツの頭部に飛び乗ると髪を咥えて全力で引っ張る
その痛みにフリッツはたまらずその場で暴れだした
その様子を見ていたカシングが頭頂で暴れるブラムに向け拳を振るった
髪から口を離したブラムはその攻撃を軽々と回避し、目標を失った拳はフリッツの頭部へ直撃する
強い衝撃を受け目を回したフリッツはよろめきそのまま倒れ込んでしまった


ジャック「流石ブラムだ、やるなぁ」


その一連の流れを見てすっかり感心していたジャックだったが、突然肩を何かに掴まれ振り返る
肩を掴む者の正体はクドラクだった
ブラムの無駄のない動きに気を取られ彼の存在を忘れてしまっていたのだ
クドラクの青白い表情に怪しい笑みが浮かぶ

しかしその表情は次の瞬間見えなくなってしまう
クドラクの顔面にブラムが飛び掛かったのだ
自身へと意識を向けさせる為、ひたすらにクドラクの視界からジャックを隠すよう羽ばたく

彼の狙い通り、クドラクは眼前で羽ばたく蝙蝠を鬱陶しく思い両腕を素早く伸ばした

どうやら彼らは兄弟であるブラムの事もわからないようで、その動きに一切の容赦はなかった


ブラム「ジャック、行きましょう!」


遠慮なく振るわれる手から何度も逃れながら叫ぶと夜空へと舞い上がった
それを確認するとジャックは勢いをつけクドラク目掛けて駆け出す
頭上を飛ぶブラムにすっかり気取られ顔を向けていたクドラクは此方へ駆けてくるジャックに気が付く
しかし遅すぎた

顔を向けた瞬間、顔面に強い衝撃を受けたのだ
ジャックが地を蹴り高く跳ぶとクドラクの顔面を踏みつけたのだ
彼を踏み台とし高く跳び超えたジャックは着地すると同時に振り向く事なく走り出す

顔を押さえようやく振り返ったクドラク
だがそこには既にジャックの姿は無かった


ウィッチズがようやく身体を起こす
少し離れた場所でフリッツもまた同じくその身を起こした

彼らはジャックがその場から姿を消した事を確認すると、何も語る事はなく揃って歩き出した
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