欺瞞の薔薇



館内は既に数多くの来客で賑わいを見せていた

パーティーホールは黒を基調とした造りとなっており、かなりの広さをもつ
高い天井から吊るされている錐輝石で作られたシャンデリアが一際美しく輝く

そこにタキシードやドレスといった煌びやかな衣装を纏う貴族達が集い楽し気に語らう



そんな貴族達を眺める2人の影
それはジャックとブギーだった
2人はホールの入り口から少し離れた場所、通路の角から身を隠し様子を伺っていた


ジャック「うわぁ…また随分と多く招待したんだなぁ」
ブギー「…あの中に入るのかよ…この格好で」


ジャックがブギーへと振り返る
大きな黒のマントはブギーの身体を包むほど余裕があるもので、また帽子もマントによく似合っていた


ジャック「思ったよりも似合ってるけど?」
ブギー「こんなもんが似合ってても嬉しくねぇっての…」


ブギーはぶつぶつと文句を言いながら前に垂れる帽子の鍔を手先で軽く弾く
すると屈んでいたジャックが立ち上がり、改めて身なりを整える
どうやらホール内へ向かうようだ


ジャック「ブギー、改めて言っておくけど…」
ブギー「大人しくしてろってんだろ…了解了解…」


本当に大丈夫かな…
不安に思いながらもジャックはホールへと向かっていった





中へ入るとそこには既に多くの貴族達の姿があり、食事や酒を手に話を弾ませていた
するとある一人の貴族がジャックを見て驚いた表情を見せる
それにつられるように皆がジャックに気付き、ホール内が少々ざわつき始める


「なんと…ジャック・スケリントンではないか!」
「キングがここに来るなんて知らなかったわ…」
「いやいや…まさかお会いできるとは…!」


ジャックに気付いた貴族達が次々に声をあげ、傍へと歩み寄る
差し出される彼らの手がジャックの骨の手を掴み少々強引な形で握手を交わす
そうする事で他より少しでも自分という存在を印象付けようという考えだ

そんな彼らの行動にジャックは戸惑いながらも次々と手を取られる
そんな様子に気付き他の貴族達もジャックの存在を目にし、気が付けばジャックを囲うようにしてホール内にいる貴族達が集い始めていた


ジャック「あー皆?悪いけどそろそろ前の方に」

行きたいんだけど
そう告げるも皆の耳にその言葉は届いていないようだ
また一人新たな貴族がジャックの手を掴もうとしたその瞬間
ジャックの腕は別の何かに掴まれ高々と上へ上げられた

何事かと思い見てみると自身の腕を掴んでいるのはブギーだった
ジャックの腕を高く上げ、貴族の手から遠ざけたのだ


ブギー「貴族さん方よぉ…俺達は前の方に行きてぇんだよ、わかったらさっさと退きやがれ」


皆はそれがブギーだとわかると一気にどよめき、その場から慌てて後退る
それを確認したブギーはジャックの腕を掴んだままその貴族達の中へと押し入っていく
彼らはブギーに触れぬようにと距離を離し道を作った

その道を抜けホールの前方へと抜けたところでブギーはようやくその腕を離した
そして不機嫌そうに腕を組みジャックを見る


ブギー「お前なぁ…アイツらの相手なんかしてたらキリがねぇだろうが」
ジャック「まさかあそこまで集まるとは思わなくて…」


二人がそんな会話を交わしているとホール前方にある壇上にある人物が姿を現した
それは主催であるグリアス公爵だ

やはり黒の衣服を身に纏いホール内にいる貴族達を眺める
そして軽く指を鳴らすとそれを合図としホール内の灯りが消された

辺りが暗闇に包まれる
すると壇上をライトが照らし、皆が其方へと視線を向けた


グリアス「皆様…本日は私、グリアス・メアレの生誕パーティーに御越しいただき誠にありがとうございます」


その声を聞き未だざわついていた貴族達は彼の言葉に拍手を送った
そんな彼らの姿を眺めていたグリアスは前の方にジャックとブギーの姿を見つける


グリアス「さて、皆様既に存じておられるかわかりませんが…この度我が招待に応じ、パンプキン・キング…ジャック・スケリントン様がご来場されております」


その言葉と同時にライトがジャックの姿を照らした
眩しさに一瞬目を細める
するとそんなジャックの前に細い影
見るとグリアスが壇上から此方へと手を差し伸べている

ジャックは困った表情を浮かべブギーを見るが、そんな彼からは行ってこいと言うかのような壇上を指差す仕草

大勢が見ている最中拒絶するのも躊躇われ、ジャックは誘われるままに壇上へと上がった
壇上へと立つと皆の視線と歓声を浴びる
ジャックはあまり失礼がないようにと笑顔を浮かべ軽く手を振った


グリアス「王よ…皆へ何か言うべき言葉はありますかな?」
ジャック「え…うぅん、そうだな…」


ジャックは軽く咳払いをすると壇上から貴族達を見つめ語りだした


ジャック「今日はグリアス公爵の記念すべき生誕祭だ、僕も皆と同じく招かれた身ではあるけれどこのパーティーを是非皆と共に楽しんでいこうと思う!」


そう言い終えるとこれで満足かい?とグリアスに視線を向けた
彼は納得しているようでコクリと頷き笑みを浮かべる
貴族達はジャックの言葉が終わると同時に彼へと拍手を送った


ブギー「…随分と慣れてるじゃねぇか」


壇上から戻って来たジャックに静かに話しかける
ジャックはブギーの手からカクテルの入ったグラスを受け取るとそっと口をつける


ジャック「まぁこういった場に招待される事が多いからね…あれならグリアス公爵や貴族、何方にも角が立たないだろう?」
ブギー「確かにな、どっちに傾きすぎても後々争いになっちまう…これだから貴族とは絡みたくねぇんだよな」


ブギーはそう告げ食事を頬張る
確かにその気持ちはわかるな、とジャックは口に出しはしないものの考えていた
貴族同士の争いは非常に厄介だ
彼らの争いは時に周囲を巻き込む
それも彼らの住む地域の住民が被害を被る事が多い

こういった場に顔を出すジャックもそれは勿論理解しており、だからこそ誰一人として贔屓なく対等に扱おうと考えている
その為、貴族達の目のある場所では常に行動、言動に気を付けなければならない


ブギー「で?この後はどうすんだよ」
ジャック「そうだなぁ…このままただパーティーを楽しむのも悪くはないけど……今のうちにちょっと探りを入れるのもありだな」


それはウェーレンに頼まれていた事だった
黒色樹木の条例の件を問いたださなければいけない


ブギー「は!どうせあの野郎の事だ…裏で何かしらの悪さでもしてんだろ」
ジャック「うーん…ただ正面から問い詰めても正直に話すとも限らないしなぁ」


そこでジャックはある事を思いつく
ブギーのマントを引っ張り顔を近付け何やらヒソヒソと小声で何かを語り掛ける
それを聞き彼は驚き目を丸くするも、すぐさま何か思いつきにやりと笑みを浮かべる
そして了承するように頷いた


話がまとまったらしく2人はその場から別々の方向へと別れた
ジャックは他の貴族と語り合うグリアス公爵の元へ
ブギーはそれとは逆にホールの入り口へと向かった
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