欺瞞の薔薇





ブギーは静まり返ったその場に立ち地面を見下ろす
そこには力なく倒れた黒服達の姿

彼らの身体を包む黒い衣服からは血が滲み地面へと流れている
黒服の一人が胸元の傷を押さえながら必死に体を起こす
しかしその起き上がりかけた身体にかかる一際大きな影


ブギー「おいおい…ちゃんといい子にくたばれよ」


ブギーの手が黒服の頭部を掴む
そしてそのまま地面へとその頭を強く打ち付けた
強い衝撃を受け黒服はそのまま動かなくなる


ブギー「そうそう、やれば出来るじゃねぇか」


意識のないであろう黒服へと声をかけると、ブギーは気を取り直した様子で振り返る
そこにはもう一人の黒服の姿があった

その黒服は全身を影から伸びた腕に掴まれ身動きが取れない状態だった
なんとか逃れようと必死に身じろぐも掴む腕の力が増しきつい締め付けに苦痛の声を漏らす


ブギー「さぁてお前はどうしてやろうか」


腕を組み黒服の全身を眺める
すると黒服の顔を見た所でブギーはニヤニヤと笑みを浮かべながら覗き込む


ブギー「こりゃぁまたいい感じに焼け爛れてんなぁーなかなか恐ろしい外見になってるぜ?」


嬉しいだろ?
その言葉に黒服は苛立ちを露にし再び暴れだす
この世界で恐怖などの言葉はいい意味のものであり恐ろしいと言われるのは云わば誉め言葉だ

しかし黒服は喜ぶどころか苛立ち今にもブギーを切り裂かんばかりに爪を振るう


ブギー「褒めてやったってのに何が不満なんだよ……まぁいい!お前をどうするかようやく決めたぜ」


ブギーは暴れる黒服の首を掴み強引に引き寄せた
影から伸びる腕に掴まれた身体はその場に固定されている為、首のみを引かれる形となり黒服は苦し気な表情を浮かべる


ブギー「お前には質問に答えてもらうぜ?まずアイツを連れて行くとか言ってたな、何をやろうってんだ?」


黒服は口を閉じその問いかけに一切答えない
しかしすぐに口を開き声をあげる事となる
それは問いかけに対する回答ではなく悲鳴

黒服の腕を掴んでいる影の手が後ろへと強く引かれた
その腕は通常あり得ない角度に曲げられ、両肩からは凄まじい痛み

黒服は悲痛の声をあげながら呼吸を荒げる
そんな様子を眺めながらブギーは再度問いかけた


ブギー「しょうがねぇからもう一度聞いてやる、何をする気だ?」
「っ…し、知らない…我々はただ、彼を連れ帰るようにと…」
ブギー「…本当かぁ?嘘ついてたりしてなぁ~♪」


ブギーがいい笑顔を浮かべると影の手に力がこめられる
それに気付いた黒服は必死の形相で声をあげた


「ほ、本当だ!彼をどうするかなんて我々は知らされていない…っ!嘘ではない…っ!」


そのあまりにも必死な様子にブギーは相手が真実を述べていると考えた
これ以上何を問いかけても望むような答えは得られないだろう

そう考えブギーは黒服の首から手を離した


「た、助かった…」


命拾いしたと安堵した黒服だったが突然呼吸が出来なくなり驚く
自身の首に影の手が絡みついている


ブギー「助かっただぁ?お前何言ってんだ」


そう告げながら声をあげ笑うブギーの口から毒々しい色の蛇が顔を覗かせ黒服の眼前に迫った
それに怯える黒服を見て目を細め囁いた


ブギー「お前の出番はここでお終い、つまりは退場…勿論永遠にな?」
「ま、待って…っ」


そこで黒服の首があり得ない方向へ曲げられた
影の手が溶けるように消えると黒服の身体は地面へと落ちた






ブギーは振り返るとジャックの隣に歩み寄り、静かに身を屈ませる
肩に手をかけ軽く体を揺さぶるが何の反応も帰ってこない
そのまま右肩を掴むとジャックの身体を引き仰向けにした
そこで彼の左肩を見て思わず舌打ちする

明らかにひろがっている骨を染める黒


ブギー「…明らかに悪化してんじゃねぇか、この馬鹿が」


そう言ってジャックの額を手先で叩く
すると閉じられていた瞼が開かれブギーは驚き慌ててその手を引っ込めた

一応加減はしておいたが

まさか叩いた瞬間に目覚めるとは思わなかった
ブギーは叩いた事バレてねぇよな…とジャックの様子を伺う
しかし肝心のジャックは目を開けてはいるもののぼんやりとしたまま動かない


ブギー「?おーい…生きてるかー?」
ジャック「…あれ…もしかしてブギー?」


声を聞きジャックはようやく口を開いた
その言葉を聞きブギーは内心ほっとしたのか腕を組みいつもの調子で語りだす


ブギー「もしかしてだ?どこをどう見てもブギー様以外あり得ねぇだろうが」


すると突然ジャックが寝転んだ状態のまま右腕を上へとあげた
その手は何やら宙を彷徨っている

何やってんだコイツ

ブギーは不審に思いジャックを見下ろした


ブギー「お前何がやりてぇんだよ」
ジャック「……どうしよぅ、ブギー………目が」


目?
それを聞いてブギーは嫌な予感を覚え、ジャックの目の前で軽く手を振ってみた


ブギー「お前これ見えるか?」
ジャック「これってどれの事だ…?」


回答を聞いたブギーはマジかよ…とぼやきながら両手で顔を覆った
自分がいない間に何故こうも事態が悪化してしまっているのか

こんな事ならあの時キレて出て行くんじゃなかったと過ぎた事に対し溜息を洩らす


ジャック「ブギー、とりあえず…一度起こしてほしいんだけど?」


そういえば寝たままだったな
そんな事を思いながらジャックの腕を掴んで上体を起き上がらせる

辛そうな声を漏らし腹部を押さえる姿を見て、ジャックの上着を掴んで前を開かせる


ブギー「骨折が増えてる気がするのは俺の気のせいか??」


目は見えないが声ははっきりと聞こえる
これは怒りの混じった声だ
きっと腹部を蹴られ骨折した箇所を見たのだろう


ブギー「これをまさか?また俺が?治療するってのか?」
ジャック「…次はウェーレンに頼む」


そう告げた所でジャックはようやくウェーレンやエント達の事を思い出した
彼らは今どうしているだろうか
心配になり慌てた様子で立ち上がろうとする
身体が酷く痛んだが何とかその場に立つ

しかしそこで問題が起きた
立ち上がったはいいものの目が見えない今の自分ではウェーレン達の所まで行きつくのは非常に困難だ

どうしようと困った表情を浮かべる姿を眺めていたブギーは無言で細い腕を掴んだ
するとそのままジャックを引っ張り歩き始めた


ジャック「ちょ、ちょっと待ってくれブギー!足元がどうなってるかわからない!」
ブギー「それくらい感でどうにかしろ!腕掴んでやってるだけありがたいと思いやがれ!」
ジャック「歩くならせめてもっとゆっくり…っ痛いんだぞ!」
ブギー「しっかり骨押さえて歩け!」


止まる気配のないブギーに文句を言いながらジャックは痛む腹部を押さえる
そんなジャックの様子を見つつ、感でどうにかしろ等と言ったにも関わらず時折彼の足元に目をやる

別にコイツが心配だからじゃねぇ
ただでさえ弱ってやがるってのにこれ以上怪我でもされたら面倒なだけだ
そう自分に言い聞かせながらジャックの歩調に合わせて進んだ



今コイツの目が見えなくて本当によかった…
26/40ページ