欺瞞の薔薇
ジャックの挑発を受け黒服達が一斉に飛び掛かる
その黒服達を見据え、掌に浮かぶ小さな炎が突如大きく燃え上がる
その炎はジャックの手だけではなく腕、続いて身体と燃え広がりその身体は業火の炎に包まれる
するとジャックはあろう事か飛び掛かる黒服達の中へと自ら飛び込んだ
黒服の鋭い爪がジャックの身体へと素早く振るわれる
あくまで黒服連中の目的はジャックを連れ帰る事だ
身体への攻撃ながら怪我はするにしろ死にはしないだろうという考えだった
爪が身体に触れる
しかしその爪は微かにジャックのカカシの身体を掠り、目標を失って空を貫く
爪が触れる瞬間、ジャックはほんの僅かその身体の軌道を変えたのだ
そのままバランスを崩す黒服の背後に立つ形となったジャックは右腕を振るった
その右腕は黒服の首筋をとらえ長い指をその首へ絡ませる
「な、なに…~~~っっっ!!!!!」
黒服が戸惑い抵抗を見せた瞬間、掴まれた首が炎に焼かれる
肉の焼ける音と独特のにおいが立ち込め他の黒服達が思わず立ち止まった
首を掴む手を必死に離そうとするがそれに触れる手もまた炎に焼かれ悲鳴があがる
しかしその悲鳴も徐々に弱っていき、抵抗が薄れジャックはようやくその首から手を離した
黒服の身体はその場に倒れ込み、首や両手は酷く焼け爛れている
倒れ込んだその姿を一度眺めたジャックは、そのまま残る黒服達へと向き直る
「ひ、怯むな!相手は1人、しかも怪我人だぞ!?」
その怒声に黒服達は数人同時に飛び掛かる
互いに違う方角から同時に攻める事としたのだ
ジャックはその動きに合わせるかのように走り込み、突然右手を迫る黒服の一人へと向けた
掌を包む炎がその黒服へと放射されその顔面を包み込む
頭ごと灼熱に包まれ黒服は思わずその場に倒れ込み転がりまわった
続いて二人の黒服が爪を構え走り込む
ジャックはそれを見つめ動かない
うっすらと開かれた口から微かに炎を漏らし、黒服を見据える
その姿を見て恐怖心が芽生えたのか、爪を振るおうとした黒服の動きが一瞬鈍る
それを見たジャックはその場で細い体をクルリと回転させ振るわれる爪からすり抜ける
その動きはまるで舞うかのように華麗だった
ジャックの動きに合わせ身体を包む炎が周囲へと舞い散る
真っ赤な焔が周囲を囲うように燃え広がり黒服達を取り囲んだ
身動きを封じられた黒服達は何とか脱出できないものかとその炎をかき消そうとするが、周囲を囲うその炎は消えるどころかますますその勢いを増すばかり
ジャックは周囲の様子を眺めた
他の黒服達は皆傷付き倒れ込んでいる
それを確認すると全身を包む炎が消え、代わりに黒い光が一瞬包む
そこに現れた姿は骸骨姿のジャックだった
ジャック「こんなものかな…」
そう呟いた途端激しい眩暈を感じ思わず頭を押さえる
なんとか踏みとどまり辛うじて倒れたりなどはしなかった
ジャック「ちょっと、流石に…無理しすぎたな」
暫くして眩暈もおさまり頭を押さえていた手を下ろした
そこでジャックの表情が強張る
視界に映る左肩
今まで服の下に隠れていた黒い骨はその範囲をますますひろげていた
思わず前を開き服の中を覗き込む
その黒はジャックの首筋、そして左腕にまで及んでいた
ジャック「…エントの所へ、戻らないと」
一刻も早く彼らの元へと戻り治療法を聞かなければならない
そう考え山頂の方を見上げた
その途端ジャックの視界が揺れた
驚き背後を見るとそこにはジャックを羽交い絞めにする顔に火傷を負った黒服の姿
「つ、捕まえたぞ…っ」
黒服は火傷の痛みに耐えながらもジャックの身体を必死に押さえる
油断した
ジャックは黒服の腕から逃れようと身じろぐ
それに気付いた黒服は突然ジャックの膝裏めがけ体重を乗せた蹴りを繰り出した
ジャック「い…っ!!」
その衝撃にジャックは思わず声をあげその場に膝をつく形となる
黒服はそのままジャックの身体を地面へと乱暴にねじ伏せた
素早く細長い腕を後ろ手に掴み、逃げられないようにとその上に伸し掛かる
「これ以上抵抗しないでください、さもないと………骨を折ってしまいますよ?」
黒服は空いている片手を右肩へと添え、ジャックの耳元に低い声をかけた
感情の無い声だが、その目は本気だという事がわかる
そうでなくとも今の状態で抵抗をしたところで上から押さえつけられている以上、そう易々とは抜け出せないだろう
そこでジャックの顔に影が落とされる
見上げるとそこには首と両手に酷い火傷を負った黒服が立っていた
「ようやく捕まえたのか…この!!」
怒りの感情のこもった声を共に黒服はジャックの横腹を蹴り上げた
その重い蹴りをまともにくらい、何かが折れる音がした
そこで他の黒服達が駆け付け再度蹴りを繰り出そうとしていた黒服を押さえる
それはジャックが放った炎が消え失せ解放された連中だった
「放せ…っ殺してやる!」
「落ち着け、彼は殺してはならない」
「公爵の元へお連れしなければならない」
黒服達が次々と口を開く
ジャックはそんな彼らをぼやけた視界で見る
抵抗しようにももう身体が動かない
次第にジャックの意識も薄れ、眼窩がゆっくりと閉じられる
「死んだのか?」
「いや…だがこれで余計な真似をされずにすむ」
押さえつけていた黒服がそう告げ後ろでに抑えていたその手を離す
解放されたその骨の腕は力なく地面へと落ちた
「公爵の元へ急いでお連れしよう…時間がかかりすぎてしまった」
そう言って倒れたままのジャックの身体を抱えようと手を伸ばす
しかしその手はジャックに触れる事はなかった
黒服の腕は何者かの手に掴まれていた
その手は黒服自身の影から伸びている
「な…なんだ…っ」
黒服は動揺し思わず声を震わせる
手は力強くその腕を掴みその影から次第に大きな何かが姿を現す
ブギー「よぉ…楽しそうな事やってんじゃねぇか」
影から現れた上半身
それはブギーのものだった
黒服の影からゆっくりと全身を出し、その姿に黒服達はどよめき距離を置く
掴まれている黒服はその手から逃れようと腕を振るうがブギーの力は強く動かす事すら出来ない
黒服の抵抗を全く気にせず、ジャックを見下ろす
完全に意識がないらしく微動だにしない
ブギー「おい、テメェら…コイツにこれ以上手を出すんじゃねぇ」
「貴様には関係のない事だ、彼は我々が連れて行く」
ブギーはわざとらしく大きな溜息を吐いて、掴んでいた黒服の腕を突然引っ張る
その行動に反応しきれず黒服はブギーの懐に入り込む形となった
途端黒服の首が締め上げられる
ブギーが首に腕を素早く回していたのだ
物理攻撃に対し耐性を持つ黒服とはいえ、首を絞められれば呼吸が出来ず死ぬ事となる
ブギー「それが関係あんだよなぁ…コイツのお守り役になっちまってるもんでな」
その言葉と同時に骨が折れる音
抵抗していた黒服は動きを止め、ブギーの足元に崩れ落ちた
それを見た残る黒服達が慌てて爪を構える
ブギー「なんだ、やる気か?…ならさっさと済ませてぇからまとめてかかって来いよー?」
ブギーは黒服達の構える姿を見ても動じる事無く、なんとも気の抜けた声を出す
それが癇に障ったのか黒服達がブギーに対し見てわかるほどの怒りの感情を露にした