矮小猫のおまじない
墓場を離れた2人は再びハロウィンタウンの門をくぐり街中へと足を踏み入れた
小さなジャックを囲っていた住人達の姿はそこにはなく、ジャックはほっと胸を撫でおろす
サリー「今なら問題なく行けそうだわ」
周囲の様子を何気なく見渡しサリーが呟く
ジャックはフードをしっかりと被り、サリーの指をしっかりと握って研究所へ
ショック「あらぁ?サリーじゃない」
向かおうとしたのだが声をかけられ立ち止まる
そこにはショックが立っていた
ロックやバレルの姿は近くに見えず1人だとわかる
サリー「あ、あら…珍しく1人なのね」
ショック「ウィッチズの所に買い物しに来たのよ」
そう言いながらショックはサリーの横へと視線をずらす
黒いコートに身を包んだ見慣れない子供
ジャックはサリーの背後に身を隠すようにしながらショックの様子を伺う
ショック「そいつ誰なの?初めて見るけど」
サリー「あ、えっとこの子は…」
質問を投げかけたがその答えも聞かずにショックは歩み寄る
そしてまじまじとコート姿の子供を見つめる
ジャックはその視線から逃れる為にサリーの背後に隠れたままだった
そんな彼を見てショックは忌々しげな表情を浮かべた
サリー「あの…私達今急いでいるの、だから」
ショック「ちょっとアンタ!なにコソコソ隠れてんのよ!」
サリーの言葉を遮るようにショックが声を荒げた
それと共にジャックのコートをいきなり掴み引っ張りだす
サリー「あ、駄目よ!」
ショック「それになによ、そんな大きなコートなんか着ちゃってさ!アンタかなり怪しいわよ!」
言われてみれば確かに怪しいかもしれない…
サリーはショックを止める事無くついそう考えてしまった
その間サリーを中心とした小さな二人の追いかけっこが繰り広げられていた
フードを押さえ逃げるジャックとコートの裾を掴んで追いかけるショック
ジャックがいくら走ろうともショックはコートの裾を決して離そうとはしない
バレル「あ、ショックだ!」
ロック「何やってるんだよー!」
その声に2人は思わず足を止める
聞こえたのはロックとバレルの声
2人は小走りで此方へと向かってきた
なんという事だ…
ジャックは深い絶望感に襲われた
最悪な事にその場にブギーの子分、小鬼トリオが集結してしまったのだ
住人がいなくなったと思ったら今度はこの子達…こっちの方が厄介だ!
ジャックはサリーの手を掴んで何とか逃げ出そうと考えた
するとそこで急に体が後方へと強く引かれた
バランスを崩したジャックは思わず尻もちをついてしまう
何事かと驚いて後ろを見ると、ショックがコートの上に飛び乗ってニヤニヤと此方を見下ろしていた
ショック「ほら観念しなさいよね!」
ロック「誰だ?コイツ」
ショック「誰だか知らないけどやたらと顔を隠すのよ、怪しいじゃない?」
バレル「確かに怪しい~…」
ショックの元に駆け寄ってきたロックとバレル
3人が会話を交わし、ジャックを見下ろしてニヤリと笑みを浮かべる
そして
ショック「やっちゃえーっ!!」
その掛け声と共にロックとバレルが一斉にジャックに飛び掛かった
ジャックは逃げようとしたがショックがコートを押さえている為その場から身動きが取れない
サリー「あ、あの!3人ともやめてあげて!」
サリーが慌てて小鬼達に声をかけるが時すでに遅し
飛び掛かったロックとバレルが逃がすまいとジャックの両腕を掴み、ショックがフードに手をかける
そして彼女がその手を強く引いた
ショック「え…ちょっとアンタ…」
ショックが掴んでいたフードが彼女の手から落ちる
同時にロックとバレルの二人は目を丸くし掴んでいた腕から手を離した
ロック「なんかコイツ…」
バレル「ジャックにそっくり!!!」
フードを取り払われ露になった顔に3人は揃って驚きの表情を浮かべていた
それもそのはず
目の前に現れた子供はジャックに瓜二つの姿
サリー以外に見られてしまった
しかもよりによって問題児である小鬼達にだ
最悪だ
すると突如ジャックの身体が宙に浮いた
同じ背丈だった小鬼達が小さく見える
そして見上げるとそこにはサリーの顔
ジャックはそこで彼女に抱き上げられていると気付いた
サリー「貴方達!もうやめて!」
ショック「ちょっと邪魔しないでよ!」
ロック「そいつジャックにそっくりだしなんか怪しい!」
バレル「オレ達で調べてやるんだ!」
小鬼達が次々とサリーに抗議し始めたが、彼女はいつもの優しい口調を少々荒げ足元に纏わりつく小鬼達に声をあげた
サリー「駄目なものは駄目よ!これ以上は許さないわ!」
しかしこの3人がそんな事で納得し解放するわけなどない
これ以上は何を言っても無駄だと理解したサリーはジャックをしっかりと抱えたまま研究所へと走り出した
逃げ出した二人を逃がすまいと小鬼達がすぐさまその後を追いかける
小鬼達は小柄な為動きが素早い
しかしサリーとの体格差、歩幅の差がありその距離は徐々にひろがっていく
研究所の入り口に辿り着いた頃には小鬼達の声は遥か遠くから聞こえるほど距離があいていた
サリーは素早く研究所の中に入り込み、扉を静かに閉めた
サリー「ふぅ…無事に逃げられたわ」
ジャック「助かったよサリー…」
2人して安堵し、博士の待つ上階へと続く長い階段を上り始める
サリー「あの子達に見られちゃったわね」
ジャック「最悪だよ…まだ僕だって完全にばれたわけじゃないけど、なんだか嫌な予感がする」
サリーは不安そうな表情を浮かべ、ジャックを抱きしめる腕の力が微かに強まる
今のジャックはこんなにも小さい
いつもの彼のように何かあっても自分の身を守る事は厳しいかもしれない
私が守らなくちゃ
サリーは心の中でそう決意した
ジャック「それよりサリー…ちょっと頼みがあるんだけど」
サリー「なに?私に出来る事ならなんでも」
ジャック「あー…そろそろ下ろして欲しいんだけど、いいかな?」
そう言われサリーは逃げる為に彼を抱き上げたままだった事に気付いた
慌てて謝罪しながらジャックをその場に下ろす
乱れたコートを軽く整えジャックは笑顔で彼女を見上げる
ジャック「謝る事はないよ、君のおかげであの場から逃げる事が出来たんだ」
ありがとう
その言葉と共に手を繋ぐ
彼を困らせてばかりだと思っていたサリーにとって、それはとても嬉しい言葉だった
こんな自分でも彼の役に立てているのだ
小さな彼に手を引かれ、2人は博士の待つ上階へ向かうべく長い階段を駆け上がっていった