矮小猫のおまじない





サリー「本当にごめんなさい…もう大丈夫?」
ジャック「ああ、もう平気だよ」


力強い抱擁から解放されたジャックは落ち着きを取り戻し、サリーと共に枯れ木の根元に腰を下ろしていた


ジャック「本当に突然だったんだ、今朝起きたらすっかり小さくなっていて…」
サリー「そうだったの…一体何が原因なのかしら」


事情を聞いたサリーは原因を必死に考える

まず昨日、魔女が訪れた際にジャックはいつも通りの姿だった
そしてそのまま別れ、今現在幼い子供の姿になってしまっている

サリーは昨日別れてから今朝ジャックが目覚めるまでの間に何か起きたのではないかと考えた


サリー「ジャック、昨日別れてから何か変わった事はなかった?」


ジャックはそう言われ昨日の事を思い出す
墓場でゼロとたっぷり遊んで帰宅して食事をして、その後は寝る前にベッドで本を読んでいたくらいだ


ジャック「うーん…特に変わった事はなかったと思うんだけど」
サリー「そう…困ったわね」
ジャック「そういえばサリー、君はどうしてこんなところに?」


ジャックに問いかけられサリーは仕舞いこんでいたある物を取り出し、ジャックに静かに見せた


ジャック「イヌホオズキ…ああ、サリー」
サリー「ご、ごめんなさい…でも最近はあまり使ってはいないのよ?」


サリーは昔から博士に束縛される度、自由を得るためにイヌホオズキの毒を彼のスープに混入しては脱走を図っていた
あのクリスマスの事件以降は博士も彼女に対し寛容になったようではあったが、それでも時々サリーに外出の事を咎める事はある

その際はやはり昔のようにイヌホオズキを使用しているようだった


ジャック「あまり、ね………うーん、あれはなかなか酷いものだったなぁ」


ジャックが語る酷いもの、それは勿論イヌホオズキの事だ
彼もサリーにイヌホオズキを盛られた経験があった

何かに夢中になると睡眠も食事も忘れる傾向のあるジャックにサリーは何度も忠告をしたことがあった
しかしそんな忠告を彼は聞く事はなかった

その際に強硬手段としてサリーが使用したのがイヌホオズキだった
サリーが出した飲み物を疑う事もせず飲み干したジャックはそのまま深い眠りについた
そして目覚めるとそれから一日中酷い頭痛に悩まされたのだ


サリー「あ、あの時は…だって貴方が無理ばかりするんだもの……」
ジャック「まぁあれは僕が君の忠告を聞かなかったのが悪かったんだし、過ぎた事だからね」


申し訳なさそうにするサリーに気にしないでと笑顔で宥める
それと同時にきっと近いうちにイヌホオズキを盛られるであろう博士に心の中で深く同情した



サリー「そういえば、貴方はなんでここに来ていたの?」
ジャック「……あ」


そこでジャックはようやく当初の目的を思い出した
原因究明の為に博士の研究所を目指そうとこんな変装までして外へ出たのだ

もしかしたらサリーが協力してくれるかもしれない
そう考えジャックは彼女の手を取る


ジャック「そうだ、サリー!君に頼みがあるんだけど…聞いてくれないかな」
サリー「ええ、私に出来る事なら…何をすればいいの?」
ジャック「僕を博士の研究所まで連れて行ってほしいんだ、最初は1人で行こうとしてたんだけど…街の皆に囲まれて正体がばれそうになって」


それで彼らから逃げてきたのね
ジャックの言葉を聞きサリーはそう理解した
黒い大きなコートに身を包んだ子供が街中にいれば目立つし、それに気付けば彼らは興味を沸かせ寄ってくるだろう


サリー「私が責任をもって貴方を研究所へ連れて行くわ」
ジャック「本当かい?ありがとう!」


ジャックはとても喜び思わず跳ねるように立ち上がった
そんな彼を見て可愛い人と内心呟きながら微笑ましく見つめる
するとそんな彼女の眼前に見えたのは小さな手


ジャック「さっそく研究所へ向かおう!」


視界に映ったのは優しい笑顔で手を差し伸べる幼いジャック
それはサリーがよく知るジャックそのものの姿だった

目の前の手に自らの手をそっと重ねる
普段のジャックのそれはサリーの手を簡単に包み込むほどの大きなものだった
しかし今の彼の手は彼女の指先を握る程度

可愛らしくしかししっかりと指を掴むその小さな手に笑みをこぼした
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