矮小猫のおまじない




サリーを抱えたままジャックは研究所へ飛び込むと足早にスロープを上がっていく
その間サリーがジャックに声をかけるも彼の耳には届いていなかった


ジャック「博士!」
博士「ん?おおジャック!元に戻ったようじゃな!!」


扉を開き現れたジャックの姿を見て博士は大いに喜んだ
しかしそれも束の間、何故サリーを抱きかかえているのかという疑問を抱く


博士「しかしサリーを抱えたまま来るとは…何かあったのかね?」


その言葉にジャックは腕の中にいるサリーにようやく気付き慌ててその場へと下ろす


ジャック「ご、ごめんよサリー…こほん、博士!実は貴方に言わなければならない事があります!」
博士「ワシに言う事?なんじゃ?」
ジャック「博士!僕はサリーと結婚します!!」



その言葉にその場が静まり返った
サリーは彼が何を言ったのか一瞬意味が理解できなかった
しかし少々遅れてようやく言葉の意味を理解した途端、彼女の顔は一気に赤く染まった

一方博士は口を開いたまま何も言えずにいた
奴は今なんといった
結婚
サリーと結婚?


ジャック「あれ…どうしたんだい二人とも!?」


その場が静まり返った事に気付いたジャックはサリーと博士に慌てて声をかける

そんなジャックに博士は少々動揺しながら声をかけた


博士「ジ、ジャック…まずは一度落ち着け、そしてもう一度ワシに言いたい事を言ってみてくれんか」
ジャック「僕は落ち着いてますよ!サリーと結婚するんです!」
博士「…………………馬鹿もん!ちっとも落ち着いとらんではないか!!!」


堂々と発現するジャックの声量に負けないほどの声で博士が叫んだ
その声にジャックは思わず自身の耳を手で塞ぐ


博士「元に戻って早々に結婚じゃと!?何を言っとるんじゃ!!」
ジャック「聞いてください博士!僕は本気ですよ!!」
博士「ええい!話はこれで終いじゃ!」


そう告げ博士は車椅子を動かし奥の部屋へと向かう
ジャックはそんな彼を慌てて追いかけた


その場に残されたサリーは未だに赤い顔を両手でそっと包む
触れると十分に熱をもっているのがわかる
彼の発言はあまりにも突然の事だった

それに驚いたのは事実
しかしそれと同じくらい、それ以上ともいえる嬉しさが彼女の心を埋め尽くしていた










ジャック「博士!話は終わっていません!」
博士「ええい…っしつこい!」


ジャックは博士の前に回り込むとこれ以上進ませまいと車椅子を押さえた
目の前にいる博士に向け再度口を開く


ジャック「何故認めてくれないんですか!あの時孫が見たいって言ってましたよね!?」
博士「…ああ、確かにそう言った!じゃがあまりにも急すぎるじゃろ!何でそう急ごうとするんじゃ!もっと時間をかけてしっかり考えるべきじゃろ!」
ジャック「それは!…それは彼女と離れたくなかったから…」


その言葉に博士は出かかった言葉を飲み込む


ジャック「僕の身体が小さくなってから彼女と共に過ごしてようやくわかったんです…彼女と常に一緒に、共に過ごしたいって改めて思ったんです」
博士「…それですぐさま結婚しようとしたのかね」
ジャック「だって…僕が元に戻った今、彼女は研究所に戻ってしまう……ずっと一緒にいたいのに」


それ以上ジャックは喋る事はなかった
博士はそんな彼を見て溜息を吐き、車椅子を押さえる彼の手を軽く叩いた


博士「好いた者と共に過ごしたいという気持ちはわかる…じゃがな、二人ともまだ若い…もう少し時間をかけ互いにしっかり話し合って決めるべきではないか?」
ジャック「……やっぱり急過ぎましたか」
博士「ああ、あまりにも急ぎ過ぎじゃ…サリーは何処にも逃げはせん、いつでも会えるじゃろう?」


博士の言葉にジャックはようやく顔をあげた


博士「…ワシはサリーを娘のように思っとる、出来る事なら離れてほしくはないと考えておるよ」
ジャック「博士…」
博士「じゃがそれ以上に幸せになってほしいとも思っておる、好いた相手と幸せになれるようにとな……じゃが今回はお前1人のみで先を急いでおる、それではサリーはやれん」


博士の話を真剣な表情で聞くジャック
そんな彼を見上げ博士は珍しく笑みを見せた


博士「今は時間を置き落ち着いたらサリーにしっかり話すんじゃ、先程の様子からすると事前に知らせてはおらんかったんじゃろう?」
ジャック「あー…そう、ですね…驚かせちゃったかなぁ」
博士「二人がしっかり将来について語り合い、それで互いを求めるというならその時はワシも認めよう…いいな?」


博士はそう告げるとジャックの腕に手を添える
ジャックは博士へ笑みを見せ頷いた













その後、ジャックは驚かせてしまった事をサリーに謝り自分の家へと戻る事となった

残されたサリーはそんなジャックの背を何処か寂し気に見つめていた






その日の夜
サリーは眠りにつこうと横になっていた
すると静かな部屋に扉をノックする音が聞こえる

なんだろうとサリーが身を起こすと扉が開かれ博士が姿を見せた


サリー「博士、どうしたんですか?」
博士「少しお前と話がしたくてな…」


そう告げると博士は室内に入りサリーの横へと移動する


博士「ジャックと共に過ごしてどうじゃった」
サリー「…あの時のジャックは呪いのせいで大変だった、だからあまりこういう事をおもっちゃいけないのはわかっていますけど……彼と共に過ごせて幸せでした」
博士「そうか、幸せじゃったか」


たった数日だけだったけれど、それでもサリーにとっては幸せな時間だった
サリーの手に自らの手を添え、優しい声色で語り掛ける


博士「サリー…ジャックにも言った事じゃが今のお前達の結婚は認めるわけにはいかん……何も聞いていなかったのじゃろう?」
サリー「は、はい…私驚いてしまって」
博士「…いいかね、サリー、ワシはお前に幸せになって欲しいと思っておる…」


博士の指がサリーの髪を鋤く
サリーはそんな博士をしっかりと見つめた


博士「暫く時間をおきジャックとよく話し合いなさい、そして互いが必要じゃと思えたなら…ワシはお前達の事を認めよう」
サリー「博士…っ」


サリーは博士の言葉に涙を滲ませた
彼の発した言葉は嘘偽りなく本心

その事がサリーには何よりも嬉しかった


博士「…すまんな、本来ならばすぐにでも認めた方がお前も嬉しいんじゃろうが」
サリー「いいえ…」


髪を鋤く博士の手に自らの手を添える
そのサリーの表情は涙混じりではあったが美しい笑顔を浮かべていた


サリー「いいえ、博士…貴方のその気持ち……凄く、凄く嬉しい…っ」
博士「そうか…………さて、起こしてすまなかったな、さぁ…眠るといい」


サリーは涙の滲む目元を一度擦ると博士の言葉に頷き、再び横たわる
それを確認して部屋から出ようとした博士だったが彼女の小さな言葉に一瞬動きを止める


サリー「おやすみなさい……お父様」
博士「……おやすみ、サリー」


博士はサリーの囁きに答えると静かに扉を閉じた
64/64ページ