矮小猫のおまじない




魔女「では…準備はよろしいですか?」
フォラス「ああ、いつでも構わない」


地下に2人の声のみが響く
ジャックは少し離れ隅に置かれた樽の上に座り込んで二人を見つめる

魔女が眠るカイヤの身体に静かに手を翳す
その手が淡い光を纏うと魔女の小さな声が聞こえる

それは呪文だ
その呪文の言葉に合わせるように魔女の手がカイヤの上を流れるように動く

空いている方の手で小瓶の蓋を開いた




カイヤの身体が魔女の手と同じく淡い光に包まれ台から微かに浮き上がる
するとカイヤの胸元が眩く光り、その光から大量の魔力が溢れ出した

溢れ出た魔力は魔女の手の動きに合わせまるで小川のように流れ小瓶の中へと注がれていく

それに合わせてフォラスがカイヤの身体に手を重ねる
目を閉じ意識を集中させ、体内を巡る魔力が掌へと流動する

その魔力がカイヤの光の中へと慎重に注ぎ込まれていく
多くとも少なくとも引き出される魔力の量と合わなければカイヤの中の魂石は傷付いてしまう

ジャックは1人、その光景を見つめ息をのんだ






どれほどの時間が経っただろうか
魔女がカイヤへ翳していた手を静かに離す
引き出された魔力は最後の一滴も残さず小瓶の中へと流れ込んだ
フォラスもそれを見届け大きな手をカイヤから離す


フォラス「…上手くいっただろうか」
魔女「…彼の魔力は全てこの小瓶に」


そういって動かないカイヤを見下ろす
大丈夫だろうか

するとカイヤの閉じられていた瞼が微かに震えた
そしてゆっくりと瞼が上がり、大きな丸い目が現れる


魔女「カイヤ!……よかった…っ」


カイヤが無事な事に魔女は声をあげその小さな体を抱きしめた
目覚めたばかりのカイヤは何が起こったのかなど知らず
しかし魔女に抱きしめられている事がわかると嬉しそうに可愛らしく鳴き声をあげた


ジャック「よかった…」


それを見届けていたジャックもまた安心し胸を撫でおろす
甘えるように身体を擦り付けるカイヤを台へおろすと魔女はジャックへと振り返り両手を差し出す
その手の中には魔力が詰め込まれた小瓶
中の光は最初に見たものより輝きを増し、小瓶の中には大量の魔力が渦巻いている


魔女「この小瓶の蓋を開けば魔力は貴方の中へと戻る、新たな魔力を生み出す為、またその魂を守る為に巡り始める」


魔女はその言葉と共にジャックへ小瓶を手渡した
ジャックは小瓶を受け取ると一度フォラスを見上げる
目が合うとフォラスは彼に笑みを浮かべ頷いた


それを見届けると小瓶に手をかけ

静かに蓋を開けた


小瓶の中から魔力の渦が流れ出す
その渦はジャックの小さな体を包み込み、その場が一瞬眩い光に包まれた





突如目の前を包んだ光にフォラス達は咄嗟に目を閉じた
その光が徐々に治まり地下は再び薄暗さを取り戻す


フォラス「…ジャック、無事か?」


そう告げながら閉じていた目を開く
そして開かれた目に映った姿にフォラスは言葉を失った



そこには背丈のある細身の身体に長い手足

皆の知るジャック・スケリントンの姿があった




魔女「…よかった…成功です!」


魔女はその姿を見るなり声をあげ喜び事態を把握していないカイヤを抱き上げた


ジャック「元に…戻れた…」


ジャックは数日ぶりである自身の元の身体を眺める
そしてその身を包みきれていない小さな服に思わず苦笑してしまう


フォラス「…ジャック」


名を呼ばれ正面を見ると目の前にフォラスが立っていた
元の姿に戻ってもやはり彼の身体を大きい


ジャック「やぁフォラス・・・無事、元に戻る事ができたよ」


そう言って笑顔を見せたジャックだったが突然フォラスに抱きしめられた
その逞しい腕は彼の身体を愛おし気に包み、背を大きな手で撫でる


フォラス「おかえり…ジャック」


耳元で囁かれた声
その声は微かに震えていた


ジャック「うん…ただいま」


その言葉と共に此方を抱きしめる彼の大きな背に腕を回した













ダンタリ「…ふむ…そろそろ終わる頃だろう」


ダンタリアンが時計を眺め呟いた
椅子に腰掛け地下へと向かったジャック達を待っていたサリー、ブギー、レライエがその声を聞いて地下への扉を見つめる


すると突然その扉が勢いよく開かれた
そこから飛び出してきたのはフォラスだ


レライエ「フォラス、ジャックの解呪は無事終わりましたか?」
フォラス「すまない!ジャックの服はないか!」
レライエ「…え、服ですか?」


フォラスの言葉に皆がサリーへと視線を向ける


サリー「彼の服なら上の部屋のクローゼットに…」


サリーの言葉を聞くとフォラスは全力疾走で上への階段を駆け上がっていった
その場にいる全員が呆然とする


レライエ「…凄く慌ててましたね」
ブギー「…あー…そういう事か」


ブギーは何事か理解したらしくニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている


ダンタリ「どういう事だ」
ブギー「え?なに?まさかお前わかんねぇの?…ダンタリアン様ともあろうお方がわからないなんてなぁ~」
ダンタリ「喧嘩を売っているのなら喜んで買うが?」


ダンタリアンが本を手に持つ
それを見たレライエが慌ててその本を取り上げ彼に取られないようにと腕を高く上げる


サリー「ブギー…もしかして」
ブギー「おう、解呪が無事終わって身体が元に戻ったんだろ?でアイツはガキ用の服を着てたから…」


その言葉に今のジャックの状況を考えサリーは少し顔を赤らめる
ブギーはさぞ間抜けな恰好になってるだろうと笑いをこらえている

そんな会話をする中、地下へ続く扉からひょっこり頭だけを出す者の姿


ジャック「ちょっといいかな!フォラスが何処にいったかわかるかい!?」
ダンタリ「お前の服は何処だと言って上へと向かったが…ジャック、なんだその姿は」
ジャック「いや…身体が元に戻ったのはいいんだけど」
ブギー「服は小さいままだもんなぁ~そんな恰好じゃぁ外には出られないよな~」


開かれた扉に身体を隠しているものの、ダンタリアンやレライエが立つ方向から見れば丸見えだ


魔女「あ、あの!私のローブでよければお貸しします!!」
ジャック「え、いや!大丈夫だよ!フォラスが僕の服を取りに」


魔女の気遣いは嬉しいが彼女の身体のサイズに合ったローブだ
勿論ジャックに合うはずがない

すると上の階からフォラスの声が聞こえた


フォラス「ジャック!すぐに持っていくぞ!」


その言葉に安心したのも束の間
何かが派手に破壊される音


フォラス「す、すまない!クローゼットが…っ!」


クローゼットを見つけたはいいものの、どうやら開く際にフォラスの怪力で破壊されたようだ
慌てていた為か力の制御に失敗したらしい


フォラス「なんという事だ…すまない!これは俺が責任もって修理を」
ジャック「それは後でいいから早く僕の服を持ってきてくれ!!!!!」


たまらず上の階へ向け叫ぶジャック
ブギーはたまらず腹を抱えて笑い、サリーは自分も行くべきだろうかとその場で狼狽える
レライエは思わず苦笑し、ダンタリアンは頭を抱え深く溜息を吐いた
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