矮小猫のおまじない




ダンタリ「却下」


バッサリと切り捨てるかのように冷たく言い放たれた言葉

ブギーを復活させたジャック達は小鬼を家に戻すと早々にダンタリアン達の元へと戻ってきていた
帰宅するや否や2人は解呪についての事をダンタリアンに掛け合ったのだ


結果、彼の出した答えは2人が予想した通りのものであった


ダンタリ「何を言い出すかと思えば…私が了承するとでも思ったのか?」
ジャック「まぁ正直言うと無理だろうなとは思ってたけどね」
フォラス「ダンタリアン、頼む」


フォラスが再度頼み込む
しかしダンタリアンはそれに頷く事はない


ダンタリ「あれは魔女1人でやってもらう、そうしなければ罰にはならん」
フォラス「しかし俺が手を貸せばそれだけ早くジャックの魔力が戻る」
レライエ「フォラス、魔女の犯した罪の詳細は聞きましたか?」


その言葉にフォラスは頷いた
魔女が犯した罪
それは寿命への干渉
ダンタリアンが見逃し解呪と引き換えに見過ごす事とした重罪
本来なら捕らわれ処罰されてもおかしくはない


フォラス「彼女が犯した罪は確かに重いものだ、だがよく考えてみてくれ…ジャックは王だ、その王の魂を無防備に晒したまま過ごせというのか?もしも今敵に攻め入られればどうなる」


ダンタリアンは軽く頭を押さえた
こうなってしまうとフォラスは引く事はない
此方が何を言っても自身の意見を貫こうとするだろう


レライエ「ダンタリアン、どうするんですか?」
ダンタリ「…全く………」


ため息交じりに呟くと暫し間をあけコクリと頷いた
それは2人の願いを聞き入れるという事だ

するとフォラスは表情を一変させ嬉しさのあまり彼の身体を抱きしめた
突然の行動にダンタリアンは驚き身を固めてしまう


フォラス「ああ、やはり君ならわかってくれると思っていた!」
ダンタリ「わ、わかった…わかったからとりあえず離せ…」


あのダンタリアンが珍しく感情を露にしている
それをジャックとレライエは物珍しそうにその光景を眺めていた


ブギー「お前ら、アイツ助けなくていいのか?…最悪あのまま死んじまうぞ」


背後に立っていたブギーにそう言われ2人はようやく気付く
よくよく眺めるとフォラスの腕に抱きこまれているダンタリアンが何やらぐったりしている
離せともがいていたはずの彼からは何の動きも見て取れず、何ならちょっと泡を吹いているような…

2人は驚き慌ててフォラスへと駆け寄った








フォラス「すまない…嬉しさのあまり力の制御が」


ジャック達の手で無事救出されたダンタリアンは怒りを露にし目の前に座り込むフォラスを睨む


ダンタリ「私を殺す気か」
レライエ「ま、まぁまぁ…こうやって謝ってるんですし許してあげてください、ね?」


申し訳なさそうに大きな体を屈ませ頭を下げるフォラス
総統としてはなんとも情けなく、まるで主に叱られた大きな犬
そんななんとも情けない姿を見てしまっては流石の彼の怒りも徐々に消え失せていく

ダンタリ「わかった…わかったから早く行ってくれ」


その言葉を聞くや否やフォラスは勢いよく立ち上がり、こっちだと先導するジャックに連れられ颯爽と地下へ続く階段を下りて行った


その場に残されたダンタリアンは大きく溜息を吐いた
酷く疲弊したその姿にレライエは思わず苦笑する

ダンタリ「…総統としてはなんとも情けない姿だったな」
レライエ「貴方の事を信頼しているからこそ、総統としてではなくただのフォラスとしての顔を見せたのでは?」
ダンタリ「………そういうものなのか?」
レライエ「私はそう思いましたけどね」

よくわからない
そう言ってダンタリアンは1人首を傾げた









魔女「…ふぅ」


魔女は1人薄暗い地下で疲れ切った表情を浮かべていた
彼女の目の前には寝息をたてるカイヤの姿
夢でも見ているのだろうか、時折ぴくぴくと足が揺れる


魔女「今日はここまでにしましょう…」


そう言って掌の上の小瓶を見つめる
小瓶の中には小さな光が浮き、その光を中心に魔力が流れている


魔女「本当にすごい量の魔力…これだけの量を取り出すとなるとやっぱり数日はかかりますね」


小瓶の中を見つめ1人呟く
すると背後から扉の開く音がした


ジャック「やぁ」


そこに現れたのはジャックだった
そしてその背後にはフォラスの姿

魔女は慌てて深く頭を下げる
ジャックはともかくもう一人はセルヴロクの総統なのだ
失礼のないようにしなければ


フォラス「ああ、いいんだ…頭をあげてくれないか」


そう言ってフォラスは魔女の肩にそっと手を置く
魔女が恐る恐る顔を上げると彼女の顔を見て優しく微笑む
するとフォラスの視界に魔女が持つ小瓶が映った
大きな手を差し出すと彼女は慌ててその小瓶を彼へ手渡す
割ってしまわないように慎重に持ち、小瓶の中の光を見つめた


フォラス「この小瓶に魔力を一度ため込むのか…素晴らしい案だ」
ジャック「捗ってるかい?」


その問いかけに魔女は首を横に振った

ジャックと魔女では魔力の差が大きい
一気に引き出す事は可能でもその穴を埋める程の魔力がない以上、少量ずつ慎重に行うしかできない


魔女「ごめんなさい…私の魔力では少量ずつしか魂石に注ぐ事しか出来なくて」
ジャック「そうか…でももう大丈夫さ!」
魔女「え…それはどういう…」
フォラス「その役目、俺が引き継ごう」


魔女は驚きを隠せなかった
フォラスが魔力を注ぐ
それはつまり1人で長時間をかけ行うはずだった作業が彼の協力により大幅に短縮されるという事
同時にカイヤを危険な目に合わせるこの長い行いも終わる
しかしそこで魔女はある事に気付く


魔女「でも…彼が…」


それはダンタリアンの事だ
彼は1人で行うようにと言ったのだ
自身が犯した罪の代わりとして
もしもその約束を違えてしまえば自分は投獄
そしてカイヤは…


ジャック「それも大丈夫だよ、話はつけてあるから」
フォラス「心配ない、それに…君もこんな事は早く終わらせたいだろう?猫…いや、カイヤの為にも」


魔女は未だ眠るカイヤに振り返る
そう、早く終わらせてしまいたい
カイヤの為にも

魔女はそう考えフォラス達を見上げ、深く頭を下げた


魔女「…よろしくお願いしますっ!」
フォラス「ああ、よろしく頼む」


フォラスは魔女の手をそっと掴むと優しく握りしめた
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