矮小猫のおまじない



倒れた木の根元に落ちた数多くの虫を拾い集め、ジャック達は元の場所へと向かった
そこには既に小鬼達の姿があり、ジャック達に気付くと遅い!と言いながら急かしてくる

持っていた袋を彼らに手渡し、ブギーはジャックの肩からバレルの頭の上へと飛び乗った


ブギー「こんだけありゃぁ大丈夫だな!よし、お前ら早速詰め込め!」
「「「了解ーっ!」」」


小鬼達はブギーと共に家の中へと駆け込んでいった

あとは麻袋にありったけの虫を詰めるだけ
然程時間もかからないだろう
ジャックとフォラスはそのまま外で待つこととなった



待っている間、彼らは特に会話を交わすことはなかった
その間の時間がとても長く感じる
するとジャックの小さな頭に何かが触れた
見上げるとフォラスの大きな手が頭に添えられている


フォラス「先程はすまなかった、まさかあんな事になるとは」
ジャック「あの時は正直僕も焦ったよ、魔力がない事をすっかり忘れていた」
フォラス「ブギーに聞いたのだが、呪いとはその身体の変化ではなく魔力が生み出せない事にあるのだな…あの魔女が解呪にあたっているそうだが、どれくらいかかるのだ?」
ジャック「数日はかかるね、無理に急いでしまってはカイヤの命に係わるし」


ジャックの話に耳を傾けていたフォラスは暫し考えある考えを思いつく
身を屈ませそっと彼に語り掛けた


フォラス「ジャック、その解呪なのだが…俺も手を貸したいと思っている…どうだろうか」


その言葉にジャックは驚き丸く大きな眼窩を瞬かせた
一体どうやって手を貸すというのだろうか


フォラス「魔女には魔力を引き出す役目のみを任せ、その穴埋めの為に必要な魔力は俺が注ぐ…これならばそのカイヤも死ぬ事はないしお前も魔力も予定よりも早く取り戻せる」


それは正に名案と言えた
そもそも魔力を一気に引き出す際にその穴を埋める魔力がない事が問題だったのだ
ジャックには魔力がなくダンタリアンは手を貸す事はない
だがフォラスがその穴を埋めるというのならば想定していたよりも早く解決へと向かうはず

しかしそこでジャックは考えた
フォラスが手を貸すとは言ったがそれはダンタリアン達が許すだろうか


ジャック「でもダンタリアン達が許すかな…」


そう呟くジャックの肩に大きな手が添えられた
フォラスが此方を見つめる


フォラス「そうだな…ならば俺達で彼らを説得してみようか、二人で彼らを丸め込んでしまおう」


悪戯めいた表情でそう告げるフォラスにジャックはつられ自然と笑みが浮かんだ

総統という立場にある彼だが、こういった親しみやすい一面を持っている
ジャックはそんな彼が昔から好きだった


ジャック「僕達が組んだらダンタリアン達も認めざるを得ないだろうね」
フォラス「ああそうだ、それでも反対するなら俺達の権限を使っても構わないと思うぞ?」
ジャック「でもあまりやりすぎた事をするとダンタリアンが怒るからそこは考えてね」


2人は顔を見合わせ楽しそうに笑った


ブギー「ブギー様の復活だぁーっ!!!……何やってんだお前ら」


ようやく元の身体を取り戻したブギーが颯爽と二人の元へと現れた、が何やら楽し気に笑い合う彼らを見て首を傾げている


フォラス「ブギー、無事元に戻ったようだな」
ジャック「相変わらず便利な体だな、復活し放題で」
ブギー「便利っていうな!!…ってジャック、フォラスに触れるの禁止とか言ってなかったか?」


ブギーに言われその事を思い出したのか、ジャックは肩を抱いているフォラスを見上げた


フォラス「…ははは」


その視線を受けフォラスは誤魔化すかのように笑う
だがその手を離す事はしない

全く、しょうがないな

ジャックは苦笑し肩を抱く大きな手に自らの小さな骨の手を重ねた


ジャック「もういい…貴方への罰はこれで終いだよ」


その言葉を聞いたフォラスの顔は誰の目から見ても丸わかりな程に輝きが浮かぶ
素早くジャックの身体を両手でつかむとその小さな体を持ち上げる
所謂高い高いというものだ


フォラス「長かった…ようやくだ!!!」
ジャック「ただあまりベタベタされるのはちょっと困る……フォラス?聞いてるのかい!?」


フォラスはお預けをくらっていた反動からかお構いなしにジャックを抱きしめ頬擦りをしている
その度彼の髭がチクチクとジャックの頬を刺激する
その感触が嫌なのかジャックは頬擦りを続けるフォラスの顔を全力で押し返している


ブギー「…お預けくらった犬みてぇな反応だな」
ジャック「ブギー!見てないでさっさと助けろ!髭が痛い!!」
ブギー「わかったから落ち着けっての…」


ブギーはため息交じりに呟くと、フォラスの腕からジャックを取り上げた
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