矮小猫のおまじない
ブギー「よぉし…お前ら準備はいいか!!!」
岩の上に乗るブギーの甲高い掛け声に合わせ並んだ小鬼達が手を上げ呼応する
そしてその隣にはジャックとフォラスの姿
ブギー「虫の種類はお前らに任せる…と言いたいがあまり変なもんばっかもってくるんじゃねぇぞ?俺にも好みってもんがあるからな!」
ロック「任せてよ親分!」
ショック「アタシ達のセンスを信じて待っててちょうだい!」
バレル「かっこいいのいっぱい捕まえてくる!」
そう言うと小鬼達は意気揚々とその場から各方向へと散った
ジャック「相変わらずあの子達の扱いがうまいな」
ブギー「どれだけ一緒にいると思ってんだ?つーかお前らもそろそろ行けよ」
ジャック「はいはい、とりあえず虫を手当たり次第集めればいいんだね」
フォラス「それは生きている物だけなのだろうか」
ブギー「生きてるのにしろ!ジャック、変なもん集めないように見張っとけよ!?」
確かに目を離すと変な物を集めそうだ
そう考え素直に頷きフォラスに声をかけ森へと入っていった
ジャック「まさか虫を集める事になるとはね」
フォラス「俺のせいだな…すまない」
屈んで石の下の虫を探しながら呟くと、聞こえていたのだろうか少し離れた場所で木を見上げ虫を探すフォラスが答えた
ジャック「故意にやった事じゃないんだし仕方ないよ」
石の隙間から這い出てきた虫を素早く掴むと持っていた袋へと放り込む
そこでジャックは溜息を洩らした
ブギーの身体の大きさを考えればかなりの量の虫が必要となる
小鬼達の協力もあり手助けが増えたとはいえ、それでも時間のかかる作業だろう
するとそこでフォラスがある事をジャックに尋ねた
フォラス「ジャック、この一帯の木は保護されているものだろうか」
ジャック「保護?いや、でもそれがどうかしたのかい?」
フォラス「こうなったのも俺の責任だからな、出来る事なら手早く行こうかと」
そういうとフォラスは目の前の大きな木を見つめた
その木にそっと手を添え、一度深く呼吸する
すると次の瞬間、フォラスが木に軽く拳を振るったのだ
その振動で木全体が揺れ上からボトボトと多くの虫が地面へと落ちた
フォラス「これならばわざわざ探すよりも早いだろう?」
そう言って此方に笑顔を見せるフォラス
その後ろで殴られた木がみしみしと音を立て倒れた
ジャック「確かに早いけど…」
そんな事をしていたらここら一帯の木がなくなってしまうんじゃないか
そう思いはしたものの、フォラスはやる気満々な様子で次の木を殴りつけている
ジャックは苦笑しつつ地面に転がっている虫を次々に袋へと放り込んでいった
ブギー「まだかよ…」
ブギーは1人石の上で待ちくたびれていた
皆を虫集めに向かわせたはいいものの、まだ誰も戻っては来ない
小さな虫の腕を組み皆が向かった森の方を見つめた
すると遠くの方から何やら妙な音が聞こえる
それは何か大きな物が地面へと倒れ込む音
その音に合わせて微かに地面が揺れるのを感じる
ブギー「虫を集めるだけだってのに何やってやがんだ…?」
その音は止むことはなく尚も続く
一体何が起きているのか
この場からは何も伺い知る事は出来ない
ブギーは暫し考えた後、石の上から飛び降りた
そして素早い虫独特の動きで地面を移動する
その音の正体を探る事にしたのだ
問題の音は尚も続き、ブギーが進む方向から聞こえる
それは次第に近くなり、ブギーは目の前に生える草むらに勢いよく飛び込んだ
草むらを抜けたブギーは辺りを眺める
先程まで聞こえていた音は止んでしまっていた
ブギー「…何だったんだぁ?」
結局音の正体もわからずブギーはその場で首を傾げた
ジャック「ブギー!!」
突然聞こえたジャックの声に思わず振り返る
するとそんなブギーの虫の身体に大きな影がかかった
見上げるとそこには大きな木
その木がブギー目掛けて倒れてきたのだ
それに気付き思わず避けようとしたが今の虫の体では到底間に合わない
するとそんなブギーの身体が骨の手で包まれた
倒れゆく木の下に見えたブギーの姿にいち早く気付いたジャックが彼を抱えたのだ
ジャックはブギーを手に包むと同時に倒れてくる木に咄嗟に手を翳した
しかしそこで彼は気付いた
今の自分には魔力がない
そして小さな体では目の前の巨木を支えるなど到底不可能だった
すると次の瞬間、倒れてくる巨木の動きが止まった
ジャックの目の前にはフォラスの後ろ姿
彼は片手で木を受け止めていたのだ
その木を軽々と地面へと投げ捨てるとフォラスは即座に振り返りジャックの身体を抱え上げた
ジャックが手を開くとその中でブギーが一体どうなったんだとあわただしく周囲を見渡す
フォラス「二人とも大丈夫か」
ブギー「一体なんだったんだよ今のは!」
フォラス「虫集めの為に木を殴り倒していたんだが…」
フォラス「あの音の原因はアンタかよ!!」
二人がそんな言い合いをしている最中、ジャックはフォラスの顔を見上げ先程の事を思い返していた
自身の前に立ったフォラスの姿
それはいつもの子煩悩な彼とは違う、まさに総統と呼ばれるにふさわしい貫録を持った姿だった
彼のそんな姿を見るのは随分と久しかった
そんな何も喋らないジャックに気付いたフォラスは心配そうに声をかける
フォラス「ジャック、黙ったままだが…まさか何処か怪我でもしたのでは」
ジャック「あ…大丈夫だよ、ただ」
フォラス「ただ?」
ジャック「…いや、何でもない!あとは落ちた虫を集めて終わりだしさっさと済ませてしまおう」
その言葉にフォラスは頷きジャックを静かに地面へと下ろした