矮小猫のおまじない




昼を過ぎた頃

ジャックは1人ハロウィンタウンを歩いていた
いや、正確には1人ではない

彼の肩には虫の姿のブギー
そして少し距離を置き後方にはフォラスの姿
ジャックは足を止めると振り返り、背後をついて回るフォラスを見上げた


ジャック「何処までついて来るんだい?」
フォラス「…触れる事は許されない、だが共にいる事は問題ないだろう?」


その言葉を聞きジャックは溜息を洩らして再び歩き出す
するとフォラスも同じように歩を進めた
互いの体格差を考え歩幅に気を付けながらゆっくりと
そんな様子を眺めていたブギーがジャックの耳元で声をかける


ブギー「あー…おい、そろそろ許してやったらどうだ?」
ジャック「たまにはしっかり反省させないと駄目だ」


ジャックはきっぱりと答えそのまま街の門を抜けていく
ブギーの家を訪れる為だ

その理由は肩に乗っているブギー
彼の身体を元に戻す為に虫を集めるのだ
だがその為にはもっと人数が必要

そこで思い付いたのは小鬼達の存在だ
彼らはブギーの為なら喜んで協力し虫を集めてくれるだろう


門を抜けてブギーはもう一度背後を見た
フォラスは先程と変わらず距離を置きながら同じ道を進む

ブギーは少し後悔していた
仕返しとばかりに告げ口をしたものの、ジャックは彼の予想以上に怒っている様子
そしてフォラスは時折ジャックの後ろ姿を見つめては何処か寂し気な表情を浮かべている

折角の再会だというのに触れる事が出来ないのだ




無言のまま暫く歩くとようやく目的の場所であるブギーの住む家、ツリーハウスが見えてきた


ジャック「あの子達がいるといいけど」
ブギー「あーこの時間だと腹空かして機嫌が悪いだろうなぁ…面倒な事にならなきゃいいが」


すると突然何かが此方へと走ってくる足音が聞こえる
視線を向けるとそれはこれから会うはずだった小鬼達だった
ジャック達の前に来ると彼らは何やら慌てている
その様子を見てジャックはどうしたんだろうと首を傾げた


ジャック「やぁ君達、どうしたんだい?」
ロック「親分が何処にもいないんだ!」
ショック「いつもならアタシ達と一緒に昼ごはんを食べてるのに何処にもいないのよ!」
バレル「もしかしたらハロウィンタウンにいるかもしれないって思って今から街に行くんだ!」


ジャックは自身の肩に乗っているブギーと顔を見合わせた
手を上げるとそれと同時に小さな骨の掌にブギーが軽々飛び乗る
その手を小鬼達の前へと差し出した


ブギー「よぉ、俺を探してたって?」


小さな虫の姿のブギーを見た小鬼達は数度瞬きし、ようやくブギーだと気付いた瞬間悲鳴をあげた


ロック「親分だぁーっ!!」
ショック「親分どうしちゃったのその姿!」
バレル「もしかしてまたジャックにやられちゃったの!?」
ブギー「または余計だ!」
ジャック「まぁまぁ落ち着いて、ちゃんと説明するから一度家に行こう」


慌てふためく小鬼達を宥めるよう声をかけツリーハウスへと歩き出す
小鬼達はジャックに従いその後を続くが、彼らは落ち着かない様子で何度も後ろを振り返る
彼らに続く大きな男性の存在が気になっているようだ


ショック「ねぇジャック…アイツ誰?」
バレル「親分よりおっきい…」
ロック「初めて見る奴だよなぁ…」
ジャック「あー…まぁ彼の事は気にしなくていいから、さぁ行こうか」


そう言うと小鬼達の背を軽く押し先に家の中へと向かわせた
その場で振り返りフォラスを見上げる


ジャック「フォラス、あまり混乱を招きたくないから彼らには貴方の正体は明かさない…いいね?」
フォラス「わかった、ところでここがブギーの自宅なのか?…なかなかいい所だ」
ブギー「褒めても何も出ねぇぞ」


そんな二人の会話にジャックは微かに笑み、小鬼達が待っているであろう中へと向かった










ジャックの言葉を聞き小鬼達は驚きの表情を浮かべある方向を見つめた
そこには椅子に腰掛けるフォラスの姿


ショック「本当にコイツが親分を潰しちゃったの?」
ロック「そんなに強くは見えないけどなぁ」


そう呟きながらジロジロとフォラスを眺める
6つの目に見つめられフォラスは思わず苦笑した


フォラス「俺のせいで君達の親分を危ない目に合わせてしまった…本当にすまなかった」


そう言ってフォラスが軽く頭を下げる
すると小鬼達は彼の足元に歩み寄った

言葉だけの謝罪では彼らは許しはしないだろう
そう考えていたフォラスだったが、小鬼達は彼の予想に反する行動を見せた

フォラスを責める事はせず、彼の身体を触り始めたのだ


ロック「うわ!身体ガチガチだ!凄い筋肉!」
ショック「見てよこの手!すっごーくおっきい!」


フォラスの全身をベタベタと触りこれは強そう!と3人は大いに盛り上がっている
それを見ていたブギーは呆然としてしまっていた


ジャック「…フォラスの事気に入っちゃったみたいだけど?」
ブギー「ま…まぁ喧嘩売るよりは…ましなんじゃねぇか…?」
ジャック「うん…彼も嫌な気はしてないみたいだし」
ブギー「子供好きだもんな…」


フォラスは最初驚きはしたものの、目の前の子供達が自身の身体を触り眺めはしゃぐその姿に思わず微笑んだ

可愛い子達だ

そう思いされるがままとなっていた彼だったが、ふとバレルと目が合った

バレルは大きな丸い目でフォラスを無言で見つめている
その大きな目を可愛らしく思い、フォラスが笑みを浮かべた
するとバレルはニパ、と笑顔を見せ


バレル「おじさん目が凄く光ってる!」
フォラス「おじ…っ」


その途端ブギーが小さな虫の身体を盛大に転がし爆笑した
その声に小鬼達は不思議そうにブギーを見るが、その笑いの意味が分からないままつられるように声をあげて笑い出した


フォラス「お、俺はおじさんでは…」


そう言いながらふとジャックに視線を向ける
ジャックはフォラスから顔を背け肩を震わせている

笑いを必死に堪えていたのだ


ブギー「あーおもしれぇ!お前らそいつの事はちゃんと名前をつけて呼んでやれよ?フォラスおじさんってな!」
「「「フォラスおじさん!!!」」」
フォラス「……………彼らから見れば俺もおじさんと呼ばれる歳になるのか」


フォラスは反論を諦めたらしく、おじさんおじさんと楽しそうに叫ぶ小鬼達に苦笑した
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