矮小猫のおまじない




ジャック「つまりフォラスが手加減し損ねてブギーが潰れたと」


皆は椅子に腰掛けブギーに何が起こったのか
その状況を簡潔にではあるが聞く事となった
ジャックを膝に乗せているフォラスは申し訳ないと苦笑し呟く
机に乗せられたブギーはその身体に似合った小さな虫の腕を組み不機嫌そうな様子


ジャック「フォラスはちゃんと謝ったのかい?」


フォラスはその問いかけにコクリと頷く
するとジャックは笑顔でならいいかと一言
それを聞きブギーは再び声をあげた


ブギー「いいわけねぇだろ!!」
ジャック「だって君、また虫を集めれば復活するし」
フォラス「ほう、それはなかなか便利な…」


その会話にブギーの中で何かが弾けた
完全に頭にきたのだ
声をあげなくなったブギーを不思議に思い見つめると不意に笑い声が聞こえてきた


ブギー「フォラス…アンタ俺を怒らせるとどうなるかわかってるんだろうなぁ…?」
ダンタリ「貴様を怒らせたところでフォラスは気にも留めんだろう」
ブギー「はたしてそうかぁ…?おい、ジャック」


名を呼ばれジャックがブギーを見る
彼が手招きをしているのを見てなんだろうと顔を近付けた
ブギーは何やらジャックにヒソヒソと語り掛けている

ジャックが彼から顔を離し無言でフォラスを見上げた


ジャック「フォラス……ここに来る事を誰にも伝えていないのかい?」
フォラス「…………その事については問題は」
ジャック「いいかい?僕が今聞きたいのはそんな事じゃない、貴方がここにいる事を知っている者がオクシエントにいるのかいないのかだよ」
フォラス「………いないな」


それを聞いたジャックは明らかに不機嫌な表情を浮かべた
レライエは軽く頭を押さえ、ダンタリアンは余計な事をとブギーを睨む


ジャック「それは……ダンタリアン達もそうだけど、特に貴方は一番やっちゃいけない事だよね?」


明らかに怒っている
それに気付きフォラスは小さなジャックの身体を必死に抱きしめる


フォラス「確かに俺が悪かった…もう二度としないと約束しよう、だから…機嫌をなおしてくれないか」


するとジャックはその腕の中から軽々とすり抜け飛び退いた
そして振り返り一言


ジャック「罰として一日僕に触れない事、いいね!」


そう言うと机の上で楽し気に笑っているブギーをつまみ上げ、足早に部屋へと向かって行ってしまった

皆は黙ってフォラスの様子を眺める
余程傷付いたのだろう、彼はすっかり落ち込んでしまっていた
その表情は暗く陰っている


レライエ「あー…これは流石のフォラスも立ち直れないんじゃないですかね?」
ダンタリ「…まぁ、なんだ……元気を出せ」


魔女はすっかり落ち込んでしまっているフォラスを心配そうに見つめている
サリーはそんな彼を見てそっと声をかける


サリー「あの…大丈夫ですか?」
フォラス「やはり会うのは間違いだったか…」


セルヴロクの総統としてはなんとも情けない声
サリーはどうしようかとレライエに視線を向けた


レライエ「彼はジャックを溺愛してますからねぇ…ジャックも彼を懲らしめるにはこれが最善だと知っていますし」
ダンタリ「…子煩悩すぎるのだ」


確かに言われてみればそうかもしれない

先程までのジャックへの対応を思えばそうかもしれないとサリーは考えた

椅子に腰掛けていた彼は小さなジャックを膝上に乗せ執拗に愛でていた
それは息子を溺愛する父親そのものの姿といえた


サリーはその微笑ましい光景を思い出すと微かに笑みを浮かべフォラスへと声をかける


サリー「フォラスさん…いえ、フォラス様と呼んだ方がいいでしょうか」
フォラス「…フォラスと呼んでくれて構わない」


そうは言うものの相手は組織の総統にしてオクシエントの中心といえる人物
流石に呼び捨てなどは出来なかった


サリー「フォラスさん、ジャックは貴方の立場を考えてあんな事を言ってましたけど…彼は貴方に会えて本当に喜んでいました」


サリーの言葉を聞きフォラスは微かに顔をあげる
目の前には優しい彼女の笑顔が映った


サリー「貴方はジャックの事を心配してわざわざこの街を訪れた、その立場を顧みず…彼を思うその気持ちはしっかり伝わっている、私はそう思います」
フォラス「そうだろうか…」
サリー「そうじゃなかったら彼は貴方を追い出しちゃってるかもしれませんよ?」




レライエ「確かにそうかもしれませんね」


サリーの言葉に同意するようレライエが頷く
ダンタリアンも同じく同意しているようだった


レライエ「立場だけで見れば貴方の方が上ではあります、ですがここはオクシエントではなくハロウィンタウン…つまりはジャックの支配する領域です」
ダンタリ「つまりこの街では誰よりもジャックが権限を持っている、いくら私達でもこの街でアイツが命じる事には従わなくてはならない」


ジャックは先程なんと言っただろうか

一日僕に触れない事

出て行くようにとは言っていない


するとフォラスの表情は先程とは打って変わって輝きに満ち溢れていく
その途端勢いよく立ち上がると彼はジャックを追いかけるように彼が向かった部屋へと走り出した






フォラス「ジャック、すまなかった!」
ジャック「うわ!なんだいフォラス!触らないようにいったじゃないか!」
フォラス「俺が悪かった!呪いを受けたと聞いて心配になったのだ!!」
ジャック「心配してくれるのは嬉しいけど…ちょっと!だから今日は一日僕に触らないようにっていっただろ!今すぐ離れて!」
フォラス「悪気はなかったんだっっ!!」
ジャック「あーっもう!!わかったから離してくれ!!!!」
ブギー「てめえらじゃれ合ってねぇで早く俺を戻せって言ってんだろうがっ!!!」



上の階から聞こえるその声に魔女は呆然とし、ダンタリアンは頭を抱える


サリー「ほ、本当に子煩悩ですね…」
レライエ「ええ、私達もあれには少し困る時があります…」


レライエが苦笑し答えると同時にキレたのだろうか、ジャックの凄まじい怒声が聞こえ騒がしい声は途絶えた
56/64ページ