矮小猫のおまじない
一方その頃、家に残っていたジャック達は出ていったダンタリアン達が戻るのを待っていた
あれから時間もたち、ジャックは時計を眺めて溜息をつく
魔女「お二人とも…遅いですね」
サリー「何処まで行ってしまったのかしら…」
サリーは心配そうに呟きながら2人に用意されていた食事を見つめる
出来立てを出していたのだが時間も経ちすっかり冷めてしまっていた
するとジャックが突然椅子から飛び降り扉の方へと足早に向かった
サリー「ジャック!」
ジャック「僕が2人を探してくるよ、その間彼らが戻るかもしれないから君達はここで待っていてくれ」
そういって扉をあけようと腕を伸ばす
するとジャックが触れる直前、その扉が開いた
ジャック「ダンタリアン、レライエ!」
そこには探そうとしていた二人の姿があった
ダンタリアンは未だ自分を抱えるレライエに文句を言いその腕からようやく解放された
乱れたローブを軽く整え、目の前に立つジャックを見下ろす
ダンタリ「今戻った」
ジャック「全く…いきなり出て行って心配していたんだぞ!」
レライエ「すみません…と、それよりジャック、ちょっと話があるのですが」
そういってレライエが腕を出す
その腕の中にはどこか見覚えのある麻袋
サリー「あの、それってブギーの…」
レライエ「はい…そうです」
ジャックは呆然とその麻袋を見つめた
これは確かにブギーの物だ
しかしおかしい
その麻袋の中には虫が一匹も存在していない
ジャック「…ブギーに何があったんだい?」
ダンタリ「見ての通り潰れただけだ」
ダンタリアンがつまらなそうに呟く
それを聞いてジャックは乱暴にその麻袋を取り上げた
虫が潰れ残されたのは麻袋のみ
それはつまりブギーの死を意味している
ジャック「誰がそんな事を…」
ジャックは掴んだ麻袋を力強く握りしめた
過去には互いを敵視し戦いもした
しかし今は時に喧嘩をする事もあるが友という関係を築いていた相手なのだ
レライエ「ジャック、一度落ち着いてください…実は彼は」
ブギー「おい何してやがんだ!早く中に入りやがれ!」
外から甲高い声が聞こえる
その声はジャック、そしてサリーが聞いたことのある声だった
すると外から赤いローブに身を包んだ男性が姿を現した
よく見るとその肩には小さな虫が一匹乗っている
ジャック「ブギー?」
ブギー「おいジャック!その麻袋大事に扱えよ!?」
姿は違うがそれは間違いなくブギーだった
てっきり死んでしまったと思っていたジャックはその姿を見て安心したのかほっと胸を撫でおろす
そんなジャックの目の前に大きな手が差し出される
その掌にはブギーが乗っており、ジャックの肩へと軽々飛び乗った
ジャックは不思議そうに目の前の人物を見上げる
誰よりも大きな体を持つその人物の顔を見つめるとフードの下に隠れた目が微かに見えた
ジャック「…もしかしてフォラス?」
ジャックが名を呼ぶとその人物は小さなジャックの前に身を屈め膝をつく
そしてフードを取り払うと優しい笑顔を浮かべる顔を露にした
その途端ジャックは持っていた麻袋を放り投げ目の前の大きな体に文字通り飛びついた
麻袋を投げた事に怒るブギーの言葉は今の彼には届いていないようだった
ジャック「フォラス!まさか貴方も来てたなんて!」
フォラス「ああ、ジャック…本当に久しぶりだ」
ジャック「最近の僕は驚かされてばかりだ…でも、貴方に会えてとても嬉しいよ!」
素直に喜びを露にするジャックの小さな体をフォラスは愛おし気に優しく抱きとめる
そんな様子を見ていたサリー、そして魔女は驚き呆然としていた
それもそのはず
ジャックは彼をフォラスと呼んだ
フォラスがどのような人物なのか、彼女達は知っている
その中でも特にサリーは驚きを見せていた
フォラスと呼ばれるその男性の姿は正に広場で接触したあの男性の姿そのまま
相手が誰かなどわかるはずはなかったとはいえ、セルヴロクの総統と関わっていたのだ
フォラスはジャックを抱きしめながらサリーがいる事に気付いた
目が合いサリーは思わず戸惑ってしまう
フォラス「貴女は……ああ、そうか…もしかして貴女がジャックの」
サリー「あ、あの……あの時は貴方が誰かわからず…私なんて失礼な事を」
ジャック「え、二人は知り合いなのかい?」
フォラス「この街を訪れた際に彼女に案内を頼んだのだ…彼女が噂の恋人なのだろう?素敵な女性だ」
フォラスの言葉にサリーは思わず顔を赤らめた
まさかあの総統にまで称賛されるとは夢にも思わなかった
そしてジャック自身もサリーが認められている事に嬉しそうに笑顔を浮かべた
ブギー「おい!!!!!」
そこで甲高い怒声が聞こえその場にいた全員がジャックの肩に視線を向ける
ブギー「俺の身体を戻す話はどうなったんだ!?」
レライエ「それは大丈夫ですよ、ちゃんと戻しますので」
ダンタリ「今のこの状況でそんな事を優先させるとは…相変わらず空気の読めないやつだ」
ブギー「てめぇにだけは言われたくねぇよ!!!!!」
ジャックは叫ぶブギーを見てそういえば彼は何があってこんな事になったのかと考えフォラスを見上げた
その視線に気付きフォラスは何があったか説明をするべく、ジャックを抱き上げたまま室内へと入った