矮小猫のおまじない
二人が駆け付けるとそこにはフォラスの後ろ姿が見えた
そしてその腕の中には結局捕まったらしいブギーの姿
しかしどこか様子がおかしい
ダンタリ「フォラス、そんな奴は放っておけ」
フォラス「しかし謝罪の一つもなく逃げ出すのはよくないだろう?」
そう言って振り返ったフォラス
するとフォラスはある事に気付いた
此方を見ているダンタリアンとレライエの様子が何故かおかしい
レライエ「フ、フォラス…あの…」
ダンタリ「………そいつ、生きているか?」
生きているか?
変な質問だと思いながら己の腕の中に捕らえたブギーを見下ろした
ブギーはぐったりとしていた
その身体には一切力が入っておらず、身動き一つしない
その事に慌てて名を呼び腕から離す
ブギーはそのまま地面へと倒れ込んだ
倒れた彼の身体はまるで潰されたかのように薄くなっていた
そしてよく見るとブギーの身体である麻袋には様々な箇所に穴があいてしまっている
その穴をよくよく見ると潰れた虫がこびりついていた
フォラスは無言で二人に視線を送る
ダンタリ「内部の虫が完全に潰れているな、弾けたか」
レライエ「…捕まえる時に力を入れ過ぎたのでは?」
フォラス「そういえば捕まえた時に何か潰れたような感触が…グチャ、と変な音がしたが」
レライエは彼の言葉からその状況を想像しブギーを見下ろして悲し気な視線を送った
ダンタリアンは潰れたブギーにいい気味だと笑い冷たい視線を向ける
しかし何故か素直に喜ぶ事は出来なかった
嫌いな相手のはずなのに寂しさを感じていたのだ
ブギー「おい、勝手に人を殺してんじゃねぇ!」
その声は潰れているブギーの方から聞こえてきた
麻袋が微かに動きその下から出てきたのは一匹のとても小さな虫
3人がその虫を無言で見つめる
ブギー「おい黙ってんじゃねぇよ!」
フォラス「まさかブギーなのか?」
そう言ってフォラスは大きな身を屈ませその虫に掌を差し出す
虫はその掌にピョンと飛び乗るとフォラスに向け怒りを露にした
ブギー「アンタのせいで俺の身体が弾けとんだぞ!どんだけ馬鹿力なんだよ!!」
フォラス「いや、君が逃げるのでつい…しかし生きていて安心した」
ブギー「死んじまうかと思ったぞ!まじでふざけんなよ!?」
フォラス「本当にすまなかった」
二人の会話を聞きながらレライエは安堵の表情を浮かべる
そんな中、その彼に未だに抱えられた状態のダンタリアンは1人動揺していた
死んだと思っていたブギーが生きていた
その事が分かった瞬間何故か微かに安心感を覚えたのだ
日頃から早く消えてくれないかと思っていたはずの相手に対してのその感情に彼は訳がわからないと頭を抱えてしまっていた
抱えているダンタリアンの様子に気付いたレライエは暫し間をあけ何かを理解したらしく、彼にこっそり声をかけた
レライエ「よかったですね、喧嘩仲間が生きていて」
その言葉にダンタリアンは答えず、代わりに拳をお見舞いした
ブギー「おいてめえら!俺の身体を早く元に戻しやがれ!」
フォラス「戻す?…どうやって戻せばいいのだろうか」
ダンタリ「そこらへんのごみでも突っ込めば戻る」
ブギー「ふざけんなよてめぇ!」
ダンタリアンのいつも通りの喧嘩をうるような言葉にブギーは小さな体をその場で跳ねさせながら叫んだ
すると突然フォラスが何かに耐え切れなくなったらしく笑い出す
ブギー「何がおかしい!」
フォラス「い、いや…声が甲高くて凄まじい違和感が……ああ、すまなかった……もう笑いはしない」
普段のブギーの姿しか知らなかったフォラスにとって今のブギーの姿はある意味衝撃的なものだったらしい
とても小さな弱々しい虫の姿でありながらも普段と変わらない態度のブギー
その小ささに似合うとても甲高い声を可愛らしく感じた
しかし笑ってしまっては彼に失礼だと考え顔を引き締める
が、やはりどうにも我慢できないのか気を抜くとすぐに笑いが込み上げてきてしまう
ブギー「顔が笑ってんぞ!とにかく虫だ!虫を集めろ!」
フォラス「虫だな、わかった………くっ」
ブギー「だから笑うんじゃねぇーっ!!!!!」
怒り狂ったブギーが大声で叫んだ
それを聞きフォラスは限界を迎え大声をあげて笑ってしまった