矮小猫のおまじない




ブギー「あのなぁ…何でついてくるんだよ!」
男性「まぁその事は気にしないでくれ」
ブギー「気にするに決まってんだろ!ジャックのところにでも行けよ!」
男性「行けるものなら最初から行っているがね」


ブギーは心底困り果てていた
昨夜の店での出会いからというもの、男性が執拗に接触してくるのだ


ブギー「だからってなんで俺についてくる!」
男性「君ならジャックの事を見てきているだろう?色々と話を聞きたいのだ」


男性はそう告げながら微笑みブギーを見つめる
その視線から顔を背け頭を抱えてしまう

ブギーの知る限り彼は頑固な一面を持つ
これ以上何を言っても彼は何処までも自分についてくるだろう

誰かコイツを何とかしてくれ…


心の中で助けてくれと願ったブギーの耳に何者かの声が聞こえた
まさか本当に助けが

そう思い振り返ったブギーだったが目の前の光景に思わず渋い顔をする事となった


そこに立っていたのはダンタリアンとレライエの二人


レライエ「ブギー、おはようございます」
ダンタリ「何を見ている、貴様に用はないぞ…早々に立ち去るがいい」


レライエはともかくダンタリアンの言葉に苛立ちが募る
しかしそこでブギーはある事に気付いた

目の前に立つのはセルヴロクの幹部
そう考え男性に視線を向けた

男性は言葉を発することなく二人の前に立っている


レライエ「さて…」


レライエが男性を見て軽く腕を組んだ
その表情はいつも通り穏やかなものだったが、男性を見つめる目にはどこか怒りの色が伺える


レライエ「これは一体どういう事ですか?」
男性「………」


問いかけを耳にするも男性は何も答えない
その様子を見てレライエは深く溜息を吐く
するとダンタリアンが男性の前へと歩み出た

自身よりも遥かに巨体である男性を見上げる

そして次の瞬間
男性の胸元に拳を打ち付けた

本気ではないのか男性の身体は僅かに揺れただけ


ダンタリ「何故貴方がここにいる、答えてもらうぞ…」


ダンタリアンの言葉に男性は暫しの間をあけ静かにフードを取り払う
そこに現れたのはセルヴロクの総統フォラス
ブギーは少し距離を置いた状態で彼らを見る

総統であるフォラスが都市を離れこの街を訪れている
しかもその事を誰にも告げず内密に

まさかここで派手な喧嘩なんてやらねぇよな

少々不安な気持ちになりつつ3人の行動を眺めた


フォラス「ダンタリアン、いきなり殴るのはどうかと思うのだが」
ダンタリ「そんな事はどうでもいい、此方の質問に答えてもらうぞ」
フォラス「何故ここにいるかだったか…その理由は君達と同じだ」


胸元に当てられているダンタリアンの拳を大きな手でつかみ腕を下げさせる
彼の行動にその腕は逆らう事はせず離れる事となった


ダンタリ「理由が同じであれ貴方までもがあの場所を離れては…」
フォラス「俺もそうは思ったが…すまない」
ダンタリ「すまないで済むような事ではないぞ」


すると両者の間にレライエが静かに割り込んだ
その事により会話は途切れ代わりにレライエが口を開いた


レライエ「ダンタリアン…それだけフォラスもジャックの事が気掛かりだったのです、私達もそう思ったように」


ダンタリアンは無言でレライエから視線を逸らす
呪いの事を知り彼らはまずジャックの身を案じた
どのような呪いなのか知らされていなかったため、もしかしたら命に係わるものではないか
そう考えダンタリアンはレライエを連れハロウィンタウンへ急遽向かったのだ

同じ理由
そう聞くとフォラスがこの街を訪れた事も納得するしかなかった


レライエ「フォラス、貴方の気持ちは勿論わかります…ですがせめて部下に一言くらい伝えてもよかったのでは?」


レライエの言う事も最もだ
そう考えフォラスは苦笑してみせる
暫し黙り込んでいたダンタリアンだったが、フォラスの方を向き重い口を開いた


ダンタリ「…貴方の気持ちはわかった、私達と同じくジャックを思っての事…」
フォラス「俺もすまなかった、自分の立場を少しは考えなければならなかったな」


互いに思う事は一緒
その事を理解し二人は言葉を交わした
二人の様子を見ていたレライエも満足そうに笑顔を浮かべている


ブギー「…とりあえず解決したって事でいいのか?」


その流れを眺めていたブギーがぼそりと呟く
するとダンタリアンが思い出したかのようにブギーを睨みつけた


ダンタリ「なんだ、まだいたのか」
ブギー「あのな…俺は好きでここにいたわけじゃねぇっての、フォラスが勝手について来やがるのが悪ぃんだろが」
ダンタリ「フォラスがついて行こうが無視すればいいだけの事だろう、いちいち構う貴様が悪いのだ」
ブギー「無視できるもんならとっくにやってんだよ!!」
フォラス「二人は相変わらず仲がいいんだな」
「「誰が仲良しだ!!」」


否定をしながらも二人は見事にはもるように言葉を放った
それを見てフォラスはなんとも不思議そうにレライエに話しかけた


フォラス「…俺は何か間違っているのだろうか」
レライエ「大丈夫ですよ、素直になれないだけで二人は仲がいいですから」


それを聞いて安心しフォラスは未だ口論を続けるブギーとダンタリアンを微笑ましく見守る


ブギー「てめぇと仲良しだなんて考えただけで寒気がする!あー寒い!凍えちまうくらい寒い!」
ダンタリ「寧ろそのまま一生凍ってしまえ、そうすれば私も非常に嬉しいのだが」


そう告げるダンタリアンの顔は相変わらず表情が伺えないものだったがブギーの目にはどこか笑っているように映った
苛立ちながらもなんとか耐えていたブギーだったがその拍子に我慢の限界を迎えた

ダンタリアン目掛けて拳を振るったのだ
しかしその拳を彼は黙って眺め身体に触れる瞬間に軽く掌で受け止め同時に横へと流す
振るわれたブギーの拳はそのまま空を切り身体がバランスを崩す
強く地を蹴り体勢を保ったブギーは続けざまにもう片方の腕をダンタリアンの腹部目掛けて素早く突き出した
その動きを見据え今度は受け止めるどころか軽く身を翻し回避する
彼の動きはとても優雅なもので一層ブギーを苛立たせた


レライエ「はい、そこまでですよ~」


レライエがなんとも気の抜けた声と共にダンタリアンの身体を背後から軽々と持ち上げた
地から足が離れ放せと声をあげながらその場でもがく
自身を持ち上げる彼から逃れようとするがその逞しい腕は微動だにしない


ブギー「へっ!ざまぁねぇな!!!」


無様にもがくダンタリアンを見てブギーは腹を抱え声をあげ笑う

しかしその笑いも長くは続かなかった

気が付くと背後に気配を感じた
振り返るとそこにはフォラスが立ち此方を見て笑みを浮かべている

そして次の瞬間、フォラスがブギーの身体に背後から腕を回し羽交い絞めにした


ブギー「な、なんだよおい…」
フォラス「ダンタリアンが失礼な事を言ってしまいすまない」
ブギー「お、おう…で、なんで俺を羽交い絞めにしてるかを知りてぇんだけどよ」
フォラス「だが…君も彼に対し失礼な振る舞いをしていたとは思わないか?」


そう告げながらブギーを見る顔は笑みを浮かべてはいるものの、その目は笑ってはいない
ブギーは無意識に逃げなければと感じ慌ててその腕から逃れようと暴れだす
ブギーが急に暴れた事にフォラスは僅かに驚き羽交い絞めにしていた腕を離してしまう

今のうちに!

そう思い彼から一刻も早く離れようと持てる全ての力を出し切るかのように全力で走り出した


レライエ「逃げちゃいましたけど…」


レライエがそう呟きフォラスの方を見た
しかしそこには既に彼の姿はなかった

一体どこにいったんだろうか


そう考えた矢先、逃げ出したはずのブギーのけたたましい叫び声が彼らの耳に届いた
レライエは抱えていたダンタリアンと一度顔を見合わせるとまさかと思いながらも悲鳴の聞こえた方へと走り出した
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