矮小猫のおまじない
ブギーは1人ダウンタウンを訪れていた
時刻は夜更け
住人達の多くは眠りにつき道を歩く者の姿はごく僅か
ブギーはとある店の前で足を止め、扉を開いた
中には客の姿はなくカウンターに立つ男性の姿のみ
男性はブギーの姿に気付くと笑顔で出迎えた
店主「よぉ、ブギーじゃないか」
ブギー「こんな時間までよく働くな」
店主「なかなか熱心だろう?」
そんな店主の答えを聞き笑いながらカウンターに座り込む
店主は注文を聞く事はせずグラスに青い色の酒を注ぎ彼の前に差し出した
店主「何かあったんだろ?疲れ切った顔してるぞ」
ブギー「まぁ色々とあってな…」
その問いかけに軽く答えたブギーはグラスに注がれた酒を流し込む
そして研究所での出来事を思い出す
ダンタリアン
久々に再会したがブギーの予想通り、彼は何一つ変わっていなかった
相変わらず此方を敵視し酷く嫌っている
そして自分自身もそんな彼を同じように嫌っている
顔を合わせるたびに今回のようにちょっとした争いが始まってしまう
ブギー「なぁ、お前の場合どうしても嫌いな相手と会うとしたらどんな対応をするんだ?」
店主「嫌いな相手?そうだなぁ…力でねじ伏せる!これに限るな!」
ブギー「おう、お前に聞いた俺が馬鹿だったわ」
ブギー自身も出来る事ならそうしたい
しかし相手はそう易々とねじ伏せられるような人物ではないのだ
ダンタリアンは細身で力で押さえつければ済むと思われがちだ
しかし実際は違う
ジャックのように相手を翻弄するような素早さやブギーのように相手を簡単にねじ伏せるような怪力を持つわけではない
単純に相手の攻撃を受け流すのだ
単純にというが受け流しというものは非常に厄介だ
どのような力強い一撃でも当たらなければ何の意味もない
つまり彼に物理的に攻撃を加える事はほぼ無意味に等しい
更に厄介なのは彼の持つ本だ
本来知識を与えるものであり武器とはならないのだが、問題となるのはその本に絡みつく鎖だ
鎖は特殊な金属で出来ており千切れる事はない
そしてダンタリアンの意思に従い動くのだ
ブギー「せめて一撃いれられたら満足するんだがなぁ…」
ブギーが1人呟くと店の扉が開く音がした
店主「ああ、いらっしゃい!適当に座ってくれ」
ブギーは訪れた客に何気なく視線を向けた
そこには炎のように赤いローブに身を包んだ男性が立っていた
背が高く鍛えられた肉体を持つその男性は他にも席が空いているにも関わらずブギーの隣に腰掛けた
ブギー「おい…他があいてるだろ…」
男性「……」
ブギーが不愉快そうに声を低めるが男性は何も答えない
店主が差し出した酒を男性は受け取り口をつけている
その姿を苛立ちながら睨みつけていると男性が微かに肩を震わせた
笑っている
男性「…相変わらずだな」
ブギー「あ?何が相変わらず……………おい、ちょっと待て」
男性の言葉を聞いてブギーは一瞬躊躇いをみせた
そんな彼に顔を向けた男性は静かにフードを取り去った
その姿を見てブギーは驚き固まってしまう
男性「久しいな」
ブギー「あ、アンタ…何でここに」
男性「休暇とでも言っておこう」
ブギー「休暇…ってんなわかりやすい嘘ついてるんじゃねぇよ!」
男性はブギーの反応を楽しむかのように眺め目を細める
ブギーは未だに男性の事が信じられないのか注がれている酒を一気に飲み干した
ブギー「で、本当の目的はなんだ」
男性「さぁ…何だろうか」
ブギー「ふざけるなよ、アンタがあそこから出るなんてあり得ねぇ事だ…よくあいつらが許したな」
男性「許しなど貰ってはいないがね」
その返答にブギーは一瞬言葉を失った
男性はどうかしたのか?と微笑みブギーに目をやる
ブギー「ば、馬鹿じゃねぇのかアンタ!!」
男性「ブギー、馬鹿などという言葉を使っては相手が傷付いてしまうぞ」
ブギー「そ、そうだな…じゃねぇ!あーっ!その目を使うな!俺を惑わすんじゃねぇ!!」
男性「相変わらず面白い奴だな、君は」
店主「おいブギーあまり騒ぐなよ?うるさいから」
ブギー「お前らああああ!!!!」
それから暫くして
ようやく落ち着いたのかブギーは大人しく酒をすすめる
そんな彼の様子を眺め男性は語りだした
男性「久々にこの街を見て回った…あの頃とあまり変わらないな」
ブギー「ここはオクシエントじゃねぇんだ、そう簡単にかわりゃしねぇよ」
男性「そうだな…ところで王、ジャックは元気にやっているだろうか」
ブギー「会ってないのか?……あー、そうか…会えるわけねぇか」
男性は大きな手の中におさまっているグラスの中身を見つめる
そんな男性を見てブギーは溜息を洩らした
ブギー「あいつは相変わらず元気にやってるぞ、今はちっせぇガキになってるけどな」
男性「そうか……………ちょっと待ってくれ」
ブギーは突然肩を掴まれた
掴んでいるのは男性の大きな力強い手
それを見てやっちまったと考えたのも束の間、男性が顔を近付けブギーの目を真っ直ぐ見つめる
その目はブギーを射殺すかのような鋭いものだった
男性「………どういう事か詳しく話してもらおう!」
ブギー「わかった!話してやるからとりあえずその手を離せ!」
ブギーに言われようやく気付いたのかすまなかったと素直に告げ手を離す
その力は強く掴まれていたブギーの肩は手の形に合わせすっかりへこんでしまっている
ブギー「中の虫ぜってー潰れてるな、これ…」
男性「すまない、つい興奮してしまった」
ブギー「そういうとこは相変わらずなんだな、アンタ」
ブギーは肩を軽く擦ると男性にジャックの状況を語る事とした
男性「なんということだ…」
ブギー「おーい…大丈夫かー?」
状況を把握した男性は大きな手で自らの顔を覆い絶望感溢れる声を漏らした
流石のブギーもその姿を見ていられなくなったのか肩を軽く叩き声をかける
男性「まさかそんな事になっていたとは…一大事ではないか」
ブギー「いや、だから解決法は一応あるって言っただろ?問題ねぇって………ちなみに本音は」
男性「……………この目でその姿を見たい」
ブギー「お、おう…そうか」
男性「しかし会う事は出来ない…どうすればいいのだ」
男性は本気で悩んでいた
本当に変わってねぇなコイツ
そう思いながらせめて気分を変えさせてやろうと店主から差し出された酒の入ったボトルを手に取り男性のグラスへと注ぎ込んだ