矮小猫のおまじない




太陽が顔を覗かせ始める時刻
骸骨鶏が眠った街を起こすべく高らかに鳴き、ジャックの室内に窓の隙間から陽光が注がれる

陽光がジャックの顔を照らし、その眩しさにたまらずシーツを頭まで被る

朝日を浴びていち早く目を覚ましたゼロがワンと一鳴き
ジャックを起こそうと彼の上をぐるぐる回る
しかし肝心のジャックはまだ眠いよとぼやきながら身を丸める

朝だよ起きて!
ゼロが何度も吠えジャックがくるまるシーツを咥えて引っ張る


ジャック「んー…ゼロ、わかったよ…起きるから」


急かされジャックは渋々身体を起こしながら目をこする
すると聞こえていた鳴き声がピタリと止み、室内が静まり返った
不思議に思い眠たげな眼を向けると、驚き後退するゼロの姿


ジャック「どうかしたのかい?」


背後を振り返ってもそこには特に変わった物はなく、ゼロが見ているものが自分だと知り首を傾げる
とにかく一旦起きようとベッドから足を下ろす


しかしその足が床に触れる事はなかった


ジャックは自身の足を見下ろす
間違いなく自分の足なのだが違和感がある
なんだかいつもより短い気がする


ジャック「僕とした事が、まだ寝ぼけてるのかな…?」


目をこすり再度足を見つめる
やはり先程と変わらず短い
見間違えたわけでもなく、寝ぼけているわけでもない


ジャック「……ハハ、いやいやまさか」


いやきっと気のせいだろうと笑いながらベッドを飛び降りる
そして姿鏡の前に立ち映った自分の姿を見つめた


骸骨なのは変わらないが普段の丸い顔は更に丸く小さなまるで子供のよう
一際大きな眼窩と鏡越しに目が合った

昨日までの自分の半分もない程に低い身長
それに比例して長かった腕や足はすっかり短くなり、可愛らしい小さな手が見える


ジャックはその姿を見てあまりの事に意識を失いかけた


ワン!
ゼロが大きな声でジャックに吠える
その声にジャックは何とか失いかけた意識を保つ
暫く呆然とした後、思わず頭を抱えてしまう


ジャック「ちょっと待ってくれ…これは間違いなく僕だよな?うん、僕だ………なんでこうなったんだ!!?」


何で小さくなってるんだ!

混乱し1人声を上げ騒ぎ立てる
そんなジャックを見てゼロが不審がり微かに唸り声をあげる
唸り声を聞いて振り返るとゼロが自分を警戒している事に気付いた

姿がすっかり変わってしまった為だろうか
どうやらジャックではない別人が侵入したと思い込んでいるようだ


ジャック「ゼロ…僕だよ!ジャック・スケリントン!」


容姿に伴い発した声は子供のように高い声
そんな自分の声にようやく気付いたジャックはいよいよ絶望し膝から崩れ落ちてしまう


ジャック「これじゃ完全に子供じゃないか…なんで僕がこんな目に…っ」


幼くなってしまいすっかり落ち込んでしまったジャックを見て、ゼロが恐る恐る傍へ近付く
その小さな身体に顔を近付け、慎重ににおいを嗅いだ

するとゼロは一変し明るい表情を見せ、同時に嬉しそうに鳴き始めた

ジャック!

ゼロが自分の名を呼んだ事に気付き顔を上げた
そんなジャックに嬉しそうに擦り寄る


ジャック「ゼロ…僕だってわかってくれるのかい?」


不安げな様子で手を伸ばす
それに答えるようにゼロがその場でクルリと回って鳴く
そんなゼロにジャックはみるみる内に笑顔を取り戻し勢いよく飛びついた


ジャック「わかってくれたんだね!ありがとうゼロ!」


ゼロを小さな体で全力で抱きしめ、嬉しそうにその場で何度もクルクルと回る
ゼロは構ってもらえて嬉しそうに鳴き、すっかりされるがまま


ジャック「っと、そうだ…喜んでる場合じゃなかった!」


ゼロを抱きかかえたまま止まり、ジャックは我に返った
まず自分がジャックだと理解してもらえたのは嬉しいが、一刻もはやく原因を突き止めなくてはならない

どうしようかと話しかけるとゼロはジャックの腕の中からすり抜け、棚の方へ向かっていく
その棚はジャックが買い揃えた数々の書物が仕舞われていた


ジャック「そうか、もしかしたら何か変な病気かもしれない…早速調べてみよう!」


ゼロの名案によりジャックは自身の身体の異変を調べる為、本棚からいくつかの書物を取り出す
身体が縮んでしまっている為、腕を伸ばしても届かない場所のものはゼロが自ら咥えてジャックへと手渡した


その後、大量に積まれたありとあらゆる書物にひたすら目を通し始める
その傍らにはゼロが寄り添い、時々頭を撫でてもらってご機嫌な様子











ジャック「ふぅ…」


最後の一冊に目を通し終え、ジャックは
一息つく
そして重ねられた本の山にその一冊を乗せる
静かに一息つき

突然大きな声で叫んだ



ジャック「何もわからない!」



どうすればいいんだ!
ジャックは再度頭を抱え、その場で悩みこんでしまう

いくら本を読んでも答えなんて出てこない
自分で考えようにもわかりっこない
他に何かこの原因を突き止める術はないだろうか

そこでジャックはふとある人物の事を思いつく
この街で原因不明のこの事態を解決してくれそうな知性のある人物


ジャック「フィンケルスタイン博士!彼ならきっと何かいい解決法を見つけてくれるはずだ!」


よし行こう!
その掛け声と共に部屋を出ようとした
が、そこでピタリと足を止める
ジャックは自身の身体をじっと見つめ、そこでようやく寝起きの自分がパジャマ姿だと気付く
服に着られている状態でぶかぶかだった



ジャック「…とにかく着替えようかな」


そういってクローゼットを開き、着慣れた燕尾服を手に取る
しかしそこでジャックは一つの問題に気付いた

服のサイズが全く合わない

それは当たり前の事だった
普段の自分の半分もないほどの背丈
それに合う服など勿論持ち合わせていない


ジャック「ど、どうしよう…」


もう最悪このままの恰好で走って行ってしまおうか
そう考えるもすぐに無理だという結論に至る

博士のいる研究所はそれほど遠くはない
小さなこの身体でも走ればそうはかからないだろう

しかしそこで問題となるのはこの街の住人達だ
研究所に行きつくには広場を通らなければならないのだが、その広場には必ず誰かがいる

この幼くなった姿のまま街へ出ようにも、住人に見つかって正体がばれでもしたら騒ぎになってしまうだろう
何かいい手はないものかとジャックは頭を捻る


ジャック「いい考えが浮かばない…………こうなったら」


ジャックはクローゼットの奥から服を一枚取り出す
それは黒いシンプルなコート
それを徐に着こんでフードを深めに被り顔を隠す
長い袖を捲ってふと後ろを見る
丈が長く引きずる形になるが仕方ないと諦めた


ジャック「博士の所まで全力疾走するしかない!!」


コートで身を隠し研究所まで走っていくというシンプルな作戦
ジャックは大丈夫出来るとやる気十分だがゼロは少し不安げな様子で彼を見つめ鳴く


ジャック「ゼロ、留守を頼むよ!」


その言葉を残し意気揚々とジャックは自宅を飛び出していった

残されたゼロはそんなジャックの姿が見えなくなるとその場で1人、クゥン…と心配そうに鳴いた
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