矮小猫のおまじない
サリーは1人キッチンに立っていた
水の流れる音と重ねられる食器の音
そしてその中には綺麗な歌声が混じっていた
それはサリーの歌声
とても美しく他者を魅了するかのようだった
レライエ「綺麗な歌声ですね」
サリー「きゃっ!」
突然背後から声をかけられサリーは歌声の代わりに悲鳴をあげた
振り返るとそこにはレライエが立っている
驚かせてしまった事に申し訳なさそうに頬をかく
レライエ「驚かせてしまいましたね、すみません」
サリー「い、いえ…私もつい夢中になってしまっていて」
レライエはサリーの横に立つと洗い終え並べられている食器を眺めた
そして何を思ったのか近くにかけられていた布を手に取る
そして同時に並べられている食器を掴んだ
どうやらサリーの手伝いを始めようとしているようだ
サリー「あ、そんな…私がやりますから」
レライエ「美味しい食事のお礼ですよ、それにこれだけの量です…1人より2人でやった方が早く済みますし」
ね?
そう笑顔で語り掛けられサリーは迷ったが、彼のお言葉に甘える事となった
レライエ「そういえばお聞きしたい事があるんですがいいでしょうか」
サリー「はい、なんでしょうか」
レライエ「貴女はジャックの恋人ですよね?」
その途端ガチャンと食器が激しくぶつかる音
サリーが手に持っていた皿を食器の上に落としたのだ
レライエは少し驚きサリーが怪我をしていないか手元を覗く
幸い傷などはないようだった
サリー「ご、ごめんなさい!その、驚いてしまって…」
レライエ「いえ、私の質問が急過ぎました」
サリー「………その、合ってます…ジャックとお付き合い、してます」
レライエ「やはりそうでしたか!」
サリーは動揺していた
ジャックと付き合っているか
その質問の意図は一体何なのだろう
ジャックの家族ともいえる彼ら
もしかして交際を反対されてしまうのでは…
不安に思いながらレライエを見上げたが彼はサリーでもわかるほどの満面の笑みを浮かべていた
レライエ「安心しました、相手が貴女のような女性で」
サリー「…私で安心?」
レライエ「ええ、ジャックは今まで色恋に無縁だったんですが交際を始めたと噂で聞きまして、相手はどんな方だろうと少し心配していたんですよ」
ジャックは人々を恐怖させる才能、そしてその性格や容姿などもあって皆から好かれている
そんな彼に注がれる多くの想い
憧れというものもあるが同時に恋心を抱く者もいる
しかしジャックはその想いに今まで一度も気付く事はなかった
傍からみれば丸わかりの恋心にも気付かない程彼は鈍いのだ
それはサリーも理解していた
彼女は初めてジャックと出会ってから彼に対しずっと恋心を抱いていた
立場の違いもあってか彼女は面と向かってその想いを向けた事はなく、ただ彼の姿を遠くから見つめていた
その際、彼に対し明らかな想いを抱いて接する姿も目撃している
その時も勿論彼は一切気付く事はなかった
サリー「ジャックは鈍感なところがあるから…」
レライエ「ははは!確かにそうですね、何で気付かないのか不思議に思う事がありますよ」
サリーはレライエと会話を続けながらも食器を片付けていく
その食器を次々に拭きあげながらレライエはそんな彼女に声をかけた
レライエ「そんな彼が初めて愛したのが貴女です、もっと自信をもっていいんですよ?」
サリー「私が彼と恋仲になった事は奇跡なんだと思っています、あのクリスマスの事件が無ければ私は今も遠くから彼を想い見るだけ」
あのクリスマスの事件
あれが起こらなければサリーの想いは未だジャックには届いていなかった
レライエ「サリーさん、それは過去の話でしょう?今は違う」
レライエは真剣な眼差しでサリーを見る
その目を彼女もまた逃げる事なく真っ直ぐ見つめた
レライエ「過去も勿論大事ですし忘れてはいけない事…ですがそれにとらわれてはいけません、しっかりと前を見なければ」
サリー「前を見る…」
レライエ「そうです…しっかりと躓かないように前を見るんです」
貴方達二人の未来の為に
その言葉にサリーは口を噤んだ
彼の言う通りだ
自分はジャックと共に歩んでいこうと決めたはず
彼との未来の為にもしっかり前へと歩んでいかなければいけない
サリー「レライエさん…ありがとうございます、なんとお礼を言ったらいいか」
レライエ「お礼など結構ですよ、あ………そうですね、ではお礼として貴女の歌声をもう一度お聞きしたいですね」
サリー「ふふ、わかりました…気に入っていただければいいですけど」
サリーがそう言うと再び美しい歌声が聞こえてきた
レライエはその歌声を耳にし、心地よさそうに表情を和らげた