矮小猫のおまじない



博士が寝床へと姿を消した後
室内の空気は重くお世辞にもいい雰囲気とはいえなかった
その原因は勿論ブギーとダンタリアンの二人だ

両者は椅子に腰掛け黙り込んだまま顔を合わせようとしない
そんな二人の様子にジャックが声をかけた


ジャック「二人とも、ここは一先ず仲直りでもしてみたらどうだい?」
「「断る」」
ジャック「…そういうところだけ息が合うね、君達」


彼らがこんな最悪ともいえる関係になってもうどれだけの年月が流れただろうか
ジャックが意見したところでその関係が変わるはずなどなかった


レライエ「すみませんね、彼が手荒な真似をしてしまって」
ブギー「もっとしっかり躾けとけよ」


同じ幹部ではあるがレライエはブギーに対し特に敵対するつもりはなく普通に接している
またそんな彼に対しブギーも警戒をする事なくごく普通に対応している


ダンタリ「躾だと?薄汚れた袋にそう言われるとは心外だ」
ブギー「あ~?悪いがなんて言ってるのかさっぱり聞こえねぇなぁ…もっとお口を大きく開いて腹から声だせや」
ダンタリ「ふむ…どうやら耳が腐っているようだな、それとも言葉を理解する知能すらないのか」
ブギー「なんてこった…この幹部様はどうやら言語認識力が欠如していらっしゃるようだ、可哀そうになぁ」


また始まった…
顔を合わせてはこうやって互いを罵り合う
ジャックは溜息を吐き軽く頭を押さえた
ブギー達の話を聞いていたサリーはそんなジャックの傍に歩み寄りこっそりと声をかける

サリー「…もしかしてあの二人っていつもああなのかしら」
ジャック「そうなんだよ、仲が悪いにも程がある」
サリー「そうなの…そういえば、ブギーは何でここに来たのかしら」


サリーの言葉にジャックはそういえばと考えた
姿を見せた時の彼は確か自分を探していたような事を口にしていたはず
するとジャックが机に飛び乗り、両者の視線が交わる中心へと立った


ダンタリ「ジャック、行儀が悪いぞ」
ジャック「こうでもしないと君達は睨み合いを続けたままで話を聞かないだろう?」


そう告げるとジャックはブギーへと向き直った
その際に彼が持っている箱に気付く
ここに来た理由はこれか
ジャックは箱を指差しブギーに語り掛けた


ジャック「君が僕を探していた理由はその箱の事だったんだね」
ブギー「お前が持ってこいって言ったんだろうが………絶対これの事忘れてたよな?」
ジャック「うん、正直忘れてたよ」


全く悪気の無い様子で答えられブギーは苛立つ
その苛立ちをぶつけるかのように持っていた箱を乱暴にジャックの胸元に押し付けた
ジャックはその行動を特に気にすることなくそれを受け取ると皆が囲うテーブルの上にそっと置く


レライエ「その箱はなんですか?」
ジャック「迷いの森は知ってるだろう?そこで見つけたんだけど…ブギー曰く特殊な魔法がかかっているみたいでね、危険なんだってさ」


それを聞きダンタリアンがその箱に手を翳す
すると何かを感じ取ったのかすぐさま手を離しジャックに顔を向けた


ダンタリ「確かにこの箱には魔法がかけられている、それもかなり厳重に…中に何があるかはわかっていないのか」
ジャック「残念ながら…それでこれを君に預けようって事になったんだけど、いいかな?」
ダンタリ「…別に構わん、この中身も調べなければならんしな…オクシエントに持ち帰るとしよう」


問題の箱は無事ダンタリアンに手渡された
それを確認するとブギーは即座に立ち上がる


ジャック「あれ、もう帰るのか?」
ブギー「俺の用は済んだだろ、それに…」


言葉と共にダンタリアンを睨みつける
その視線を感じダンタリアンは箱に向けていた顔をあげた


ブギー「こいつとは長居したくないんでな」
ダンタリ「それはいい、私も貴様を視界に入れる事自体不愉快に思っている…早急に帰るがいい」
ブギー「てめぇ…喧嘩売ってんのか」
ダンタリ「私は素直に思ったことを口にしただけだが?ああ…気を悪くしたか?それはよかった」


再び両者がその場で睨み合う
このままではまた争いが始まってしまう
サリーが何とか止めなければと思ったその時、彼女より先に動き出したのはジャックだった

ジャックが勢いをつけてブギーの腹部に飛び蹴りを繰り出したのだ
ダンタリアンに意識を集中させていたブギーはその攻撃を避け切れず直撃をくらった
腹部を押さえその場に蹲る彼を見てダンタリアンはまるでざまあみろとでも言うように笑う仕草を見せる
しかしそんな彼の足元にいつの間にか近付いていたジャックが笑っているであろうダンタリアンの名を呼んだ
その声は普段の彼を呼ぶものとは明らかに違う、怒りの籠ったものだった


ジャック「ブギーも悪いけど君も君だよ…わざと挑発するような事を言って!」
ダンタリ「私は思った事を言っただけだ」
ジャック「その思った事を口にすればブギーが怒る事くらいわかっていただろう?もしもあのまま喧嘩を始めたら本当にこの研究所を破壊しかねない」
ダンタリ「私はそこまではやらない、奴は知らんが」
ジャック「とにかく!この街で君達が喧嘩したら住人達に迷惑がかかるんだ!次また同じような事があったら本気で怒るからな!」


なんだそんな事か
ジャックと長年過ごしてきたダンタリアンにとって彼は恐怖の対象にはならなかった
例え彼が本気で怒ったとしても恐怖心など芽生える事はない
しかしそんなダンタリアンにレライエがこっそりと声をかけた


レライエ「あまり怒らせない方がいいと思いますけど……嫌われてもしりませんからね?」


その言葉にダンタリアンは表に出さないものの大いに焦った
ジャックをまるで本当の弟のように彼なりにではあるが可愛がってきたのだ
そんな彼に嫌われるのは流石のダンタリアンも望まない


ダンタリ「…わかった、善処しよう」
ジャック「ブギーもわかったか?」
ブギー「今俺が言いたいのはそいつと俺の対応の差なんだがな…」


ブギーは痛む腹を押さえ納得いかないといった様子で呟いた
47/64ページ