矮小猫のおまじない
サリーは1人呆然としていた
その原因は彼女の目の前にひろがる光景にある
テーブルを囲うのはジャック、博士、レライエ、ダンタリアンの4人
博士はゆっくりと自分のペースで食事を口に運ぶ
ジャックもまた博士よりは速いがしっかりと味を楽しむよう食事をしている
問題は次の二人
レライエはありったけの量の食事をまるで流し込むかのように次々と口へと運ぶ
それは鍛えられた肉体に似合う豪快さがあった
そしてダンタリアン
レライエと比べると細身であったが負けず劣らず素早いペースで食事を平らげていく
豪快さを見せるレライエとの違いといえば取り込まれていく食事の量や速度に似合わずその動きが何故かとても優雅だった事だ
サリーが呆気にとられているとそれに気付いたジャックが苦笑する
ジャック「彼らは昔からああだからあまり気にしない方がいいよ」
サリー「そ、そうなの…レライエさんは何となくわかるけど、ダンタリアンさんも同じくらいよく食べるのね…驚いた」
レライエ「ん…あはは、私は肉体派ですからね、男はこれくらい豪快に食べた方がよくないですか?」
するとサリーの前に皿が差し出された
それはダンタリアンのものだ
追加を催促している事に気付くと慌てて皿を受け取り食事を継ぎ足す
その皿を渡す際にサリーは少し心配そうに彼に語り掛けた
サリー「あの…ダンタリアンさん、そんなに食べて大丈夫なんですか?」
レライエ「ご心配なく、彼こう見えて私と同じくらいよく食べるんですよ」
ジャック「昔から不思議に思ってたんだけど…その体のどこにそれだけの量が収まってるのか気になるよ」
そう言ってダンタリアンの身体を眺める
お世辞にも鍛えられているとはいえない細身の肉体なのだが彼が摂取した食事の量はレライエと大差ない
その視線に気付いたのか、なんだと不思議そうにジャックを見返す
ジャック「ああ、気にしないでそのまま食事を続けて」
ダンタリ「…そうか」
そう一言告げると彼はまた食事に集中しはじめた
ゆったりと食事をしていた博士はそんな彼を見て苦笑し手を止めてしまった
博士「全く…ダンタリアンの食欲は相変わらずじゃな」
レライエ「食欲は変わりませんけどね、最近はお酒に興味を示すようになったんですよ?」
博士「…苦手だったはずじゃが?」
博士の言う通りダンタリアンはこれまで酒を好んではいなかった
酔いやすいのかと思い尋ねたところ、初めて酒を口にした際にどうやら『ハズレ』を引いてしまったらしくそれがある意味トラウマになっていたのだという
ジャック「へぇ…じゃあ今度一緒に飲んでみたいな!」
レライエ「あ、ただお酒を飲むようになったといっても種類は限られていますから気を付けてくださいね?」
ジャック「例えばどんなものを飲むんだい?」
レライエ「ワインなら大体飲めると思いますけど他はやめた方がいいと思いますよ」
ダンタリ「おい…何故貴様が答えるのだ」
自分の事は自分で語れる
そう告げながらもダンタリアンは再び空になった皿をサリーへと手渡した
長い食事もようやく終わり、サリーが用意した料理は全て彼らの腹へと収まった
サリーが食器を片す中、ジャック達はその場で語り合っている
するとレライエが何かに気付き突然黙り込んだ
彼の視線は扉の方を向いている
その場にいる全員がどうしたのかと同じ方向へ視線を向ける
ジャック「レライエ、どうかしたのかい?」
不思議に思ったジャックがそう語り掛けた瞬間、扉が勢いよく開かれた
そしてそこには箱を抱えたブギーが立っていた
ジャック「なんだ、ブギーじゃないか」
ブギー「なんだ、じゃねぇ!こっちはお前を探してだn」
そこでブギーの言葉は止まった
それもそのはず
彼の視界の中心にはある人物の姿が映っていた
ダンタリ「…………」
その人物とはダンタリアンだ
ブギーが黙り込むと同時に彼もまた黙りこんでしまっている
ジャックとレライエはそれに気付き、止めなければと考えたが既に手遅れだった
ダンタリアンは立ち上がると同時に傍に置いていた本を素早く手に取る
すると本に絡まっていた鎖がうねりまるで鞭のようにブギーめがけ打たれた
それに気付いたブギーが咄嗟に足元の影を操る
影からはまるで彼を守るかのような漆黒の盾が現れ、鋭く打ち込まれた鎖を彼の代わりに受け止めた
レライエ「ダンタリアンそこまでです!落ち着いてください!」
ダンタリ「落ち着けだと?ふざけるな」
ジャック「ブギーもとりあえず落ち着くんだ!」
ブギー「俺よりもあの野郎を落ち着かせろ!俺は身を守っただけだろうが!」
ジャックとレライエはそれぞれ両者を宥めようと前に立ち声をかける
しかし肝心の2人はそんな言葉を一切気にする事なく互いに睨み合う
ダンタリアンは防がれた鎖を再び構えさせる
その動きをしっかりと見ていつでも対応できるようブギーも身構える
まさに一触即発の状況
しかし次の瞬間、それをぶち壊すかの如く一際大きな怒声が室内に轟いた
その声は博士のものだった
皆が思わず博士に視線を向ける
博士「お前達いい加減にせんか!ここはワシの研究所じゃぞ!お前達が暴れてしまっては破壊されかねんわ!!!」
サリー「ほ、ほら…皆とりあえず落ち着きましょう?」
暫しの間をあけブギーは舌打ちしながらも渋々警戒を解いた
それを見たダンタリアンも少し遅れて落ち着きを取り戻す
まるで生きているかのように鎌首をもたげていた鎖は本に巻きつき動かなくなる
博士「全く…ワシは先に休ませてもらう!これ以上騒ぐなら出て行ってもらうぞ!」
すっかり機嫌を損ねてしまった博士は皆にそう言い捨てると寝床へと戻っていってしまった
その場に残された5人は呆然とその姿を見送るだけだった