矮小猫のおまじない





ブギー「…あー…」


ブギーは1人ソファに力なく身を横たえぼんやりと天井を眺めていた
時折体勢を変えては頭を抱える

彼は今ある問題を抱えてしまっていた
それは例の箱の事である
魔力で守られた謎の箱
ジャックはそれをダンタリアンへ渡すといった

その考え自体にはブギーも賛同していた
ダンタリアンはセルヴロクの幹部
彼に預ければ箱の安全は約束されたようなものだ


ブギー「…なんで俺が持って行かなきゃならねぇんだよ」


しかし意見自体に賛同はするものの納得いかない事が一つあった
箱をダンタリアンに手渡すのが自分だという事だ

ブギーは彼と非常に仲が悪い、最悪といっていいほどだ
元々の相性というものもあるのだろうが、一番の要因はこれまでのブギーの行いにある
ジャックと敵対していた頃の悪行の数々

それらの悪行は勿論組織にも伝わっており、そこで動いたのがダンタリアンだった
彼の指示により組織の者がハロウィンタウンへ訪れ、ジャックとブギーの両者をオクシエントへと召喚したのだ

再三悪行の限りを尽くしていたブギーだったが、召喚された当時は既に改心していたようでジャックとも友好関係にあった

しかし召喚を受けた彼を待っていたのは拘束、そして牢への強制収容だった
その事にブギー自身も驚いたが何より一番驚き動揺していたのはジャックだった

指示を出したダンタリアンにブギーを解放するようにと説得を試みるジャックだったが、彼は聞く耳を持たない
それどころか彼はジャックに対し…



そんな昔の記憶を振り返っていたブギーだったが気怠そうに上半身を起こす

これ以上昔の苦い記憶を思い出すのはあまりいい考えとはいえない
そして今はそれよりも箱の事をどうすべきか考えなければならなかった


ブギー「……行くしかねぇんだろうなぁー」


いい案の一つでも浮かぶだろうと考えていたものの、今のブギーにはなかなかそれが浮かばない
暫しの間、身動きせずその場で黙り込んでいたブギーだったが突然勢いをつけ立ち上がった
そしてサイドテーブルに置かれていた問題の箱を掴むと一目散に外へと駆け出す


ブギー「あんな野郎の為に何で俺が悩まなきゃならねぇんだ!こんなもんさっさと投げつけて即帰りゃぁいいだけじゃねぇか!!」


どうやらダンタリアンに会う決意をした様子のブギー
家を飛び出し喚きながら一先ずジャックの家を目指す事となった








一方その頃
研究所ではジャック達5人がテーブルを囲み食事をとっていた
そこに並べられているのは勿論全てサリーの手作り
どの食事も食欲をそそるとてもいい香りがした


レライエ「サリーさん凄いですね!こんなに美味しい物を作れるなんて!」
サリー「あ、ありがとうございます…」


食事を口にしたレライエはその味に甚く感動しサリーを称賛した
最初は組織の幹部である彼らの口に合うだろうかと心配していたサリーだったがその称賛の声に喜び微かに頬を赤らめる


ジャック「言っただろう?彼女の料理は素晴らしいんだって!ほら、ダンタリアンも食べてみてくれ」
ダンタリ「む………頂くとしよう」


ジャックの言葉に頷きダンタリアンは目の前に並べられている食事を眺めた
それはオクシエントで普段食べている食事と比べると些か質素な物に見える
一口分のサイズをスプーンに取り、そっと顔へと近付ける
通常口があるであろう箇所に触れた食事が彼の黒い顔に吸い込まれるようにして消えた


ダンタリ「…………これは、驚いた」
サリー「あの…お口に会いませんでしたか?」


ダンタリアンの呟きにサリーは大いに戸惑った
やはり自分の料理は彼には不釣り合いだったのだろうか
するとダンタリアンはサリーにその黒い顔を向ける


ダンタリ「見た目は質素な物だが、これは素晴らしい……とてもいい味だ」


言い終えると再び食事を口へと運び始める
そんな彼を見てサリーは酷く安堵した
その一連の流れを見届けジャックもようやく食事に手をつけ始める
そんな中、ダンタリアンの様子を眺めていた博士が驚いた様子で口を開いた


博士「まさかお前が他人を素直に褒めるとは…」
ダンタリ「これは称賛するに値する味、だから私は正直に答えただけだ」
博士「ふむ、まさかあのダンタリアンにここまで言わせるとは……サリー、お前は素晴らしい才能の持ち主じゃな」
サリー「は、博士ったら!」


レライエやダンタリアンだけではなく博士にまで褒められてしまいサリーは恥ずかしさのあまり更に顔を赤らめる
そんな彼女を見てジャックはまるで自分の事かのように喜んでいた








ブギー「ジャーック!何処にいやがるんだアイツはっ!!」


ジャック達が食事を楽しんでいる最中
ブギーはジャックの家を訪れていた
呼び鈴を何度鳴らそうとも彼は一向に姿を見せない
それもそのはず、肝心の彼は今研究所にいるのだ

ブギーは箱を小脇に抱え空いている手で扉を強く叩く
すると突然背後から犬の鳴き声
振り返るとゼロが不思議そうにブギーを眺めていた


ブギー「おいゼロ、ジャックは今何処にいやがる!」


しかしゼロはさぁ?とでも言うかのように首を傾げるだけ


ブギー「お前犬だろ!匂いで探せ匂いで!」
ゼロ「くぅーん…」


ブギーの怒声にゼロは困ったように鳴き、クンクンと鼻をひくつかせる
すると弾かれたように顔をあげ、ある方向を向いたまま大きな声で数回吠えた
その視線の先に見えるのは博士の研究所


ブギー「あそこにいやがるのか!」


よくやったとゼロの頭を軽くたたいたブギーは箱をしっかり抱え研究所の方へと駆け出した

ゼロはその場に浮いたまま、走り去るブギーを呆然と見つめていた
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