矮小猫のおまじない
陽が落ち街が夜を迎え始めようとしていた頃
サリーは研究所の前へと戻っていた
サリー「もうこんな時間だわ」
そう呟きながらサリーはその日であった男性の事を考える
広場を離れた後、サリーは男性を連れこの街を案内して回っていた
男性は彼女の話をしっかりと聞き、街の光景をしっかりと目に焼き付けるかのように見つめていた
サリー「そういえば暫くこの街に留まるといっていたけれど…」
また明日、会えるかしら
サリーは男性の事が気になって仕方がなかった
それは勿論恋などといった意味の物ではない
男性が何者なのかが酷く気になっていたのだ
彼は最初この街に来るのは初めてだと此方に告げていた
しかし案内をしているうちにサリーは彼に疑問を抱くようになった
共に歩く際まるでこの街や住人などを知っているかのような反応を時折見せたのだ
サリー「悪い人には見えなかったけど…」
もしかしたら別の目的があってこの街を訪れたのかもしれない
その場に立ち尽くし1人考え込む
するとそんなサリーの背を軽く叩く感触
突然の出来事に驚き慌てて振り返る
そこにはジャックの姿があった
ジャック「やぁサリー、こんな所に立ってどうしたんだい?」
サリー「ジャック!ごめんなさい、少し考え事をしていたの」
そう告げるサリーはジャックの少し後ろに見える人影に気付いた
そこには見慣れない男性が2人
しかし彼らが身にまとっているローブを見て広場で見た人物だと気付いた
ジャックと共にいるという事は彼の知り合いなのだろうか
気になったサリーはジャックに問いかけた
サリー「ジャック、この人達は?」
ジャック「彼らはオクシエントから魔女を送り届けてくれた僕の知り合い…いや……………家族と言った方が正しいかな」
サリー「魔女さん、見つかったのね!」
魔女を無事見つけ出した事を知るとサリーは喜びの声をあげた
そしてその喜びを感じると共に二人の男性を見やる
ジャックの家族
彼と恋人関係にあるサリーだったが彼の家族の話は初耳だった
するとレライエが嬉しそうに声を発する
レライエ「家族ですか…そう言っていただけてとても嬉しいですよ!ね、ダンタリアン?」
ダンタリ「……別に、嬉しくなど」
喜びを素直に表に出すレライエと違い、ダンタリアンはやはりその気持ちをうまく出せなかった
しかし彼の事を理解しているジャックにはしっかりと、彼がとても喜んでいるのだとわかった
そんなダンタリアンの言葉に苦笑しつつレライエがサリーの前に歩み寄る
笑顔を向け彼女の前にそっと手を差し出した
レライエ「初めまして、レライエと申します」
サリー「レライエ、さん…あ、私はサリーと言います!」
サリーは慌てて名を告げると差し出されていた手に自らの手を重ねた
挨拶と共に握手を交わす2人を見ていたジャックはダンタリアンを手招きする
次は君の番だよ
ジャックの考えを理解したダンタリアンは一向に近付こうとしない
ダンタリアンは相手の思考を読む力を持つ
それは相手に触れる事で発現するのだが、彼曰く自身が求めずとも相手の心を読んでしまう事があるのだという
故に彼は他者との接触を極力拒む傾向にある
その事を理解しているジャックは未だ距離を置くダンタリアンを説得するよう声をかける
彼女は大丈夫だから
しかしダンタリアンは嫌だと何度も首を横に振るだけ
そんな彼の腕を突然レライエが掴んだ
戸惑う彼に構う事なくその腕を引くとそのままサリーの前へと少々強引ではあるが立たせたのだ
そして拒む彼の腕をそのままサリーへ差し出させる
ダンタリ「………………ダンタリアンだ」
抵抗しても力では敵わないと観念したのかダンタリアンは自身の名を告げた
サリーは先程レライエにしたようにその手に触れる
手が触れた瞬間ダンタリアンの肩が微かに跳ねる
その様子を見つめていたジャックとレライエだったが、彼のある行動を見て問題ないと理解した
彼が自らサリーの手を握ったのだ
サリーの心を読み、彼女は安心できる人物なのだと理解したのだ
一方サリーはダンタリアンの顔を見つめていた
フードに包まれているそこに彼女の知る顔というものが存在していない黒一色
それを見つめているとまるで深い闇に飲まれるような錯覚を覚える
しかし不思議と恐怖を感じる事はなかった
ダンタリ「…私の顔がそんなに珍しいか?」
サリー「え……あっ!ごめんなさい!」
声をかけられようやく見つめ続けていた事に気付いたサリーは慌てて謝罪を口にした
そんな彼女とダンタリアンの間にジャックが割って入り両者にそれぞれ声をかける
ジャック「サリー、君が謝る必要は全くないから…ダンタリアンも彼女に悪気がない事くらいわかるだろう?」
ダンタリ「勿論わかっている」
ジャック「なら彼女を困らせるような発言は控えてくれないか?」
ダンタリ「……困らせるつもりはなかったのだが?」
そう言ってダンタリアンはレライエに顔を向ける
どうやら助けを求めているようだ
レライエはやれやれと肩をすくめジャックの前にその身を屈めた
レライエ「ジャック、もうそれくらいで許してあげてください」
ジャック「彼女がそれでいいなら許してあげてもいいかな」
3人の視線がサリーへと注がれる
その視線を浴びたサリーは一瞬戸惑うがすぐに笑顔を見せた
サリー「私は別に…え、と…ダンタリアンさん?どうか気になさらないでください」
その言葉にダンタリアンは素直に頷いた
そしてサリーはそんな彼を見上げ苦笑しているジャックに身を屈めそっと語り掛ける
サリー「ジャック、彼らは暫く街に留まるの?」
ジャック「うーん、そうだね…解呪が済むまではいるんじゃないかな」
サリー「解呪…じゃあもうすぐ元に戻れるのね!」
サリーはその報告に喜び、ジャックの小さな手を取って満面の笑みを見せた
まるで自分の事のように喜んでくれる彼女を見てジャックの表情にも自然と笑顔が浮かぶ
そんな2人を見ていたダンタリアンにレライエが互いに言葉を交わす
レライエ「サリーさん、彼女がジャックの恋人ですか…素晴らしい女性じゃないですか」
ダンタリ「…恋仲になった相手がいると聞いた時は一体どんな相手だろうかと思っていたが」
レライエ「あの時の貴方の動揺する姿をジャックに見せてあげたかったですよ、流石の私もあれにはつい笑って」
ダンタリ「黙れ、殴るぞ」
ダンタリアンはそう言うと本を両手で持ちレライエに構える
そんな彼を見てすみませんと告げながら慌てて本を下ろすよう諭した
その本は貴方の知識として欠かせない重要なアーティファクトであって私の脇腹を攻撃する鈍器ではないです
手に持つ本を暫し眺めその通りだなと腕を下ろす
レライエはほっと胸を撫でおろし再度ジャック達に視線を移した
視界に映る2人が本当に愛し合っている
それは心を読む術を持たないレライエにもわかる事だった