矮小猫のおまじない
その後、ジャック達は魔女が落ち着くのを待ったのち早速呪いの解呪について語り合う事となった
そこでジャックがふとある疑問を抱き手をあげる
ジャック「そういえばわからない事があるんだけど…」
魔女「私でわかる事なら何でもお答えします」
ジャック「この呪いはカイヤ…いや、カイヤの中にある魂石が原因という事なんだよね?」
魔女はその問いかけに頷き語りだした
魔女はカイヤを生かし続けようと魂石をその小さな体に埋め込んだ
その際に魂石を活性化させるため自身の魔力をありったけ注ぎ込んだのだ
それはお世辞にも熟練とはいえない彼女にとっては非常に危険な行為だった
しかし魔女の努力の甲斐あり魂石は無事カイヤの身体に取り込まれ同化する事ができた
しかしそれからが問題だった
同化した魂石はそのものを生かす為に常に活動している
そのままではいずれ込められていた魔力は枯渇しその力を失う
本来ならば魂石に定期的に魂を吸収させなければならないのだが、その魂を得る事は簡単ではない
そこで彼女は魂の代わりにと自らの多くの魔力を定期的にカイヤに注ぎ続けていた
魂石は魔力を魂の代わりとして吸収しその効力を発揮し続ける
ダンタリ「だがそれではいずれ限界が訪れる」
ジャック「限界…つまり?」
ダンタリ「魂石が本来取り込むはずの魂を求めて暴走する…今回その猫がお前を噛んだのは魂を得る為の行為だ」
そう告げるとダンタリアンはジャックの顎に指を添え上向かせた
無言のまま大きな眼窩を見つめる
ダンタリ「ジャック、今のお前は魔力をろくに扱えなくなり他者の魔力すら感じ取れない…どうだ?」
ジャック「その通りだよ…でもそれがどう関係して」
ダンタリ「簡潔に言う、魂の代わりとしてお前の魔力が奪われたのだ」
その言葉にジャックはカイヤを見つめた
彼の言う事が本当ならばジャックの魔力は魔女に抱かれ眠りにつく可愛らしい猫の体内に収まっている事になる
話を聞いていたレライエはその意見に同意するよう頷いた
レライエ「彼の言う通りだと思います…本来私達の魂は魔力で覆われ守られている、魂を吸収するなら先にその魔力を全て取り払わなければなりません」
魔力とは魂に宿っている
魔力は人ぞれぞれ魂から生み出される量が異なり、その量が多ければ多いほど魂を中心に渦巻き体内に蓄積されていく
その魔力は通常魔法を使う為に使用される、いわば魔法の源
しかしもう一つ重要な役割を持つ
魂そのものを守る壁となるのだ
今回のジャックのように魂を吸収する場合、まずは魂を守る魔力を取り払わなければならない
カイヤは彼の指に噛み付いた瞬間その魔力のみを吸い上げたのだ
ダンタリ「つまり今のお前は猫に同化する魂石に魂の代わりとして根こそぎ魔力を吸収された…よほど飢えていたのだろう」
レライエ「そのせいでジャックの魔力は枯渇寸前、今の貴方の魂…実は無防備なんですよ?」
ジャックはそっと胸元に手をあてる
まさか自分がそんな状況に陥っていたとは思わなかったのだろう
ダンタリ「奪われた魔力はお前の魂が再び生み出す、だが未だにその兆候はない…それこそがお前にかけられた呪いといえるだろう」
魔力は常に魂から生み出される
ジャックが魔力を奪われかなりの時間がたつが未だに彼の魂から新たな魔力が生み出されてはいない
これは通常あり得ない事だ
最初は身体が小さくなった事が呪いだと思っていたがどうやら本当の呪いは此方のようだった
その事を理解したジャックだったが更に疑問が生まれる事となった
呪いのせいでないのならば何故この身体は小さくなってしまったのか
ジャック「なら何で僕の身体はこんなに小さくなったんだろう」
その言葉にその場にいた全員が黙り込んだ
ジャックはそんな皆にどうしたんだと問いかける
するとレライエが困った表情で答えた
レライエ「それは…すみません、私にはわからないのです」
魔女「ごめんなさい…私もそれだけはわからなくて」
ジャック「…え、そうなのかい?」
レライエ、そして魔女でさえもこの身体が小さくなった理由がわからないと告げる
ジャックは意見を求めようとダンタリアンに視線を向けた
ダンタリ「私も知らんぞ」
彼が告げたのはその一言だけ
ジャックは焦った様子でそんなダンタリアンに詰め寄る
ジャック「君がわからないだって?そんな事あるわけない!」
ダンタリ「私にもわからない事があるなど信じられんが…事実だ」
ジャック「その本で調べればいいじゃないか!」
ダンタリ「これを使うのは簡単な事ではないのだ…ジャック、よく考えてみろ」
一体何を考えろと言うんだ
ジャックはダンタリアンの言葉を待った
ダンタリ「昔から言っている事だが、お前は普通ではないのだ、ああ…勿論悪い意味ではないぞ」
ジャック「普通じゃないって言われても…」
ダンタリ「お前は種族として特殊なのだ、長年共に過ごした私達でさえ未だにお前の全てを理解しきれていない」
レライエ「その通りです、だから今回貴方が小さくなってしまった事もそれが原因で起きた事ではないかと考えているんですよ」
特殊な種族
それは昔からよく言われていた事だった
幼い頃は他者からこれまで見た事もない種族で変わっている、不思議だとよく言われていた
しかしジャック自身は自分が他者の言う特殊なものだとは一切思っていなかった
それは今も変わらない
しかしあのダンタリアンまでもが今回の身体の異変をわからないと言う
ジャック本人ですら身体の変化の理由がわからない以上その疑問が解かれる事はない
ジャック「特殊、ね…聞き飽きた言葉だよ」
ダンタリ「……他に何か気になる事はあるのか?」
ジャック「この姿になった原因は呪いなんかじゃなく全くの謎という事はわかった…あとはそうだな…本当の呪いの方を解呪したいけど、その方法を知りたいな」
そう言って魔女へ視線を向ける
体の異変が呪いではない事が判明したはいいが、魔力が生み出されない此方の呪いをどうにかしなければならない
魔女は腕に抱くカイヤを見つめ唇を開く
魔女「この子の…カイヤの中にある魂石から貴方の魔力を引き出し魂へと戻す、そうすれば…」
レライエ「…それはまた危険な」
ダンタリ「下手をすればその猫は死ぬだろうな」
ジャック「それは…本当なのかい?」
魔女は彼の問いかけに頷いた
魂石に吸収された魂や魔力を強引に引き出す
それ自体は可能ではあるが危険な行為でもあった
最悪の場合魂石は割れてしまいその効力を失う
そうなれば魂石で命をつなぎとめているカイヤは
ジャック「…他に、何か方法はないのかい?」
魔女「そうするしか…ないんです」
魔力が戻る
そうすればこの呪いは解けると告げた魔女
しかしその代償は彼女が重罪だと知りながらも生かした相棒と呼べるカイヤ
ジャックは素直に喜ぶことが出来なかった
するとダンタリアンが仕方ないと言った様子で魔女に向け言葉を発する
ダンタリ「魔女、貴様がいう方法でしかこの呪いを解く事が出来ないというのは正しい…だがその猫が死ぬなどと決めつけるのは間違いだ」
魔女「え、でも…」
ダンタリ「確かに魂石から魔力を強引に引き出すことは危険な行為、だが貴様の考えている以外の方法ならばその危険も減るという事を理解すべきだ」
魔女「他の方法と言われても…」
彼の言う事を魔女は理解できなかった
他にどんな方法があるというのか
するとレライエは何かを思いつき声をあげる
レライエ「そうか!魂石から魔力を引き出すだけでは魂石が枯渇し破壊される、ならばある程度の量を引き出しその穴を埋めるよう別の魔力をこめれば…」
魔女「…そうすれば、魂石は枯渇する事がない…」
ダンタリ「そういう事だ…だがそれは貴様が1人で行うのだ」
カイヤが死ぬことなく自身の呪いも解ける方法
ジャックは思わずダンタリアンに飛びついた
その突然の行動に彼は驚き、自身に抱き着き明るい笑顔を浮かべるジャックを見下ろす
此方を見つめる大きな眼窩に思わず怯んでしまう
ジャック「そんな方法を思いつくなんて…流石ダンタリアンだ!」
ダンタリ「…こんな事も思いつかない方がどうかしている」
ダンタリアンは顔を背けぼそりと呟いた
魔女から見るそんな彼は感情がないかのようにしか映らなかった
しかしレライエは違った
彼はジャックの褒める言葉に照れてしまい顔を合わせられない
その感情を表に出せればいいのに
レライエはそう思いはしたが口にはせず、二人の様子を見て微笑んだ