矮小猫のおまじない



時刻は少し前に遡る
ジャックが家を出て暫くした後、サリーは食事に必要な材料の買い出しへと出ていた
夕食の事を考えると足取りがとても軽く感じる

ジャックと博士と3人での食事

これは気合を入れてうんと美味しいものを作らなくてはいけない
そう考えると自然と気合が入る


ブギー「おい」


どんなものを作ろう
2人の好物をそれぞれと一つは自身の好きな物で


ブギー「おい聞いてんのか?」


お酒もあった方がいいかしら
でも今のジャックは子供なのだからお酒は控えて美味しいジュースでも


ブギー「おい!!」
サリー「きゃっ!」


一際大きな声にサリーは驚き思わず悲鳴をあげた
するとそこにはブギーの姿


サリー「ブギー…驚かせないで」
ブギー「何度も呼んでんのに気付かねぇお前が悪いんだよ」
サリー「…ごめんなさい、考え事をしていたの」


ブギーはやれやれといった様子で溜息を一つ
そんな様子を見てサリーは少し申し訳なく思った
だがそこで一つ疑問が浮かぶ
何故ブギーは自分を呼び止めたのか


サリー「ところで私に何か用?」
ブギー「あーそれだそれ、ジャックが何処にいるか知らねぇか?家にいったが誰もいなかったぞ」
サリー「ジャックなら町長の家よ、今日から仕事を再開させると言っていたから」
ブギー「メイヤーのところ?そりゃ思い浮かばなかった」


それを聞くとブギーはメイヤーの家の方角へと走り去ってしまった
その後ろ姿を見つめていたサリーは少し不安な思いに駆られた
ブギーが珍しく焦っているように感じたのだ
そんな彼がジャックを探している

これ以上何事もなければいいけれど

そう考えつつサリーは食材を求め市場へと向かった







時刻はもうすぐ昼
訪れたのは以前ジャックと共に来た市場
昨日の時と同じく住人達が様々な食材を求め集まっている


サリー「何かいい物はあるかしら」


サリーは歩きながら並べられた食材を眺めていく
魚や肉、野菜に果物、穀物など数多くの食材に目移りしてしまう
すると前を見ていなかったサリーは誰かと衝突してしまった
幸い相手はこける事はなかったようだがサリーは思わず尻もちをついてしまった
誰かにぶつかったのだと気付くと慌てて声をかけた


サリー「ご、ごめんなさい!」


そう告げたサリーは目の前にいる人物を見上げると思わず息をのんだ

炎のように赤いローブに身を包んだ男性
その背丈はジャックより遥かに高くローブに隠された体は非常に鍛え上げられている事がわかる
フードから僅かに覗く目はまるで夜空に浮かぶ満月のような美しい輝きを見せていた

男性は無言のままのサリーへと大きな手を差し伸べる


男性「失礼…怪我はないだろうか、お嬢さん」
サリー「え、あ…はい、大丈夫です」


サリーの耳を刺激する低くしかしどこか優しさを感じる心地よい声
その声に思わず聞きほれてしまう
差し伸べられた手にそっと自身の手を重ねる
大きな手がそれを包むとサリーの身体をいとも簡単に起き上がらせた


男性「怪我がなくて何より……失礼だが貴女はこの街の生まれなのだろうか」


その問いかけにサリーは頷く
すると男性はフードに隠された顔に微かに笑みを浮かべた


男性「そうか、ならば一つ…頼みを聞いてほしいのだが」
サリー「頼み、ですか?」


見ず知らずの、住人以外の人物の頼み
通常ならば一度断る事も考えたが何故かその男性の目を見た瞬間、彼は大丈夫だと心のどこかで安心を覚える自分がいた


サリー「どのような頼みなんですか?」
男性「実はこの街に来るのは初めてなのだ…よければ街を案内してもらえると助かるのだが」


男性はとても紳士的でそんな彼にサリーは好感を覚える
そしてその言葉に笑顔を見せ小さく頷いた









サリー「あ、あの…私が持ちますから」
男性「女性にこれだけの量は荷が重い、案内をしてくれるのだからその礼だと思ってほしい」


食材を買い終えたサリーは酷く戸惑っていた
市場で声をかけてきた男性が自分の代わりに荷物を抱えているのだ
街を案内する礼と言われたが別にそんな事をしてもらう程大したことをしたわけではない
そうこうしているうちに研究所へと辿り着いてしまった


男性「ここが貴女の住まいか…なんとも不思議な場所だ」
サリー「ここはフィンケルスタイン博士の研究所なんです…えっと、私の…父のような人です」


その名を聞いた男性は一瞬動きを止めた
それに気付いたサリーは何かいけない事を言っただろうかと不安を抱える


男性「そうか…彼はここに住んでいるのか」
サリー「…お知り合いなんですか?」


しかし男性はその問いかけには答えず抱えた荷物を研究所内へと運び入れた
サリーは気になったものの、答えない相手にしつこく聞く事は失礼だと考えそれ以上問いかける事はなかった








男性「さて…では案内を頼むとしよう」
サリー「は、はい!でも何処から案内すればいいのかしら」
男性「そうだな…この街には王がいると聞いているが」


このハロウィンタウンに住む王と言えば勿論ジャックの事だ
あれから時間も経つし家に戻っているのかもしれないと考え男性をジャックの自宅へと案内する事とした


研究所を後にし広場へと出ると何やらいつもと違う雰囲気
広場の中央にはローブを身に纏った人物の姿があった

その数は3人
住人達がそんな彼らから距離を置き不思議そうに眺めている

一体誰だろう
そう考えていたサリーは突然腕を掴まれた
驚き顔を上げるとその腕を掴むのは男性の大きな手


男性「何やら取り込み中のようだ…王の自宅は後にして他を案内してもらえないだろうか」
サリー「は、はい…わかりました」


男性の意見に頷くとサリーはローブの人物達から離れるよう歩き出した
男性はそんなサリーの後に続く
その場を離れる際にローブの人物達に視線を向けた

あまり面倒ごとを起こさなければいいんだが

そう1人考え広場を離れていった
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