矮小猫のおまじない





ダンタリ「ふむ…ハロウィンタウン、ここを訪れるのも懐かしいな」


ダンタリアンは広場に立ち尽くし街並みをゆっくりと眺める
彼が直接この街を訪れたのはジャックが王となる以前の事

オクシエントにてセルヴロクの元育っていたジャックに王としての素質を見抜いていたダンタリアンは幼い彼を連れこの街を訪れた
当時の王はセルヴロクの総統フォラスと親しい間柄だった男
その王と接触させ次期王として認知させようという考えだった
当時の王はジャックを甚く気に入りダンタリアンの思惑通りとなった

当時の事を思い返していたダンタリアンの背後に立つ茶色いローブを身に纏う人物が声をかける


「思い出に浸るとは珍しいですね」
ダンタリ「私が思い出に浸る事はそんなに奇妙な事か?」
「奇妙だなんて…そんなこと思っていませんよ」
ダンタリ「そうか…ところでジャックは何処にいるのだ」


そう言って周囲を見渡す
視界に映るのは動揺し戸惑う住人達の姿のみ
ダンタリアンは一番近くにいた住人へと歩み寄った
そこにいたのはコープスチャイルドだった
目の前に立った見慣れぬ相手を見上げる彼は自然と身を震わせる


ダンタリ「子供、ジャックが何処にいるか知りたいのだが」
コープス「し、知らないよ」
ダンタリ「…本当か?」


コープスチャイルドの視線に映るのは彼の顔
その顔は黒一色で闇夜のよう
それ以上言葉を発しないコープスチャイルドにダンタリアンは仕方ないと腕を伸ばす
その手が彼の小さな頭に添えられると両者は暫し黙り込む

暫しの間をあけダンタリアンの手がゆっくりと離れた
するとコープスチャイルドは恐怖のあまり腰が抜けその場に座り込んでしまった


ダンタリ「どうやら彼は真実を言っているようだ」


ダンタリアンは相手の心を読む事が出来る
コープスチャイルドの心から読み取れたのは自身に対する恐怖の念のみ
その念一色に染まっておりジャックに関する事は何一つ読み取る事は出来なかった

その一連の流れを見ていた茶色いローブの人物が肩をすくめる


「可哀そうに、すっかり怯えていますよ?」
ダンタリ「む……別に怖がらせるつもりはなかったが」
「怯えさせてしまってすみません、ですが彼に悪気はないのでどうか許してあげてください」


そう声をかけられコープスチャイルドはコクリと頷き彼の手を借りて立ち上がった
そしてダンタリアンに振り向くと茶色いローブから見える口元に笑みを浮かべこっそりと語りかける


「ほら、ちゃんと謝らないと…悪い事をしたら謝罪を口にするのが礼儀ですよ?」
ダンタリ「…貴様に言われなくともわかっている」


ダンタリアンはコープスチャイルドの前にそっと屈みこむと暫し黙り込む


ダンタリ「子供…すまなかった」


目の前にいたコープスチャイルドにのみ聞こえたとても小さな声
それを耳にしたコープスチャイルドは数度頷くと彼から逃げるように走り出してしまった

屈んだままそれを見つめるだけのダンタリアン
無言で立ち上がると茶色いローブの人物の方へと振り返る


ダンタリ「謝罪したが…逃げられた」


何故だと語り掛けるダンタリアンにやれやれとため息を漏らす
ダンタリアンは知識を最大の武器としている
この世界でも1、2を争う程の膨大な知識を有しているだろう
しかしその代わりか彼には感情面で大きな問題があった
先程の子供、コープスチャイルドとの接触がいい例だ
彼は心の中では本当に悪い事をしてしまったと思い後悔していた
しかしそれをうまく表に出す術を知らない
本人は努力しているつもりなのだが他者の目からに映る彼はまるで感情を剥奪されたかのように見えるだろう

そんな彼を理解できるのは数人程度だ
今この場にいる茶色いローブの人物
組織の総統フォラス
そしてジャック・スケリントン


ダンタリ「しかしジャックは何処に行ったのだ…かくなる上はここにいる民全ての心を読んで」
「それはやめてくださいね?」


住人達は揃ってダンタリアン達を警戒し距離を置いている
そんな中で心を読んだところでジャックの情報を引き抜く事は出来ないだろう
先程のように


ジャック「ダンタリアン!」


聞きなれない子供の声が聞こえた
この街で彼の名を知る者は少ないはず
誰だと振り返ると此方へ走ってくる幼い姿
その姿を見たダンタリアンは肌身離さず持ち歩く本をその場に落とした

此方へ向かってくる姿に見覚えがあったのだ
それは少し前
この場で思い返していた記憶の中で見た姿


ダンタリ「…ジャック?」


自身の元へ駆け付けた姿をそのまま見下ろす
まさしくそれは幼い頃のジャックの姿だった


ジャック「街に来るのは聞いてたけど…こんなに早くだなんて思わなかったよ!」


驚いたと告げるジャックを見下ろしたままダンタリアンは動かない
彼の隣に立つ茶色いローブの人物がジャックへと声をかけた


「お久しぶりですね、ジャック」
ジャック「その声はもしかして…レライエじゃないか!君も来てたんだね!」
レライエ「ええ、ダンタリアンの護衛を兼ねて」


そう言って茶色いローブに包まれた顔を露にする
緑の衣を身に着けたその体はジャックより大きく背には弓矢
一見人間のような外見を有しているが耳は尖り額には小さな横一線の傷のような痕

レライエが笑顔で両腕を広げるとジャックは嬉しそうにその胸に飛び込んだ


ジャック「こうして会えるなんてとても嬉しいよ!」
レライエ「私もです、最後に会ったのはもう何年も前になりますか」


逞しい両腕で小さなジャックの身体を優しく抱きしめる
腕の中の小さな体にレライエは思わず苦笑した

まさかこんな幼い姿になっているとは



一方ダンタリアンはその場に立ち尽くしたまま二人の抱擁をただ眺めていた
ジャックが呪いを受けている事は知らされていたがこんな幼い子供の姿になっているとは予想外だった

そんなダンタリアンに気付いたレライエは抱えていたジャックをそっと下ろすとこっそりと声をかける


レライエ「ダンタリアンにも何か声をかけてあげてください、貴方の姿を見て驚いてしまっているようですから」


それを聞くとジャックはダンタリアンの元へ歩み寄った
その場で見上げ声をかけてみる


ジャック「ダンタリアン…驚かせてしまったかな?」
ダンタリ「………別に…さほど驚いては、いない」


彼にしては珍しいそのたどたどしい発言にジャックは思わず笑ってしまった
普段の彼からは信じられないほど動揺しているのが丸わかりだ
ジャックが固まったままの彼の手を掴むとダンタリアンの身体が微かに跳ねた


ジャック「久しぶりだねダンタリアン、本当に…会えて凄く嬉しい」
ダンタリ「……………私もだ」


ダンタリアンは身を屈ませると触れていた手をそっと包み込んだ




魔女「あの……」


その声に気付き3人が其方を見やる
魔女はその視線に戸惑いながらか細い声を出す


魔女「感動の再会だとは思うんですけど……その、何故私はここに連れてこられたんでしょうか…」


ジャックがダンタリアンを見上げる
彼の言わんとする事がわかったのかダンタリアンはきっぱりと答えた


ダンタリ「理由を告げず連れてきた」
ジャック「連れてくるならまず説明くらいしておこうよ…」
ダンタリ「仕方あるまい、急ぎだったのだ」


ジャックは頭を抱え盛大に溜息をもらす
目が合ったレライエはすみませんと申し訳なさそうに笑った
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