矮小猫のおまじない
その後ようやく落ち着きを取り戻したブギーは未だに不機嫌な表情を浮かべていた
なんであの野郎が来るんだ
それは通常あり得ない事だった
ダンタリアンはオクシエントを居城とする組織セルヴロクに欠かせない重要な人物
また本人も外出をあまり好まず滅多に都市から出る事はない
そんな彼がこのハロウィンタウンに訪れるのだ
余程の事があったのだろうかとブギーは考えふとジャックを見た
ブギー「なぁ、もしかしてあの野郎が来る理由ってのは…」
ジャック「いやぁ…実は例の魔女がオクシエントにいるらしくてね、彼女を確保して連れてくるよう頼んだんだけど」
ブギー「それであの野郎が来るってのかよ」
それを聞いてやはりとブギーは項垂れた
ダンタリアンはジャックの事をやたらと気にかけている
それは彼が王になる以前からだが、王となってからというものそれはますます強まっている
勿論王という立場があるため気に掛けるのは当たり前の事ではあるが、彼自身がジャックを甚く気に入っているのだ
そんな彼が呪いにかかり助けを求めればダンタリアン本人が動く事は明白だった
ブギー「いつ来るのかはわからねぇのか…出来る事なら顔を合わせたくねぇんだが」
ジャック「なら家に引きこもってるしかないんじゃないかな?」
その意見にブギーは不機嫌そうに首を横に振った
顔を合わせたくはないがそれではまるで此方が相手を恐れ逃げ隠れているかのよう
別に俺はあの野郎が怖いわけじゃねぇ
ジャック「じゃあばったり鉢合わせしないよう気を付けるしかないな、まぁ頑張ってくれ」
ブギー「お前はいいよなぁ、あの野郎がいつ現れても何一つ気にする事なんてねぇんだしよ」
するとジャックはぎこちない笑顔を見せた
その顔を見て何かを察したブギーはにやりと笑みを浮かべる
ブギー「……あーそうかそうか」
ジャック「なんだよ」
ブギー「いやぁ~なんでも~?」
ブギーは彼のぎこちない笑顔を見てある程度の予想をたてた
ダンタリアンは確かにジャックを気に入っている
しかしだからといって彼に甘いわけではない
王になった頃から幾度となく注意を促していた
お前は王としての自覚が足りない
王たるもの威厳のある振る舞いを身に着けろ
己の立場を理解しそれ相応の態度で民と接するよう心掛けるべし
常に己に降りかかる危険を回避するべく慎重な行動を取るように
そんなお堅い事を散々ジャックに言い聞かせてきた彼の事だ
今回の呪いの事を知ってダンタリアン本人がこの街を訪れるのは勿論彼に直接、昔のように指導を試みる為だろう
ブギー「お前も大変だよなぁ、今回はどんだけ小言を言われるか…俺の予想じゃぁ5、6時間ってところだな」
ジャック「…それは言わないでくれ、本当にそうなりそうだ」
町長「あの…ちょっと言いですか?」
メイヤーが2人に声をかける
その声に振り返った2人だったがメイヤーは何故か窓から外を眺めている
ジャック「どうしました?」
町長「えー…ダンタリアン、でしたか…オクシエントから来るのは」
ジャック「ええ、そうですけど」
町長「…彼の特徴を教えてもらえます?」
ダンタリアンの特徴
全身を包む闇のようなローブに縁を彩るのは銀の装飾
フードに包まれた顔は常に黒一色に覆われその表情を見る事は出来ない
そして常に鎖を巻き付けた大きな本を所持している
その特徴を聞いた町長はなるほどと一言
そしてジャックとブギーを手招きすると窓から見える広場の方を指差した
2人が窓から指差された方向を眺める
少し離れた所に見える広場に人影が3つ
1人は茶色いローブを身に纏っており誰なのかはわからない
そしてもう一人は見覚えのある姿
探し求めていた魔女だった
その姿にジャックは思わず喜びを露にする
これで元に戻る事が出来るのだ
だがその喜びも束の間、ジャックはふと考えた
魔女がこの街にいる
という事は…
そう考え最後の一人を見やる
そこに見えたのは
ジャック「………ダンタリアンじゃないか!」
ブギー「おいおいおいおい!いくら何でも来るのはやすぎだろ!」
町長「やっぱりあれがダンタリアン…ですか」
ジャックはこうしてはいられないと慌てて広場へ向かうべく部屋を後にする
しかしそこでブギーに腕を掴まれその足を止めた
ブギー「おい、あの箱は結局アイツに渡しちまうのか?」
ジャック「勿論渡すつもりだよ、だから後で君が持ってきてくれ」
ブギー「なんで俺が…っんな事したらアイツと鉢合わせだぞ!」
ジャック「持ってきたらすぐに帰ればいいだろ!ちゃんと持ってくるんだぞ!?」
そう告げるとブギーの手を払いのけジャックはダンタリアンの元へ向かうべく部屋を飛び出した
残されたブギーはどうしたものかと1人立ち尽くす
代わりに行ってくれねぇかと望みを託すかのように視線をメイヤーへと向けた
しかしメイヤーは目が合うと同時に忙しい忙しいと盛大な独り言を漏らしながら書類の束を抱え部屋の奥へと消えていった