矮小猫のおまじない




ブギーがまんまとジャックの罠にかかって書類処理に追われ1時間程が経過した
最後の一枚を処理し終えたジャックがペンを置く


ジャック「…終わったー!」
ブギー「やっとかよ…」


ジャックはやっと解放されると大喜び
片やブギーは慣れない事をしていたからか何処か疲れ切った様子で力なく項垂れている
メイヤーは積まれた処理済みの書類を確認しほっと安堵した


町長「いやぁ…二人の手助けが無ければ一生終わらないところでしたよ」
ブギー「お前の場合まじで一生終わらねぇだろうな」
ジャック「ブギー、失礼じゃないか」


町長は面目ないと苦笑してみせる
ブギーを注意しながらジャック自身も心の中ではもしかしたら本当に終わらなかったかもしれないなどと考えていた
勿論口に出したりなどはしないが


ブギー「よし、これでもうやる事は全部済んだんだろ?」
町長「えーっと…ええ、そうですね!」


その言葉を聞くや否やブギーは椅子に腰掛けていたジャックの首根っこをつまんで持ち上げた
まるで猫のようなその扱いにジャックは不機嫌そうにブギーを睨みつける


ジャック「前々から思ってたけどその持ち方止めてくれないか?」
ブギー「あ?じゃあどうしろってんだよ、どこぞのお姫様みてぇに大事に抱えろってか?」
ジャック「そんな事してみろ、その腹をさばいてやるからな」
ブギー「誰がやるかよそんな事、それより話があるって言っただろうが」


さっさと行くぞ
そう告げるブギーの手から離れる為ジャックは数回自身の身体を揺らした
そしてある程度勢いがついた瞬間、ブギーの横顔に全力で蹴りを繰り出す
いくら身体が小さいとはいえ勢いをつけた一撃を無防備な顔にくらえばブギーもたまらず掴んでいた手を離す

解放されたジャックは腰に手を当てブギーを睨んだ


ジャック「全く、僕は猫じゃないんだぞ?」
ブギー「てっめぇ…今のは思ったよりきいたぞ」
ジャック「それはよかった」


痛む横顔に手を当てるブギーを見てジャックはご満悦な様子
ブギーはそんな様子を見て苛立つものの、一応子供の身体である今の彼に反撃をする事はなかった
普段よりも更にひろがった体格差に相手は魔力すらまともに扱えなくなっている
日頃の鬱憤を晴らすチャンスといえるタイミングではあるのだが、そんな彼に勝利してもそれは当たり前の事
ただ自分が虚しくなるだけだ
ブギーは気を取り直しジャックの前に歩み出た


ブギー「わかったわかった…だが今はまず俺の話を聞け、その為にお前の仕事に付き合ってやったんだからな」
ジャック「話ね…まぁ今ならいいか、聞くよ」


暇になったし
その一言にブギーは再度苛立つ
しかしここでまた喧嘩になっては一向に話が進まない
今の言葉は聞かなかった事にしよう
そう心の中で決め腕を組む


ブギー「例の箱があっただろ、お前らが見つけたやつだ」
ジャック「ああ、あれね」
ブギー「あの後俺なりに調べてみたわけだが…」


子供達との宝探しの際に発見した謎の小さな箱
現段階ではどうする事も出来ず一先ずブギーの元に保管する事となった物だ
ブギーはジャックと別れた後、どうしても箱の事が気になってしまっていた
そこで独自で箱の事を調べ上げたのだ


ジャック「何かわかったのかい?」
ブギー「中身までは流石の俺でもわからなかったが…確実に厄介な代物だぞ」


ブギーの話によればその箱はどのような力をもってしても破壊する事は出来なかったのだという
ならば錠前を破壊しようと考えた
しかし錠前には何かしらの魔力がこめられている
そこで思い付いたのがシャドーに破壊させるという考えだった


ジャック「うわ…シャドー可哀そうに」
ブギー「おい話を遮るんじゃねぇよ」


ブギーの影から召喚されたシャドーは早速錠前に手をかけた
しかしその錠前はいくら引っ張ろうともびくともしない
殴りつけようとも結果は変わらなかった
最終的にシャドーは己の右腕を鋭利な刃物へと変える
影で出来ている彼には造作もない事だった
そしてその刃物へと変わった腕を振り下ろし錠前に触れた瞬間

シャドーの身体が文字通り弾け飛んだ

錠前には傷一つなく、逆にシャドーが破壊される事となったのだ


ジャック「…それは本当かい?」
ブギー「あれは俺も予想外だったぜ、あの錠前をぶっ壊そうもんならこっちがそっくりそのままぶっ壊される、文字通りな」
ジャック「つまり鍵がなければ開けられないと」
ブギー「そうだ、でそんな危なっかしいもんで守らなきゃならねぇようなもんがあの中にはあるって事だ」


その言葉を聞きジャックは彼に預けたのは正解だったと考えた
もしもあのまま箱を奪い返し子供達に差し出していたら、きっと彼らはシャドーと同じ運命を辿っていただろう


ジャック「そんな物騒な物なら保管方法を少し考えないといけないな」
ブギー「今は俺が預かってはいるが…いっそ沼にでも沈めちまうかぁ?」


ブギーは面倒くさそうに適当な事を口にする
ジャックはそれが本気ではない事を理解しつつ考え込む

そのような危険な魔力が宿るものをこの街で管理するのは少々不安が残る
常に監視の目が届くようなどこか安全な保管場所はないだろうか
そこでジャックはふとある考えを思いついた


ジャック「そうだ!ダンタリアンに預けよう!オクシエントなら一番安全だろうし」


その名を聞いたブギーは今まで見た事もない程に顔を顰めた


ブギー「おい…ダンタリアンに預ける?まじで言ってんのか?」
ジャック「だって彼ならこういった物の扱いを心得ているしオクシエントなら保管する場所としては一番信頼できる場所だろう?」
ブギー「そりゃぁまぁ…そうだけどよ」


ブギーはジャックの意見も最もだと理解しつつもどうも賛同しかねている様子
それもそのはず
ブギーとダンタリアンは互いに非常に仲が悪い
相性の問題もあるのだろうが、ブギーの今までの行いを彼は未だに許してはいないのだ

もう改心しているから大丈夫
そうジャックが説明しても彼は聞く耳を持たず、一時期ブギーを幽閉または処刑すべきだという意見を出す程忌み嫌っていた

そんな相手を勿論ブギーも好いているはずがない


ジャック「まぁ君がなんと言おうとこれは彼に預けるよ、どうせ近いうちにここに来るんだしその時についでに」
ブギー「ちょっと待て、今なんて言った?」
ジャック「ダンタリアンが近々ここに来るって言ったんだけど?」


その言葉を聞いたブギーは突然ジャックの小さな両肩を掴んだ
そして勢いよく顔を近付け声を荒げる


ブギー「なんであの野郎がここに来るんだ!?それはいつだ!!いつ来やがるんだ!!!」
ジャック「だから近いうちって…ああもう!肩が痛いし顔が近いし声がうるさい!!」


ダンタリアンが余程嫌いなのだろう
すっかり冷静さを失っているブギーの顔面にジャックは精一杯の頭突きを繰り出した

その衝撃でブギーは肩を掴んでいた手を離し顔を押さえる
一方ジャックも頭突きのせいか痛む顔を押さえる


そんな二人を無言で見つめるメイヤーは痛そうだなぁなどと考えつつ処理済みの書類をまとめていた
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