矮小猫のおまじない
朝
先日と同じくジャックより早く起床したサリーは朝食の準備をしていた
そこへジャックが眠たそうに欠伸を漏らしながら姿を現す
サリー「おはようジャック…あまりよく眠れてないみたいね」
ジャックは無言で頷くと椅子によじ登りテーブルへと向く
そしてそのまま顔を突っ伏してしまった
そんな彼を見てサリーは心配そうに声をかける
サリー「一体どうしたの?」
ジャック「いや…うん………もうすぐ長時間にわたる小言地獄が待っていると思うと…ハハハ」
サリー「小言地獄…そ、それは私もちょっと嫌だわ」
サリーはすっかり項垂れたジャックの小さな背を慰めるよう優しく撫でる
するとジャックはゆっくりではあるがようやく顔をあげた
ジャック「まぁ…今更後悔しても仕方ない、こうなったら少しでも小言の時間を短縮できるよう努力してみるよ!」
ジャックは持ち前のポジティブさでサリーに笑顔を見せた
サリーはそんな彼に安心しながらも、ジャックの言う小言の事が気になって仕方がなかった
彼を小言だけでここまで追い込むとは一体どんな相手なのだろうか
ジャックは気を取り直し目の前にある朝食に早速ありつく事とした
彼女の作る食事は相変わらず美味しい
用を済ませたサリーも食事をする為にジャックの向かい側に座り込んだ
食事に手をつけながらジャックの方をそっと見つめる
先程までの様子とは一変し嬉しそうに食事を口にするその姿につい微笑む
サリー「そういえば今日は何をするの?」
ジャック「うーん、そろそろ仕事を始めようかと思ってるんだけど」
サリー「…そういえば町長さん、あれから仕事を持ってこないわね」
ハロウィンタウンでの仕事と言えば通常はハロウィンの準備だ
一年をかけ計画をたて小物などを手作りしリハーサルを行う
しかしそれ以外にも仕事はある
それは
住人達ではなく主にジャックが行うものなのだがその仕事を持ち込むのは町長だ
しかしジャックが小さくなってから彼はその仕事を回してこない
きっと彼なりに此方を気遣っての事だろうという事は勿論わかってはいる
ジャック「あまりため込みすぎると後々困るのは僕だしこの身体でも書類くらいなら問題ないからね…サリーは今日はどうするんだい?」
サリー「私は博士の所に一度戻るわ、色々困ってるだろうから」
そう告げるサリーの表情を見てジャックは笑顔を浮かべ頷いた
何だかんだいってやはり博士の事を心配しているのだ
ジャック「そうか、なら折角だし今日の夜は博士と一緒に食事なんてどうだい?」
サリー「夕食を一緒に?」
ジャック「そう、研究所で僕と君と博士で」
ジャックの突然の提案にサリーの表情に笑顔が浮かぶ
その案に彼女は大きく頷き賛同した
サリー「それは素晴らしいわ!是非そうしましょう、後で博士に伝えておくわね」
ジャック「うん…ふぅ、ごちそうさま」
食事を終えたジャックは椅子から飛び降りると身に着けている黒いマントを靡かせた
因みに本日は吸血鬼ブラザーズをイメージした衣服だ
ジャック「じゃあ僕は町長の所に行ってくるよ」
サリー「ええ、気を付けてね」
サリーに元気よく手を振るとジャックは颯爽と外へと向かう
そんな彼を見送ったサリーは夕食はどんなものにしようかしらと嬉しそうに考え始めた
ここは町長ことメイヤー宅
皆が朝食にありつく時間帯ではあったがメイヤーの家から聞こえるのは何やら苦し気な悲鳴だった
町長「うぅぅ…困りました…私一人では処理なんて出来ません」
メイヤーの前には多くの書類の山
それは普段ジャックが処理すべきものだったが、今の彼にこれだけの仕事を回すのはと考えていた為自宅に貯め込んでいたのだ
いつもジャックに頼り切りだった自分だが今くらいは彼の代わりにと1人仕事に向かっていたのだ
しかし処理済のものはほんの僅かで一枚終わればもう一枚とキリがない
重要な物はメイヤーに決定権などが無いため別としてはいるが、それ以外の物も勿論しっかりと目を通さなければならない
町長「…誰かに手伝ってもらうわけには…」
誰か
そう考え彼の頭に浮かんだのはジャック
それはいけません!
メイヤーは1人大きな声をあげ自身の頭に浮かんだ考えを振り切るよう頭を振った
町長「早速彼に頼ろうとするなんて!それは駄目です!こういう時くらい私が頑張らなければ!!」
そう自分に言い聞かせ町長は積まれている書類に手を伸ばす
すると書類の山がぐらつき、突然メイヤー目掛けて倒れた
メイヤーの自宅へとやってきたジャックは入り口に立つと背伸びをして呼び鈴を鳴らした
しかしいくら待っても彼は姿を見せない
ジャック「おかしいな…この時間なら家にいるはずだけど」
そう言いながら試しに扉に手を伸ばす
すると鍵はかかっておらず扉が静かに開いた
中を覗き込むがそこにはやはりメイヤーの姿はない
ジャック「町長ー!おはようございますー!」
その場で声をあげるが返事はなく家の中は静まり返っている
まだ寝ているのだろうか
ならば起こすのも悪い
そう思い出直そうと扉を閉めようとした瞬間
町長「ああああああああああああっ!!!」
上の階から突然メイヤーの悲鳴が聞こえた
それを聞いたジャックは何があったんだと慌てて家の中に飛び込んだ
ジャック「町長!悲鳴が聞こえたんですけど!」
階段を駆け上がりメイヤーの自室の扉を蹴破ったジャックだったがそこに彼の姿はなかった
室内にあるのは文字通り書類の山
するとその書類の中から腕が現れた
それは間違いなくメイヤーのものだった
ジャックはそれに気付くと慌てて駆け寄り彼を救出する為に書類の山をかき分ける事となった