矮小猫のおまじない
町長「これはまた…なんという甘さ!!」
ジャックの家からメイヤーの感激の声が溢れる
3人は家へと戻り共に食事をとっていた
それぞれが気になる果実を取って口へと運ぶ
メイヤーが取った果実は石のように固い皮に包まれたもの
最初はどう剥けばいいのか、そのままかぶりつくべきなのか迷った3人だったが偶然メイヤーが落とした際にその果実はいとも簡単に真っ二つに割れた
どうやら衝撃に弱いものだったらしくメイヤーは嬉しそうにその果実を頬張った
その味は今まで食べた事のない甘さ
サリーが取った果実は長い蔓にいくつもの小さな実がなるもの
その小さな実を一粒つまんで口へと頬張ると少し酸味のある、しかしどこか癖になる不思議な味
そして何より不思議だったのは、蔓になる小さな実一つ一つが異なる味をもっていた事だ
口の中に様々な味が広がりサリーの表情が和らぐ
そしてジャックが取った果実は一見オレンジのようなもの
しかし触れるととても柔らかくとても弾力があり押した力に合わせまるでスライムのように形を変化させた
果たしてこれは食べていいのだろうか
一瞬悩んだジャックだったが意を決して口に放り込むと驚き大きな眼窩を数度瞬かせる
口に入れた瞬間、その果実はまるで泡のように溶け消えたのだ
そして口に広がるのはさっぱりとした甘さ
ジャック「面白いね!こんな果実があるなんて…この街にも仕入れてほしいなぁ」
町長「そうですねぇ、これなら皆もきっと喜ぶでしょうし」
2人の喜ぶ姿を見てサリーは嬉しそうに微笑む
するとそこでメイヤーがあ!!と大きな声をあげジャックとサリーは何事か少し驚く
町長「この果実があまりにも美味しかったのですっかり忘れるところでした!ジャック、先程言っていたあの手とはどういう事なんです?」
ジャック「あー…」
サリーは2人の会話の意味がわからず首を傾げる
するとジャックが手に持っていた果実を置き語り始めた
ジャック「目撃情報によれば例の魔女はオクシエントにいる、それは間違いないんですよね?」
町長「確かだそうですが…」
サリー「魔女さん、見つかったの?」
町長「オクシエントで目撃されたそうで…」
オクシエント
サリーはその名だけは聞き覚えがあった
ジャック「オクシエントはただでさえ多くの人が行き交う眠らない街、此方から出向こうにも街へ着くころには彼女はその場にはいないでしょう」
サリー「そうね…魔女さんは放浪している人ですもの、きっとすぐに他の街へと旅立ってしまうわ」
ジャック「それならオクシエントにいる人に確保してもらってここに連れてきてもらおうと思ってね」
そこでメイヤーは首を傾げた
ジャックの言う通り此方から出向いても到着した頃には魔女は他所へと移動してしまっているだろう
オクシエントの者に確保させる
それはいい案だと思ったがそこからが問題だ
どうやって此方からその事を短時間で伝えるのか
住人達が普段使っているような誰かに手紙を届けさせるなどの伝達方法では此方から出向くのと大差ない事だ
町長「どうやって魔女が移動する前に彼方へ事を伝えるんです?手紙では此方から出向くのとそう大差ないような…」
ジャック「それは大丈夫です、僕には特別な方法がありますから」
そういってウインクするジャックにますます不思議がるメイヤーだったが、彼がそういうのなら大丈夫なのだろうと安心し笑顔をみせ頷いた
町長「そうですね、ジャックがそういうならきっとうまくいきますよ!」
サリー「でも確保って…誰か知っている人に頼むの?」
サリーがそう告げると今度はジャックが少し困った表情を見せた
ジャック「まぁ知っている人だね、ただ…ちょっと小言を言われそうだけど」
ジャックが苦手な相手なのだろうか
彼が小言を嫌がるほどの相手とは珍しい
サリーはそう考えるとますます誰なのか知りたいという好奇心にかられた
しかしあまりしつこく問われても彼はますます困るだろう
そう考え自身の好奇心を表に出さないよう果実を一粒頬張る
町長「ではジャックの言う相手に魔女の事を伝え魔女を確保してもらい此方へと連れてきてもらう、まとめるとこうですね」
ジャック「ええ、その通りです!」
サリー「という事は…」
ジャックは元の姿に戻れる
サリーはその事に酷く喜んだ
しかしそれと同時に少し寂しさも覚えた
彼が元の姿に戻る事は本当に嬉しい
彼自身は勿論住人達も喜ぶだろう
勿論サリー自身もだ
しかし彼が元に戻るという事は彼との生活が終わるという事
彼が生活するうえで苦労しないよう支えるように
博士は確かにそう言っていた
彼が元に戻ればその役目も終わり再び研究所へと戻らなければならない
もう少しだけでいい
彼と一緒に過ごしたい
その考えが一瞬脳裏をよぎるがその考えを振り切るよう目を強く閉じる
それではまるで彼が子供のままでいればいいと願っているようなものではないか
サリーは強く閉じていた目を開きメイヤーと語り合うジャックの横顔を見つめた
彼が元に戻り幸せになる事が大切なのだ
ジャック「…?サリー、どうかしたのかい?」
不意に声をかけられサリーは慌てて笑顔を浮かべた
サリー「い、いいえ、なんでもないわ」
ジャック「そうかい?」
サリー「ええ、大丈夫…魔女さん、早く見つかるといいわね」
ジャック「うん、早く元に戻りたいよ」
私も早く元の貴方に戻ってほしい
サリーは心の中でそう呟き、先程までの自身の考えを忘れようと決めた