矮小猫のおまじない




魔女「待って!カイヤ待ちなさい!」


必死に走りながら魔女が何度も名を呼ぶも、カイヤは聞く耳持たず
止まるどころか走る速度をますます上げ、両者の差は大きく開いてしまう
魔女は息を切らし始め、黒衣の裾を踏んでその場に倒れ込んでしまう


ジャック「あそこだ!」
サリー「魔女さん!大丈夫ですかっ」


魔女に追いついた2人は倒れ込んだ彼女に慌てて駆け寄る
手を引かれ身体を起こした魔女は呼吸を落ち着かせながら2人に慌てて頭を下げる


魔女「ご、ごめんなさい!ご迷惑をおかけしてしまって」
サリー「それより魔女さん、さっきの子は」
魔女「カイヤという、私の良き相棒です…普段はとてもいい子なんですが」


そこで魔女は何を思ったのか咄嗟にジャックの手を取る
カイヤに噛まれた長い骨の指をじっくりと眺める
2人は魔女の行動を不思議そうに見つめるだけ


魔女「あの、何か違和感は感じますか?」
ジャック「違和感?いいえ、特には」


それを聞いて魔女は安堵しほっと息をつく
そしてジャックの手を握っている事に気付き、慌ててその手を離す


魔女「ご、ごめんなさい…驚かせてしまいましたね」
サリー「ジャックの指がどうしたんですか?」


サリーの問いかけに魔女は何か言おうとしたがそこでゼロが吠え遮られる
何度も吠えるその先には追いかけていた生物の姿があった


サリー「いたわ!」
魔女「カイヤ!」


魔女が名を呼ぶと猫のような生物、カイヤは警戒をしつつもゆっくりと此方へと向かってくる
魔女の前まで来てサリーとジャック、二人を交互に見上げる


魔女「カイヤったら…何でこんな事を」


魔女がカイヤを優しく抱き上げる
頭をそっと撫でられ落ち着いたのかミャァと可愛らしい声をあげる


サリー「この子がカイヤ…とても綺麗」
ジャック「本当だ、美しい猫だね」


青くふわふわな毛並みに丸い宝石のような金色の瞳
2人はカイヤの美しさにすっかり魅入ってしまった


ブギー「なぁに見惚れてやがるんだ?んな猫に」


遅れて追いついたブギーの声が聞こえると同時にカイヤが一気に豹変し、毛を逆立て威嚇の声をあげ始めた
魔女はそれを宥めようと必死にカイヤに話しかけ小さなその体を撫でる


ジャック「これは相当嫌われてるなぁブギー」
ブギー「んな猫に好かれても嬉しくねぇ」
魔女「本当にすみません、何でこんなに怒ってるのかしら」
サリー「えっと、カイヤちゃん?いい子だから怒らないで」


サリーが優しく声をかけ手を伸ばす
その手にカイヤは一瞬身を固めるが、指先で頭を喉を撫でられると次第に心地よくなってきたのか目を細めグルグルとその喉を鳴らす

それを見ていたジャックが自分もやってみたいとそわそわし始める
魔女がそれに気付き、撫でてあげてくださいとカイヤをジャックの方へ近付けた

骨の手が近付くとカイヤは豹変しジャックの手に鋭い猫パンチを繰り出した
それを見ていたブギーが腹を抱えて笑い出す


ブギー「お前だって嫌われてんじゃねぇか!」
ジャック「なんで!?ブギーはともかく僕は何もしてないのに!」
ブギー「おう、どういう意味だ」
ジャック「人の荷物を勝手に漁るような奴だし嫌われても仕方ないと思う」
ブギー「漁ってねぇ!荷物まとめてやってただけだろ!」


ゼロがジャックの前に飛んできてクゥンと鳴く
そのまま甘えるようにジャックの体に擦り寄る
するとジャックの表情が次第に明るい笑顔へと変わった


ジャック「いいさ、僕にはゼロがいるんだ!」


ありがとう!と嬉しそうにゼロに抱き着くジャックにサリーと魔女はクスリと笑みを零した










それから暫くして
魔女が並べられた作品達に何かを呟き、軽く指先を振る
すると作品達がカタカタと動き出し、自ら魔女の小さな鞄に飛び込んでいく
その鞄のサイズに合わぬ量の作品達があっという間に全て収まってしまう

全て仕舞いこむと鞄を持ち、ジャック達に向け再度頭を下げた


魔女「大変ご迷惑をおかけ致しました」
サリー「お気になさらないでください」
ジャック「そうですよ、呪いは少々困りますけど…それさえなければ是非また遊びに来てください!」


2人の好意的な反応に魔女は嬉しそうに笑顔を咲かせ頷いた





街の門にて魔女を見送る
魔女は3人に向け軽く手を振り、ハロウィンタウンを旅立つ
魔女の肩に乗るカイヤがジャックとブギーをその姿が見えなくなるまで凝視していた


サリー「行ってしまったわね…」
ブギー「あの猫、最後までこっちを睨んでやがった」
ジャック「噛まれた時は驚いたけど可愛い猫だったなぁ」


その言葉でジャックが噛まれた事を思い出し、サリーが彼の手を掴む
見たところ大した傷などはない


サリー「噛まれたところ、大丈夫?」
ジャック「うん、もう痛くないし…僕と主にブギーにびっくりしたんじゃないかな」
ブギー「俺のせいかよ」
ジャック「それしかないと思うけど」


その言葉に言い返そうとしたブギーだったが、ジャックの前に立ったサリーに思わず口を閉じる


サリー「今回はブギーが悪いと思うわ、人の物を勝手に触るからあんな事になったんじゃないかしら?」
ブギー「わかったわかった!もう今回は俺のせいでいいから小言はやめろって…うるさくてかなわねぇ!」


ブギーが自分の行いを反省してみせた事に満足したサリー
そして魔女が向かった先を見つめる

サリー「彼女、とてもいい人だったわね」
ジャック「そうだね、またいつか会えたらいいな」
ブギー「放浪して回ってんだろ?そう簡単には会えねぇんじゃねぇかー?」
ジャック「そう言うなよ、カイヤに嫌われてるからって」
ブギー「だからあんな猫に好かれても嬉しくねぇって言ったろ!」


2人がいつものように言い合いをしながら歩いていく
サリーはそれを見て相変わらずね、と笑いその後へ続いた
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