矮小猫のおまじない




ジャックは1人ブギーの家を訪れていた
視界に見える窓を見るや否やそこへと向かって全速力で飛び込む
窓が激しく割れる音が辺りに響き、中へと転がり込んだジャックは立ち上がると服を軽く叩いた
その音を聞いたのかドスドスと大きな足音が近付いてくるのがわかる
扉が勢いよく開かれるとそこには此方を睨みつけるブギーの姿があった


ブギー「誰かと思えばまたお前かよ!てかお前しかいないよな!!」
ジャック「僕以外にここに飛び込む奴はいないと思うよ」
ブギー「お前もいい加減扉から入ってこい!またこんなに散らかしやがって…」


周辺に飛び散った硝子の破片を見て自然とため息が漏れる
そんなブギーに構う事なくジャックは歩み寄ると通常より遥かに大きく見えるブギーを見上げ睨みつけた


ジャック「ところでブギー、君の可愛い子分達が戻ってるはずだ、何処にいるんだ?」
ブギー「あ?あいつらがどうかしたのかよ」
ジャック「小さな箱を持って帰っただろう?」


ジャックの言葉にブギーは黙り込む
箱とはまさしくあの時自分が取り上げたものだ
それを取り戻しに来たのだと理解するとブギーはついて来いとだけ告げ奥へと進んだ






ブギーに連れられ訪れたのは何やら様々な物が乱雑に置かれている部屋
ブギーはその奥の方で屈むと何やらごそごそと漁りだす


ジャック「少しは整理でもしたらどうだい?これじゃぁ何が何処にあるかわからない」
ブギー「俺にはわかるんだよ、問題ねぇだろ」


そう言うとブギーは小さな箱を取り出しジャックへと向き直った


ブギー「お前、これ何処で見つけたんだ?」
ジャック「街の子供達が宝探しをしていて見つけた物だよ、それがどうかしたのか?」
ブギー「…お前、これに触れたか?」


何でそんな事を聞くのか
不思議に思いつつも頷いて見せるとブギーは頭を掻き語り始めた


ブギー「本当に触れたか?お前がこれに気付かないわけがないはずだが?」
ジャック「その箱に何かあるのか?」
ブギー「…この錠前を見て何か違和感は?」
ジャック「見覚えのない紋章が刻まれている、くらい」


ブギーはその話を聞くと近くのテーブルに箱を置き、椅子に音をたて座り込んだ
そしてジャックを見て一言告げる


ブギー「お前、体だけじゃなくて力も弱まってるみたいだな」
ジャック「それは身体能力的な意味で?それとも魔力的な意味でかな?」
ブギー「両方だ、特に魔力的な方な」


そう言われジャックは確かにと心の中で納得していた
身体能力はこの力の弱さ、これだけ身体が幼くなればそれも当然と言えた
しかし魔力は予想外の事であった
魔力は本人の命に宿るもの
身体が幼くなろうと命の力は変わらないはず
しかし今のジャックは通常の魔力を扱う事はおろか、他者やその物が持つ魔力を感じる事が出来なくなっていた


ブギー「今のお前にかかってる呪いだったか?もしかしたらかなり厄介なもんかもしれねぇぞ」
ジャック「確かに、今の僕は君の魔力も薄らとしか感じない…で、話を戻すけどその箱は結局何なんだ?」


テーブルに置かれた箱を軽く叩きブギーは口を開く
その視線の先は箱にかけられた錠前
描かれた不思議な紋章


ブギー「俺も詳しくはわからねぇが厄介なもんが入ってるのは確かだろうな…こんな複雑な魔力をかけた錠前なんて滅多にねぇだろうしな」
ジャック「うーん…子供達に取り戻すと約束したけど、それが本当なら流石に渡すのは危険かもしれないな」
ブギー「なんだ、随分素直に俺の言う事を信じるんだな」


ジャックは腕を組みブギーを見上げた
その彼の表情は見慣れたジャックの顔そのものだった


ジャック「子供になろうが君が嘘をついているかどうかくらいわかるさ」
ブギー「…大した自信じゃねぇか」


ブギーはそんな彼を見て不敵な笑みを浮かべる
長年の付き合いもあるがジャックとブギーは互いに相手を見透かす術を心得ている
それは勿論身体が幼くなろうが関係のない事だった


ブギー「…?なんだ、どうしたお前」


そこでブギーはふとジャックに違和感を覚えた
此方を見上げていたが何やら辛そうな様子


ジャック「…たい」
ブギー「あ?」
ジャック「身長差がありすぎて、首がいたい…」


それを聞いた途端ブギーは腹を抱えて笑い出した
普段の身長でも此方を見上げる形となるが今は更にその差はひろがっている
あまりにも見上げ過ぎていたために首が辛くなってきたようだ
笑い声をあげたブギーにイラついたのかジャックが彼の足を一蹴り


ジャック「笑うな!」
ブギー「いやお前、普通笑うだろ!そうだな~こんだけ小さくなりゃぁ俺くらいでかい奴を見上げると首も痛くなるよなぁ~よしよしぃ~」
ジャック「その言い方をやめろ!」


ジャックは再度一蹴りするも今の身体ではブギーには何のダメージも与えられない
室内に2人の騒ぐ声がひたすら響いた
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