矮小猫のおまじない
ジャック、サリーの2人はそれぞれ向かい合うように椅子に腰掛ける
2人の目の前には出来立ての食事が並べられ、その見た目や香りはとても食欲をそそる物だった
そしてジャックの足元には専用の容器に入れられた大好物のフードの匂いを嗅ぎご機嫌な様子のゼロ
ジャック「じゃあ早速いただこうか!」
サリー「ええ、そうね」
その言葉を聞いてゼロは素早くフードにかぶりつく
目一杯まで頬張り噛むたびに小気味良い音をたてる
そんなゼロの食欲を見て2人は互いに顔を見合わせて笑い、自分たちの食事を皿へと取り始めた
ジャック「うん、やっぱりサリーの作る料理は最高だよ!」
サリー「ありがとう、ジャックが作ってくれたサラダもすごく美味しいわ」
互いの作った料理を食べ合ってそれぞれが感想を述べる
勿論その言葉には偽りはなく料理が次々と口へと運ばれていく
暫くしてサリーがスープに手を付けようとしふとジャックを見る
余程空腹だったのだろうか
彼はあっという間に自分の分を平らげてしまっていた
サリーはそんな彼を見てクスクスと笑い声をかける
サリー「ジャックったら、よっぽどお腹が空いてたのね」
ジャック「それもあるけどサリーの料理があまりにも美味しかったからかな?気が付いたら完食してたよ」
分けられた食事は幼くなったジャックには少々多いかもしれないと思われていた量だったのだが、それらは全てその小さな身体に収まってしまった
一体どこにそれだけの量が入ったのだろうかとサリーは少しだけ不思議に思った
サリー「沢山食べてもらえてよかったわ」
ジャック「君の作る料理を残すだなんてあり得ないさ」
ジャックはそう告げながら軽く頬杖をつきサリーに笑いかける
その誉め言葉にサリーははにかんで頬を少し赤らめた
時刻は既に真夜中を迎えようとしていた
暫く会話を続けていた2人は夕食を終え、互いに寝支度を整え始めた
先に寝支度を整えたのはサリーだった
夕食後、食器などを片付けようとしていたサリーだったがジャックに衣服や食事の礼と言われ阻止されたのだ
普段からやり慣れている事で別に気遣う必要はないと思ったが、彼があまりにもやる気だったのでお言葉に甘える事としたのだ
ゼロと戯れながら片付けているのだろうか
彼の話し声とゼロの鳴き声がキッチンから聞こえる
サリー「二人とも本当に仲良しね」
微笑ましく思い1人呟く
長い髪を櫛でとかしながらふと視界に映ったのはジャックの寝床であるベッド
そこでサリーはある事に気付いた
この家に寝床はここしか存在していない
サリー「…一緒に、寝るのかしら」
自分の言葉に思わず顔を赤らめる
2人は恋人同士ではあるがデートを少々、更に言うなら口付けを軽く交わしたくらいの経験しかない
クリスマスの事件から2年程たったが未だに初々しさの残る関係と言える
寝床を共にするなど初めての事
サリーはどうするべきか1人頭を悩ませていた
ジャック「ふぅ、やっと終わった………サリー?」
片付けを済ませたジャックが戻ると目の前にはサリーの後ろ姿
何か悩み考え込んでいる様子
何かあったのだろうかと少し心配になり声をかけると、彼女は余程驚いたのだろうか思わず悲鳴をあげ飛び上がりかけた
サリー「あ、ジャック…驚いたわ」
ジャック「何かあったのかい?凄く悩んでいるようだったけど」
ジャックに問いかけられサリーは少し考え、悩む事となった原因を告げる事とした
サリー「あの…ベッドの事で」
ジャック「ベッドの事?……………………あ」
そう言われベッドとサリーを交互に見る
暫しの間をあけようやく理解したジャックはどうしようかと腕を組み考え込んだ
ジャック「うーん…………サリーは僕のベッドを使うといいよ」
サリー「え、でも貴方はどうするの?」
ジャック「大丈夫、僕はソファで寝るから」
そう告げるとサリーは即座に反対意見を述べた
ここはジャックの家だ
そして彼の世話をするという事で突然転がり込んだのは自分
家主を差し置いて自分がベッドを占拠するわけにはいかない
サリー「私がソファで休むから貴方がここを使って」
頑なに譲ろうとしないサリーにジャックは悩んだ
女性をソファに寝かせ自分だけがベッドを悠然と使うわけにはいかない
仕方ないとジャックはサリーへある事を問いかけた
ジャック「しょうがないな、じゃあ…一緒に寝るって事にしようか」
サリー「……………えっ」
サリーは一瞬何を言われたのかわからなかった
彼は今なんと言ったのだろう
一緒に寝る?
つまり同じベッドで?
そこまで答えを導き出すと同時にサリーの顔が一瞬で真っ赤に染まった
ジャック「顔が赤いけど大丈夫かい?」
サリー「だ、だって…ジャックは平気なの?一緒にって…」
ジャックは少し照れ臭そうに頬をかくと笑顔と共にサリーを見上げた
ジャック「確かに僕も少し恥ずかしいというか…でも僕1人でベッドを使うなんてそんな事出来ないし、それなら一緒に使えばいいと思うんだ」
サリー「ジャック…」
自分の事を思うジャックの優しさに嬉しさが込み上げる
恥ずかしさは残るが、何方かが引かなければきっとこのまま朝を迎えるまで譲り合いになるだろう
サリーは未だにほんのり赤みを帯びた顔を頷かせジャックの意見を聞く事とした
ベッドへ上がると微かに軋む音がする
左半分に座り込んだサリーは自身をなんとか落ち着かせようと置かれていた枕を一つ抱え込む
ただ睡眠を取るだけ
そう思いながらも心が落ち着かない
そんなサリーの反対側にジャックがよじ登り座り込む
するとゼロがおやすみの挨拶と2人の元へとやってきた
ジャック「ゼロ、おやすみ」
ジャックに頭を撫でられるとゼロは自分専用の寝床へ真っ直ぐ飛んでいき身を丸めた
するとあっという間に彼の小さな寝息を聞こえ始めた
そんなゼロの様子を見てサリーは少しだけ緊張がほぐれたのか笑みを見せる
ジャック「じゃあ、僕達ももう休もうか」
サリー「え、ええ…」
部屋を照らしていた灯りが落とされる
その灯りの代わりに窓から注がれる月明かりが薄らと室内を照らした
サリーは横たわるとジャックに顔を合わせないよう背を向ける形となった
薄暗いとはいえ顔を合わせてしまってはいよいよ眠れなくなると思った
だが顔を見なくともサリーの緊張は高まるばかり
必死に落ち着こうと胸元を押さえ目をきつく閉じる
ジャック「サリー」
そんな時、ジャックの声が聞こえた
その声を聞き振り返ろうとしたが、ジャックの小さな手で押し止められた
ジャック「大丈夫だよ、落ち着いて」
サリーの緊張を感じ取ったのかジャックは優しい声色で話しかける
振り返る事なくサリーは自然と口を開いた
サリー「ご、ごめんなさい…」
ジャック「謝る事なんてないさ、それに…君だけじゃなく、僕も緊張してるんだよ?」
ジャックが肩を押さえていた手を離す
それを聞いたサリーがゆっくりと振り返ると此方を見て微笑むジャックが目の前にいた
サリー「本当?」
ジャック「当たり前じゃないか、好きな人と一緒にベッドで寝るだなんて初めてだ」
照れ臭そうに答えるジャックを見ているとサリーの表情から緊張の色が次第に消え失せ、代わりにいつもの彼女らしい笑顔が現れた
そんな彼女の手にジャックは自らの手を添える
互いに見つめ合うと2人は自然と小さな笑い声を漏らした
サリー「ふふ…あれだけ緊張してたのが嘘みたい」
添えられたジャックの手をそっと握り返す
緊張がほぐれ落ち着きをみせたサリーを見てジャックも安心したのか内心ほっと一息
ジャック自身も同様に緊張していたが、それを露にしてしまっては彼女が落ち着かないだろうと考えていたからだ
そう考えたと同時にジャックは自然と欠伸をもらした
今日は一日色々な事がありすぎた
小さな体という事もあり疲れてしまったのだろう
そんな眠たげなジャックにサリーが優しい声で囁いた
サリー「今日は色々あったんですもの、疲れてるでしょうしもう寝ましょう?…おやすみなさい、ジャック」
ジャック「うん…お休み、サリー」
その後ジャックはすぐに眠たげな眼を閉じ小さな寝息をたて始めた
それを見つめ微笑むサリーも彼と同じく目を閉じ眠りにつく
互いの手はしっかりと握られたままだった