矮小猫のおまじない
ハロウィンタウンのとある一画
普段何もなく民家に囲まれたそこは、夕方ともなると様々な店が立ち並ぶ
夕食時ともあり色々な種類の食材や飲み物が売られる
この日も食事の為に必要な材料を買い込む為に住人が集っている
そしてそこには勿論ジャックとサリーの姿もあった
サリーはどうやらここには来慣れているらしく今日も賑わっているわねと呟く
片やジャックはこういった場所に訪れる事が今まであまりなかった為、珍しそうに視線を忙しなく動かす
ジャック「こういったところは来慣れてないんだけどなんだか面白そうだね!」
サリー「他の街から届いた色々な食材があるから見るだけでも面白いわよ」
さぁ行きましょう
手を繋ぎ2人は早速店を見て回る事とした
ジャックは物珍しそうに一つ一つをじっくりと見つめる
見た事もない形の不思議な野菜や果物
この街であまりみかけない種のなかなか重量感のある肉
食べ応えのありそうな巨大な目玉としっかりと歯ごたえが楽しめるであろう骨を有した大きな魚
風変わりな色をした飲み物が注がれているボトル
それらはどれもジャックの興味を強くそそる物ばかりだった
「おや、ジャックにサリー!」
名を呼ぶ声に振り返るとそこには吸血鬼ブラザーズが立っていた
愛用の傘を各々が手に持ち2人に歩み寄る
彼らはこの街で唯一の吸血鬼である4人兄弟
上からブラム、クドラク、カシング、フリッツと言う名を持っている
頭もよく恐怖の才も持ち、吸血鬼という事もあり生まれ持った能力は素晴らしいもの
ジャックからも信頼されている頼もしい存在の一つ
ジャック「やぁ!皆も買い物かい?」
ブラム「ええ、貯蔵していたトマトが底をつきそうだったので」
彼らは吸血鬼と言ったが普段はトマトジュースを好んで飲んでいた
元々吸血鬼は少量で構わないが定期的に生物の、主に人間の血を摂取しなければそれだけその力は弱まる種族
しかしこの世界では彼らが好む生物はまず存在しない
一応血そのものは外界から仕入れ流通はしているものの、それは人間の物ではなく動物などの血
だが彼ら兄弟はその動物の血がどうやら苦手なようだった
彼ら曰く獣臭く飲めたものではないらしい
しかし接種しなければいけない
そこで彼らが思い付いたのは好みの血がない間、それの代わりとなる物を摂取する事だった
そこで選ばれたのがトマトジュース
味はともかく見た目が赤く、まるで血を飲んでいるように感じるのだそうだ
気分的な物ではあるが何もしないよりはまし
そういっていた彼らだったが、今となってはトマトジュースが代わりというよりは好物の一つとなってしまっている
クドラク「ふぅむ、今日はまた一段と質のいいトマトが揃っていますね」
野菜が並べられている中に一際目立つ赤
それはとても大きく育ったハーツトマトの山だった
その名の通りまるで心臓のように小刻みに脈打ち、皮に浮き出た筋が浮き沈みを繰り返している
サリー「まぁ美味しそう、私もそれを2つ頂くわ」
ジャック「サラダによさそうだね」
ブラム「お二人は今夜は一緒に食事ですか?」
ジャック「そうなんだ、でも何を作るか決めてなくて…食材を見て決めようって思ってね」
カシング「なら彼方にいい肉が売ってますよ、あれで何か一品作ってみてはどうですか?」
サリー「それはいいわね、じゃあサラダにお肉、あと何かスープでも作ろうかしら」
頭の中で次々と料理を思い浮かべる
ここに並ぶ食材でならとても良い物が出来そうだ
サリーはジャックに声をかけると早速必要な素材を買い集める事とした
サリー「これくらいでいいかしら」
ジャック「そうだね…サリー、僕も持つよ?」
サリーを見上げ声をかける
必要な材料を買い込んだはずだったが予想より少々荷物が多くなってしまった
サリーの両手はその荷物ですっかり埋まってしまっている
サリー「ちょっと重いけど…大丈夫かしら」
サリーは自身が持つ荷物の中でなるべく軽めの物をジャックへと渡す
それを受け取ったジャックだったが重さの問題ではなく大きさの問題で何とか抱えきれているといった状態となった
材料の入った袋は大きくジャックの視界を見事に遮ってしまっている
ジャック「これくらいなら重くはないけど…前が見えない」
サリー「やっぱり私が持った方が…前が見えないと危ないわ」
しかしジャックはその荷物を渡すまいとしっかり抱え直す
どうやら意地でも自分の手で運ぶようだ
ジャック「これくらい大丈夫さ!それよりサリーこそ気を付けておくれよ?それだけ持って階段から落ちたりなんかしたら危ないから」
サリー「ふふ、気を付けるわ」
会話を終えるとジャックが彼女を先導するよう前を歩き出した
それを少し後ろからついて歩くサリー
本当に大丈夫かしら…前が全く見えてないのに
サリーがそう心配していた矢先、ジャックが進む方向には大きな街灯
ぶつかっちゃう!
サリーがそう思うと同時にジャックを呼ぶ声がした
その声を聞きジャックは街灯にぶつかる手前で足を止め振り返った
ブラム「ああジャック!危ないところでした」
彼を呼んだ声はブラムのものだった
自分たちの買い物を終え偶然ジャック達の姿を見たらしい
ブラムは安心したようにジャックに歩み寄り、彼が抱えている荷物を持ち上げた
ブラム「こんな大きな物を運んでいては危ないですよ?私が運びましょう」
ジャック「え、でも君も自分の荷物があるんじゃないのかい?」
ブラム「それは兄弟達が運んでくれますのでご心配なく」
そう告げながらブラムはサリーの方に手を差し伸べた
ブラム「よろしければ其方も少々お持ちしましょう」
サリー「え…あ、ありがとう」
サリーは申し訳ないと思いながらもブラムの手に荷物を少し手渡した
するとジャックが足元に駆け寄ってきて腕を伸ばす
ジャック「サリー!僕も持つから!」
それを見てきょとんとするサリーだったが、早くと急かされなるべく小さな荷物を手渡した
それを受け取ったジャックはしっかりと両腕で抱えこみ、さぁ帰ろうと自宅へと向かう
そんなジャックに続くように歩き出すと、ブラムがサリーの横に立ちこっそりと話しかけた
ブラム「ジャックはきっと貴方にいつもの彼らしく思ってほしいんですよ」
サリー「いつものジャックらしく?…私はそう思っているのだけれど」
ブラム「今の彼は見ての通り子供でしょう?皆ジャックだとわかってはいますがその外見からつい子供のように接してしまっているんじゃないでしょうか」
サリーはそうなのかもしれないと考えた
頭の中では勿論彼がジャック・スケリントンだとわかっている
しかし子供である彼に対し庇護欲が増してしまっている事に気付く
子供は大人より弱い存在だ
庇護欲が駆り立てられても仕方のない事ではある
しかし彼はジャック、子供の姿をしているが自分が愛する男性なのだ
サリー「言われてみればそうなのかもしれない…」
ブラム「可愛らしい子供の姿をみればそう感じるのも仕方のない事かもしれませんが、貴女はいつものジャックとして接してあげてはいかがですか?彼もきっと喜びますよ」
ブラムの言葉にサリーはコクリと頷いた
袋を抱えたジャックが振り返りサリーとブラムを呼ぶ
その姿はやはり幼く可愛らしいもので2人はつい笑ってしまった