矮小猫のおまじない
自宅へと無事に戻ったジャックはサリーを待っていた
服の準備には時間がかかるだろうと待っている間何をしようと1人考える
そこで目についたのは自身の机
何気なく椅子によじ登り、腰を下ろす
すると目の前には積まれた書類など普段自分が行っている仕事の残り物が少々
今の自分の状況を理解している為か町長が持ってくるはずの書類の山はない
ジャック「体が小さくなっても書類に目を通すくらい出来ると思うんだけどなぁ」
そう言いながら机の上にある書類の残りをいくつか手に取る
それらの内容を読み、これならば問題ないだろうと早速サインを記入しようとペンに手を伸ばす
しかしその腕は全く届かない
それもそのはず
身体が小さくなれば腕の長さも変わる
普段の半分もない腕では椅子に座ったまま取ることなど不可能だった
ジャックは渋々椅子から立ち上がり机の上にのぼりペンを取った
そして椅子に戻る事はせず机の上に座り込み、書類に丸みを帯びた字でサインを記入する
数枚ほど書き込んだところで今度は印が必要な事に気付いた
ジャック「印は……」
ジャックが視界を向けた先は大きな書類棚
その一番上に印は仕舞われている
ジャックは机から飛び降りると書類棚に駆け寄り、見上げた
それは今の彼にはとても高く勿論背伸びをしたところで届く距離ではなかった
ジャック「ゼロが取ってくれたり…」
そう呟きながら室内を見るがゼロは居なかった
どうやら外に出てしまっているようだ
ならば自分で取るしかない
そう考えたジャックはまず何か踏み台になる物はないかと考えた
先程座っていた椅子はどうだろう
そう考え視線を向けたが明らかに高さが足りない
他に何か踏み台になるものはないか
しかしどれも一番上まで腕が届くほどの高さには至らない
ジャック「…よじ登ってみるかな」
踏み台の案を諦めたジャックは直接書類棚によじ登るという考えを思いついた
今の自分ならば小さいぶん身も軽い
そう考え早速書類棚に手をかけた
一段、二段となんとも器用によじ登っていく
この調子なら問題ない
そう思いジャックは徐々に上へと移動していった
そしていよいよあと3段
ふと下をみればなかなかの高さ
こんな体でもやれば出来るんだな
まるで他人事かのように考えまた一段よじのぼる
更に腕を伸ばし手をかける
あと少し
あと少しで手が届く
サリー「ジャック!!」
突如聞こえたのはサリーの声
ジャックは驚いて思わずバランスを崩した
足を踏み外し書類棚にぶら下がる形となったジャックにサリーが慌てて駆け寄る
身体をしっかりと抱いて静かに床へと下ろす
落ちずに済んだとジャックは安堵した
サリー「ジャックったら何をしてたの?びっくりしたわ」
ジャック「いやぁ…ちょっと印を取ろうと」
ジャックがそう言いながら書類棚の上を指差す
それを見たサリーが歩み寄り軽く腕を伸ばして目的の物を難なく手に取る
サリー「はい」
ジャック「ありがとう」
サリーから印を受け取ったジャックは机によじ登り、最後の書類を手に取り捺印する
サリー「仕事をしていたの?」
ジャック「まぁね、ただ今日は数枚くらいだからもう終わりかな」
机から飛び降りたジャックは笑顔でサリーを見上げある事に気付く
視線の先には彼女が持っている物
ジャック「それ、もしかして僕の服かい?」
サリー「ええ、何着かあった方がいいと思って」
そう言ってサリーは持っていた衣服をジャックが見やすいよう並べ置く
ジャックも嬉しそうに駆け寄り早速その衣服を眺めた
サリーが並べた衣服は3着
1つ目は悪魔をイメージした服
フードには赤い角があしらわれ背には黒く小さな翼がついている、なんとも可愛らしいもの
2つ目は蜘蛛をイメージした服
蜘蛛の巣を象ったケープはとても軽くしかししっかりとした作りで胸元には黒いリボンがあしらわれ蜘蛛の足を思わせるようしなやかに揺れる
そして3つ目を見たジャックはあ!と声をあげた
それは普段ジャックが身に着けている燕尾服に非常に似通った物だった
サリー「小さくなってもやっぱり着慣れた服は必要だと思って頑張ってみたの、どうかしら」
ジャック「素晴らしいよサリー!どれも素敵な服ばかりだ!」
サリー「ありがとう、でもまだあるのよ?」
続いてサリーが目の前に並べた衣服
それらを見たジャックは驚き目を丸くした
目の前には3つの衣服
それらは町長、吸血鬼ブラザーズ、ブギーを思わせるデザインのものだった
ジャック「すごい!これを着ればまるで彼らになった気分だ!……でもブギーか」
サリー「ごめんなさい、ちょっと面白いかと思って」
ブギーになった気分は微妙かも
そう思ったがサリーが作ってくれた物だ
ジャックはありがたく受け取る事とした
ジャック「これだけあれば服は大丈夫かな」
サリー「ジャック…実は、あと1着あるの」
そう言ってサリーが最後に出した服
それを見たジャックは驚きのあまり声がでなかった
目の前に置かれたのは真っ赤な服
それはジャックが何度も目にし同時に着用した事もあるものだった
ジャック「サンディの服だ!!!」
サリー「最後の一着は何にしようか迷ってたんだけど…これなら絶対喜ぶと思ったの」
ジャック「本当に素晴らしいよ!!なんて素敵な服達なんだ!」
ジャックはサンディの服を抱きしめ嬉しそうにはしゃぐ
そんな彼を見てサリーは安心したように笑みをこぼした
ジャック「サリー!これ、早速着ても構わないかな!?」
ジャックはまるで本物の子供のように表情を輝かせサリーの返事をそわそわと待っている
そんなジャックにサリーは思わず笑ってしまった
本当に純粋なんだから
サリーがどうぞと頷くとジャックは衣服を抱えると着替える為に走り去ってしまった
1人になったサリーは机に置かれたままの印を持つとジャックの代わりに書類棚にそっとしまいこんだ