矮小猫のおまじない
ウィッチズの元から立ち去る事に成功したジャックは町長を引きずりながら振り返る
彼女達が追ってくる様子はなく、ジャックは安堵し立ち止まった
ジャック「あぁ、よかった…」
ほっと胸を撫でおろす
すると横から何やら声がした
視線を向けると、そこには倒れ込み悲観の顔で此方を見上げる町長の姿があった
ジャック「あ」
町長「うぅ…ジャックいきなり酷いですよぉ…」
ジャック「す、すみません町長」
ジャックは申し訳なさそうに掴んでいた腕を離す
解放された町長はゆっくりと身体を起こし、すっかり汚れてしまった服を何度か叩いた
町長「一体何があったんですか?随分と慌てていたようですけど」
ジャック「いや、まぁちょっと彼女達につかまってしまって」
それを聞いて町長は事情を把握したのかなるほどと頷いた
ウィッチズの2人はその名の通り魔女だ
きっとジャックの呪いの事であれやこれやと言い出したのだろう
実際には幼いジャックをただいじりたいだけだったのだが町長はそう考えていた
町長「それは大変でしたね、ですが彼女達の行動もきっと貴方を思っての事なんでしょう」
ジャック「え、はぁ……??」
散々いじり倒す事が僕の為の行為なのだろうか
町長の勘違いに気付く事はなく、不思議には思ったがとりあえず頷いておいた
町長「そういえばジャックはこれからどうするんですか?」
ジャック「僕は一度家に戻ろうかと、サリーがこの身体に合う服を用意してくれるんです」
町長「それは素晴らしい!確かにそのコートではサイズも合わず不便でしょうし」
この街でサリーの裁縫の腕前を知らない者はいない
町長はきっと素晴らしいものが出来るだろうと頷いた
町長「どんな服が出来上がるか楽しみですねぇ、出来上がったら是非見せてください!」
ジャック「あはは、わかりました」
ダウンタウンを抜け広場へと訪れる
町長は用があるらしくその場でジャックと別れる事となった
僕も急いで戻ろう
そう考えていると何やら再びジャックを呼ぶ声
今度は一体誰なんだと声のする方を見た
コープス「ジャックー!」
それはコープスチャイルドの声だった
そしてマミーボーイ、バッドキッドの姿も見える
ジャック「やぁ皆、僕に何か用かな?」
マミー「皆で遊んでたらジャックがいるのが見えたんだ!」
バッド「だから声をかけてみた!」
目の前の子供達は元気な笑顔を見せはしゃいでいる
この子達は相変わらず元気だなとみていたジャックは微笑ましく思い笑みを浮かべる
コープス「けどこうやって目の前で見ると本当に小さくなっちゃったんだね」
マミー「僕達と変わらないや」
確かに今のジャックの背丈は彼らとさほど変わらないものだった
いつもは背丈の差もあり此方が屈んでいたので少々違和感を感じる
マミー「そういえばジャックは何してるの?」
バッド「暇なら一緒に遊びたい!」
コープス「僕も!ジャック一緒に遊ぼー!」
ジャックを遊びへと誘う子供達
そんな子供達に向けジャックは困った表情
家に戻らなければならないため、彼らの誘いは断らなければならなかった
ジャック「君達ごめんよ、僕は家に戻らなくちゃならないんだ」
その言葉を聞き、3人の輝いていた顔が一瞬で悲し気に曇る
ジャック「ああ…そんな悲し気な顔をしないでくれ」
コープス「そうだよね、ジャックは忙しいからしょうがないよ」
マミー「うん…しょうがないよね」
バッド「すごく残念…」
子供達から次々と告げられる悲し気な言葉
ジャックは少し申し訳なく思うも、今は子供達の誘いを受けるわけには行かない
仕方ないとジャックは悲しげな表情を浮かべる3人にこっそりと語り掛けた
ジャック「今日は駄目だけどそうだな…じゃあ明日なんてどうかな」
コープス「明日なら遊べるの?」
その問いかけに約束するよ、と一言付け加え頷いて見せる
すると子供達の表情が瞬く間に明るい笑みへと変わった
マミー「明日だね、絶対だよ?」
バッド「大丈夫だよ、ジャックは約束を破ったりしないもん!」
コープス「そうだね、じゃあジャック!明日ここで集合だよ!」
ジャック「わかった、明日ここで」
すっかり機嫌を取り戻した子供達を見て安心し笑みをこぼす
3人と別れを告げるとジャックは急いで自宅へと向かった
一方その頃
研究所へと戻ったサリーは何やら自室で作業をしていた
室内は愛用しているミシンがカタカタと音をたてるのみ
サリー「丈はこのくらいでいいかしら」
目の前にある縫いかけの服を眺め、丈や縫い目をチェックする
それは子供が着るサイズの洋服だった
サリーの横には既に出来上がっている様々な色の服が並べられている
サリー「……うん、これで大丈夫ね」
出来上がった最後の一着を綺麗にたたみ、他の積まれている洋服に重ね置く
それらを見つめてサリーは何処か嬉しそうに微笑んだ
サリー「ジャック、気に入ってくれるかしら」
出来上がった服たちを見てジャックが着ている姿を想像してみる
よく似合っているのだろう
サリーは何度か頷き満足げな表情を浮かべている
サリー「…あ、こんな事している場合じゃないわ!」
ジャックの姿を想像していたサリーは時計に目をやる
服作りが楽しかった為、すっかり時間の事を忘れていた
サリーは慌てて出来上がった服をまとめ、自室を飛び出した
目指すは勿論ジャックの家
博士「サリー!」
研究所の扉を開こうとした矢先、名を呼ばれ振り返る
そこにはフィンケルスタイン博士の姿
それを見て嫌な予感を感じた
ジャックの元へ行こうとした瞬間に止められたのだ
研究所から出るな!
博士がそう告げる姿が容易に想像できる
サリー「博士、私今すごく忙しくて」
博士「ジャックの所にいくんじゃろう?」
そう言って此方へと近付いてくる
そして博士はサリーの持っている服を眺めた
それは明らかに子供のサイズのもの
博士「それはジャックのものじゃな、ふむ…随分と沢山作ったんじゃな」
サリー「ええ、どれだけあの姿のまま過ごすのかわからなかったので…あの、博士…私本当に急いで」
博士「わかっておる、じゃがワシの話を聞いてからでもいいじゃろう」
サリーは仕方なく博士の話を聞く事となった
もしも止められたとしても強引に出ていこう
そう考えていたサリーを見て博士は苦笑する
博士「どうせワシに外出を止められると思っておるのじゃろう?」
サリー「…違うんですか?でも、止められても私はジャックの元へ行きます」
博士「ワシは別に止めはせんよ」
博士から告げられた言葉にサリーは驚きの表情を見せる
彼からそのような事を言われるなど予想できなかった
博士「今のジャックはすっかり変わってしまっている、生活するにしろ苦労する事もあるじゃろう…ならば誰かが傍にいてやればいい」
サリー「…それってつまり」
博士「誰か、それはお前が適任じゃろ…それとも他の者に任せたいか?」
サリーは慌てて首を振った
愛する人が困っているのなら自分が助けになりたい
その姿を見て博士は珍しく優し気な笑みを浮かべた
博士「ならば行くといい、じゃがたまにはワシの世話も頼むぞ?ワシも生活するには不便な体じゃ」
そう言って自らの足を軽く擦る
そんな博士の前に屈み、足を擦る手をそっと握る
サリー「博士…ありがとうございます」
博士「ジャックに迷惑をかけんようしっかりやるんじゃぞ?」
サリー「はい……行ってきます!」
サリーはコクリと頷くと服をしっかり抱き込んで研究所から飛び出した
そんな姿を見つめていた博士は1人溜息をこぼす
博士「娘を嫁に出すとはこんな気分なんじゃろうか…」
まだ婚約はしていないが2人はいずれその日を迎えるのだろう
そう考える博士の表情はどこか寂し気だった