矮小猫のおまじない




それはある日の事

ハロウィンタウンはいつもとは違う賑わいを見せていた


その理由は1人の旅人
普段旅人など滅多に訪れないこの街に黒衣を纏った人物が訪れた

その人物は各街で様々な物を売り歩いて生計を立てる放浪の魔女だった


この日も魔女は偶然立ち寄ったハロウィンタウンの広場にて、いつもと変わらぬ商売を始めていた


住人達は誰だろうと不思議そうに眺めていたが、魔女が並べた商品を見て歩み寄る

そこには彼らが今まで見た事もないような物ばかりが並べられていた
不思議な形の置物や綺麗な石を使った装飾品
どれも精密に作り込まれた素晴らしい作りだった


住人達がある程度集まると魔女はゆっくりと両腕を広げ、静かに語りだす


魔女「さぁ皆様、ここにありますは私が腕によりをかけて作成した特別な品々でございます」


魔女の言葉に各々が商品を眺め、並べられた物を手に取り見る
細部まで行き届いた作り込みに皆揃えて素晴らしい出来だと口にする


魔女「ありがとうございます、何かお気に召す物はございますか?」


魔女が声をかけると住人達から次々と声があがる

でももっと怖い物が欲しい
素晴らしい出来だけど不気味な物が一つもない


そう、ここはハロウィンタウン
装飾が素晴らしい物や美しい物よりも皆恐怖を求める
眺めるだけ眺め、住人達はその場を次々と離れて行ってしまう
そして1人残された魔女は静かにため息1つ




サリー「あら…何かしら」


そこへ声が聞こえる
それは全身つぎはぎだらけの女性だった
赤い髪を揺らし魔女が並べる商品の前に屈みこむ


魔女「ようこそお嬢さん、よろしければ是非見て行ってくださいませ」
サリー「まぁ…どれも素敵な物ばかり」


その言葉に魔女は嬉しそうに微笑む
この街にもようやく私の作品の良さを理解してくれる人が現れた
魔女は余程嬉しかったのか、サリーの手にある物を差し出す
それは指輪だった
細かく羽根の模様が刻まれ、中央には満月のように美しく輝く宝石が添えられている
誰が見ても高価な品だといえる物だった


サリー「綺麗………あの、これは…」
魔女「貴女に差し上げますよ」


魔女の言葉にサリーは驚き目を丸くした
明らかに高価な指輪を掌から落としかけ、慌てて握る


サリー「こ、こんな高価な物いただくわけには」
魔女「いいんです、普段でしたらお代を頂くところですが…」


魔女はサリーの手をそっと両手で包み、フードに隠された口元に笑みを浮かべる


魔女「貴女は私の作品達を褒めてくださった…それが私にはとても嬉しい事なのです」


お受け取りください
魔女の言葉に未だに戸惑うサリー
しかし受け取ってほしいと言われ無理矢理返すのも失礼なのかもしれない

どうしましょう…



ブギー「なーにやってんだお前ら」
サリー「え、ブギー!?」


いつの間にかブギーが魔女とサリーの間に入りまじまじと指輪を眺めていた
魔女は驚きサリーから手を離してしまった


ブギー「コイツ誰だ?見ねぇ顔だな」
魔女「あ…私は、ただの魔女…です」


近距離からブギーに睨まれ魔女は少々怯えている様子
するとサリーが間に割って入り魔女の盾になるようブギーを見上げる


サリー「魔女さんが驚いているわブギー」
ブギー「別に俺はびびらせた覚えはねぇがなー…ふぅん、魔女ね」
魔女「あ、あの…よろしければ私の作品をご覧ください」


ブギーは腰を落ろし言われるまま魔女の作品達を眺め始めた
時折気になった物があっては手に取り、品定めをする


ブギー「これ、お前が全部作ったのか?」
魔女「はい、これらを売り生計を立てているのです」


ある程度眺めたブギーは手に取っていた物を置き、立ち上がると魔女を見下ろす


ブギー「どれも出来はいいもんだ……変な魔力さえなけりゃぁな」


その言葉に魔女の身体が一瞬びくつく
ブギーは作品達に丸い手を指し、語りだす


ブギー「まぁ魔女だからな、魔法使って物を作るってのはわかる。けどこいつらの中にはどうも怪しげな呪いがかかってるもんもあるよなぁ?」


サリーは並べられている作品に目をやる
どれも素晴らしい細工が施された物にしか見えない
魔力を扱わない彼女にはよくわからなかった


ブギー「そんなもんをこの街で売る気だったのか?これだから魔女ってやつは厄介なもんだ」
魔女「で、ですが危害を加えるようなものでは」
ブギー「危害を加えないもんでも厄介なもんは厄介なんだよ、迷惑なこった」


ブギーの言葉に反論できず魔女は俯いてしまう


ジャック「二人とも何してるんだい?」


そこにはジャックが立っていた
ゼロを伴い不思議そうに近寄ってくる


魔女「あの、彼は…」
ブギー「まぁあんななりだがこの街の王、支配者ってやつだ」
ジャック「こんななりで悪かったな」


この方が街の支配者…
魔女は黙ってジャックを見上げる
そんな彼女の存在に気付いたジャックは目の前に来て屈み声をかけてくる


ジャック「やぁ、初めて見るけど貴女は?」
魔女「わ、私は放浪するただの魔女でございます」
ブギー「呪いのかかった作品達ってのをこの街で黙って売りつける魔女な-」
ジャック「呪い??」


ジャックが不審そうに並べられた作品達を見る
魔女はそれに慌ててジャックの手を取った


魔女「た、確かに呪いがかかってしまった物もあるのは事実です!ですがこの街の方々に危害を加えたりするような物ではありません!」
ブギー「本当かねぇ…んなもん信じらr」


言葉が遮られる
ジャックが少し黙ってろとブギーの口を塞いでいた
ブギーは不満そうな顔を見せるもそれ以上語る事はなかった


ジャック「えっと、魔女さんでいいかな…呪いのかかった物をどうして売ろうとしてたんだい?」
魔女「……作品達を作る際にはまじないを施すのですが、私はまだ魔女としては未熟…まじないが反転し、呪いとなってしまった物があって……けど売らないと、私それで生計をたてていて」
ブギー「だーからそれを売るなって話だろってわかった黙ってるから落ち着け」


ジャックが笑顔でブギーに手を翳す
こんな近距離で魔法を放たれては流石にいかんと両手を軽くあげる
魔女へと向き直りジャックは再度語り掛ける


ジャック「君には悪いけど…呪いのかかった物を街で売るのはやめてほしい」
魔女「そう、ですよね…」


魔女が申し訳なさそうに頭を下げる
サリーは持っていた指輪を彼女の手に握らせる


サリー「やっぱりこれ、お返しします…魔女さん、元気を出して」


魔女はその指輪を受け取り悲し気に見つめる
するとブギーが彼女の作品達を掴んだ
そのまま魔女の荷物へと押し込み始める


サリー「ブギー何してるのっ」
ブギー「話は終わっただろ、ならさっさとお引き取り願おうぜー」
ジャック「こら、人の物を勝手に!」


ブギーを止めようとした瞬間
素早い何かが魔女の荷物から飛び出した


ジャック「いたっ!」


ジャックの指に痛みが走る
何だと見下ろすと

そこには小さな猫のような生物の姿
興奮しているのか柔らかい毛を逆立てジャックの指に噛み付きぶら下がっていた
ジャックは痛い痛いと言いながら必死に腕を振る
猫のような生物は指を噛んだまま唸り、放すまいと噛む力を強める


魔女「カイヤ!!」


魔女のその言葉に猫のような生物は驚き口を離す
軽やかな身のこなしで着地すると一目散に街中へ駆け出して行った


ジャック「いたた…何なんだあれは」
ブギー「おい今のちっこいのお前のペットか?」
魔女「た、大変…あの子を探さないと!」


魔女はジャック達に構わず逃げ出した生物、カイヤを見つける為走り出した
残された3人は何が何だかわからないと顔を見合わせる


サリー「と、とりあえず彼女を追った方がいいのかしら」
ジャック「何だかひどく焦ってたし…僕達も探すのを手伝おう!」


ジャックとサリーは互いに頷くと魔女を追いかける為に走り出した
1人その場で動かずにいるブギーが溜息を吐く


ブギー「まさかの猫探しかぁ?勘弁しろよ…」


何で俺が街に来る度に面倒ごとばかり起きるんだ…呪われてるんじゃねぇか俺

早く来いとジャックに大声で呼ばれブギーは渋々2人に続いた
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