矮小猫のおまじない
ウェアウルフに連れられ訪れたのはダウンタウン内のとある店
その店内はさほど広くはないものの、ハロウィンタウンらしい暗くどこか不気味な様子が伺えジャックは好感を持てた
暗い店内を照らすのは壁や天井に設置されている小さなランプ
その灯りはほのかに各所を照らし、それはとても雰囲気のよいものだった
ウェアウルフに連れられ椅子に腰掛ける
目の前には古い木を使用している丸みを帯びたテーブルに蝙蝠の羽をモチーフにしたようなデザインの黒いテーブルクロス
ウェアウルフはそのテーブル上に置かれているメニューを取るとジャックの前へと差し出した
ウェアウルフ「まぁ好きなもの頼んでくれよ」
ジャック「いいのかい?」
ジャックが問いかけると彼は大きく頷いて見せた
メニューに視線を移すとそこには数多くの品名が記されている
ジャックはその中から飲み物と料理を選び、ウェアウルフへとメニューを手渡す
するとウェアウルフは受け取ったメニューに目を通す事なく元の場所へと戻し、店の奥へ振り向いて声をかけた
ウェアウルフ「おーい!注文いいかー?」
その声を聞き奥から店員が顔を覗かせた
年老いたその店員は近くへと歩み寄るとウェアウルフの言う注文を書き取り、無言で奥へと戻ってしまった
ジャック「ここにはよく来るのかい?」
ウェアウルフ「まぁな、ここは安いし美味いし量も申し分ない、最高の店なんだぜ?」
ジャック「そうなんだ、僕もたまに来てみようかな」
そんな軽い会話を交わしているとジャックはある事を思い出した
ウェアウルフは自分に何か話があったはずだ
早速その事を彼に問いかける事とした
ジャック「そういえば話があるといっていたね?料理が来るまで時間もあるだろうし、今のうちに聞いておこうか」
すると先程まで笑っていたウェアウルフの顔が消え失せた
そして軽く頭を掻き、ジャックを見る
ウェアウルフ「あー…まぁあれだ、集会の時も言ったけどな…今朝会った時の事なんだけどよ」
ジャック「ああ、それなら別に気にしてはいないさ」
ウェアウルフ「ほ、本当か?」
ジャックは笑顔でコクリと頷いて見せた
するとウェアウルフの緊張の顔が掻き消え、安堵したのかほっと息を漏らす
ウェアウルフ「よかった…」
ジャック「もしかして僕が怒っていると思ったのかな?」
ウェアウルフ「そりゃぁ…大の大人があんな事されたら気分悪いだろ?」
言われてみると確かに気分のいいものではない
しかし今の自分は見ての通り子供の姿
彼に子供のように扱われても仕方のない事だ
ジャック「まぁ確かにそう思うけど…でも君は僕だってわからなかったんだし仕方のない事なんじゃないかい?」
ウェアウルフ「ジャックだってわかってたら絶対にあんな事できねぇ」
そんな事をしてジャックが怒りでもすればどんな目にあうか
その光景を想像してしまったウェアウルフは恐怖に身を震わせた
そんな彼を見て一体どんな想像をしているんだろうと思わず苦笑した
その後暫くして二人の前に注文した料理が並べられた
まるで人間の指のような形のフィンガーウインナーの盛り合わせ
小さく可愛らしいイワクイムシを散らしたサラダ
身がたっぷりと詰まっているマッドクラブの蒸し物等
それらの料理から食欲を誘うとてもいい香りが2人の鼻を掠めた
ウェアウルフ「これこれ!うまいんだよな!」
ジャック「わぁ!凄くおいしそうだね!」
2人は顔を見合わせ笑顔を浮かべ早速その料理へ手を伸ばした
ウェアウルフ「あー食った食った」
ジャック「僕も満足だよ」
料理を全て平らげた2人はグラスに注がれた飲み物を口にする
今度サリーを連れてきてあげよう
ジャックがそう考えていると店の扉が静かに開かれた
ハイド「おや?ジャックにウェアウルフじゃないですか」
そこに現れたのはミスターハイド
2人は彼に気付くと挨拶と共に軽く手を振る
ミスターハイドは2人に誘われるままに同席をする形となり、椅子に静かに腰かけた
そして彼のシルクハットが取り払われそこから小さなミスターハイドの姿
その小さなミスターハイドのシルクハットが取り払われるとそこから更に小さなミスターハイドが姿を現した
彼らは店員に注文を伝えるとジャック達へと向き直った
ハイド「二人が一緒に食事とは珍しいですね」
ジャック「彼に誘われたんだ、おかげでいい店をまた一つ知れたよ」
ハイド「それは良かった、私もここは気に入っているんです」
ハイドは嬉しそうに答えた
そして同時にある事に気付いた
ハイド「そういえば…ジャック、元の姿に戻れるまでの間まさかその服で過ごすんですか?」
指摘されたのは身を包んでいる黒いコートの事だった
質は決して悪くはないのだが、今の体格にはあまり似つかわしくない
そして一番に気にするべきはサイズの問題だった
今は椅子に座っている為然程問題はないのだが、移動の際など裾を持たなければ引きずる形となってしまう
普段のジャックの背丈を思えばそうなるのは当然だと言えた
ジャック「ああ、これは今だけだよ…サリーが服を用意してくれるらしいんだ」
ハイド「そうなんですか、ならばいいのですが」
そう言ってミスターハイドはジャックのコートに軽く触れる
コートの質の良さを確認しているようで、なるほどと呟きながら1人頷く
ハイド「なかなか質の良い物ですね、素晴らしい」
ジャック「ありがとう、僕もこれは気に入っているんだ」
ウェアウルフ「俺にはよくわからねぇなぁ…」
2人の様子を眺めていたウェアウルフがミスターハイドを真似るようにコートに触れる
指先で慎重に撫で擦るが彼にはいまいち理解できないものだった
ウェアウルフ「まぁ高いもんだろうなってのは俺でもわかるけどな」
ハイド「ふむ、ウェアウルフ…よかったら私が色々とご指導しましょうか?数日もあれば貴方もこういったものが理解できるようになりますよ」
ウェアウルフ「い、いや…俺は別に理解出来なくても困らねぇから」
そう言うと思っていましたがね
そう告げたミスターハイドは楽しそうに笑みを浮かべる
そんな二人のやり取りを見てジャックも愉快そうに笑った
それから暫くして、食事を終えた3人はその小さな店から姿を現した
ジャック「また今度、近いうちに寄らせてもらいます」
ジャックの言葉に店員はやはり言葉を発することはなく、しかし嬉しそうに薄らとではあるが笑みを浮かべ軽く頭を下げた
ウェアウルフ「あー腹もいっぱいになったし昼寝でもするかぁ」
ハイド「私もそろそろ行きましょう…ジャック、貴方はどうするんですか?」
ジャック「僕も一度家に戻るよ、もしかしたらサリーが来るかもしれないからね」
ハイド「その方がいいでしょうね、すれ違いにならずにすみますし…ではジャック、気を付けてお帰りを」
そう言ってウェアウルフとミスターハイドの2人はジャックと別れる事となった
1人となったジャックは自宅までの道をゆっくり散歩しつつ帰ろうと歩き出した
歩き出すと後ろからズルズルと引きずる音
それは今着用しているコートを引きずる音だった
先程いいものだと褒められた事もあり、ジャックは少し考えてコートの裾を持ち上げた