矮小猫のおまじない
町長の呼びかけにより、タウンホール内部には住人達が集まっていた
ホール内は何やらざわついていた
住人達は互いに顔を合わせ、何故集められたのかと言葉を交わしている
そんな様子を舞台袖からこっそり覗き込んでいる黒いコート姿
それはジャックだった
フードに隠されたその顔は緊張からか強張っていた
珍しく緊張している
そんなジャックに気付いたのか、彼の隣に立ったサリーがその肩に静かに手を置く
サリー「ジャック、大丈夫よ」
ジャック「そうだね、でも…変だな、こんなに緊張したのは初めてだよ」
苦笑しとにかく落ち着いていこうと目を閉じ深く呼吸する
次第に強張っていた表情が和らいでいく
するとそこへ町長が姿を見せた
町長「ジャック!皆揃いましたよ!」
ジャック「わかりました…行きましょう!」
自身に気合を入れ、一足先に舞台へと上がっていった町長に続いていった
サリーはそんな彼の小さな後ろ姿を見つめていた
町長「お待たせしました!今からとても重要な話があるので皆どうかお静かに!」
ざわついている住人達を静めるよう町長が声を張る
その声を聞き皆は舞台へと視線を集中させた
町長が舞台の端へ寄ると1人の子供が姿を現した
皆は誰だろうと不思議そうに見つめる
ホール内はすっかり静まり返り、その子供が舞台中央へと立った
ウェアウルフ「あ、あの時の子供じゃないか!」
ジャックの姿を見てウェアウルフが突然立ち上がる
黒いコートにフードを深くかぶった子供
それは明らかに街で関わった子供の姿だった
ウェアウルフに続いてハーレクインやウィッチズ、ミスターハイドも声をあげた
ハーレクイン「間違いない!あの時の子供だ!」
トールウィッチ「あらぁ、確かにそうね」
リトルウィッチ「でもなんであの子が舞台に上がっているの?」
皆は次々に何故だと声をあげる
ハロウィンタウンで開かれた集会にまるで主役かのように舞台に上がる見知らぬ子供
確かに誰しもが不思議に思う事だった
町長「そのわけは彼が直接、皆に説明してくれます」
町長の言葉に皆が口を閉じる
ジャックはそれと同時に深くかぶっていたフードを取り去った
露になったその顔を見て皆が驚愕した
そこに現れた顔は皆が見慣れている人物
ジャック・スケリントンの顔そのものだったからだ
ハイド「あれはジャック…?しかし子供ですし………まさかとは思いますが」
ウェアウルフ「そいつもしかしてジャックの子供か!?」
ウェアウルフの声に皆が一斉に驚き騒ぎだした
見れば見るほどジャックに瓜二つ、もはやそのものといえる姿の子供
これはジャックの子なのだと皆が口々に声をあげる
トールウィッチ「ちょっと町長!アンタまさか知ってたのかい!?」
町長「いや、知ってたというか」
リトルウィッチ「いつの間に子供なんて作ってたの!という事は相手は勿論サリーよね!?」
町長が悲観の顔で住人達の言葉に戸惑う
皆すっかりジャックの子供だと決めつけてしまっていた
とにかく一度落ち着かせなければ
このままでは話が一向に進まない
するとジャックが小さな手を数度叩く
それは皆がざわつくホール内に対し微かな音ではあったが、住人達はそれに気付き口を閉じた
大勢の視線が一斉にジャックへと注がれる
ジャック「まず皆に一つ訂正しておこう、僕はジャックとサリーの子供じゃない…ジャック・スケリントン本人だ!」
その言葉を聞き住人全てがまるでタイミングを合わせたかのように目を丸くした
そこから皆が再び驚きの声をあげる前にとジャックが続けざまに言葉を口にする
ジャック「皆が驚くのも無理はない、僕自身も驚いている…これは呪いだ、呪いの所為で子供の姿になってしまったんだ」
ウェアウルフ「……えっと……本当にジャックなのか?」
ウェアウルフが恐る恐る声をかけてきた
ジャックは彼を見て笑みを浮かべ頷いて見せる
するとウェアウルフは全身を小刻みに震わせ始めた
どうしたのかとジャックが不思議に思っていると、ウェアウルフが突然此方へ向け勢いよく頭を下げた
ウェアウルフ「あ、あの時はジャックだなんて思ってなかったんだ!すまなかった!!!」
すっかり普通の子供だと思い込み首根っこを掴んで持ち上げるなど、あの時の自身の行いを思い出したウェアウルフ
ジャックにあのような行為が出来る者などそうはいない
あえて言うならブギーくらいのものだ
そんな事を自身はやらかしてしまっていたのだ
もしかしたら怒らせてしまっているかもしれない
そう考えウェアウルフは必死に頭を下げ謝罪を口にしていたのだ
そんな彼を見てハーレクインも申し訳なさそうな表情を浮かべる
しかしそんな彼らとは違い、ウィッチズは何やら興奮し二人して盛り上がっていた
一体どんな呪いであんな姿になったのか
誰に呪いを、その人物が気になる
2人は先程ジャックが述べていた呪いに興味津々な様子だった
そんな中ハイドが舞台へと近付き、ジャックを見つめる
ハイド「本当にジャックなんですね…驚きました」
ジャック「ミスターハイド、あの時は姿を見られたくなくてついあんな事を…気分を悪くさせてしまったね」
ハイド「いいえ、気にしないでください…それより呪いと言っていましたが」
ジャックはこれまでの出来事を住人達に語った
魔女の存在
その魔女に付き添う不思議な猫に噛まれた事
それが呪いである可能性が高く、解呪の為に魔女を探さなければいけない事
そしてその魔女を探す為に人手が必要な事
語られた内容を皆が静まり返って耳にする
そしてジャックが最後に真っ直ぐ住人達を見つめる
ジャック「魔女を探す手助けが必要なんだ、皆の力を貸してほしい」
その言葉が終わると、住人の中の1人が手をあげた
続けざまに1人、また1人と手を上げ始める
気が付けばその場にいる全員がその手をあげ、ジャックに笑いかけていた
ウェアウルフ「ジャック…アンタが困ってるってのに手助けしない奴なんていると思ってたのか?」
トールウィッチ「最初から私達に相談してくれればいつでも協力したのに…水臭いねぇ」
リトルウィッチ「私達に任せてジャック!その魔女を必ず見つけてみせるわ!」
ジャック「皆…」
喜んで協力する
住人達は皆口を揃え、そうジャックに語り掛ける
ジャックはそんな皆の反応に自然と笑みが零れた
そして住人達を僅かではあるが信じ切れていなかった自分を少し恥じた
こんなにも素晴らしい、わが街の自慢の住人達
なんて頼もしいのだろう
皆がやる気を見せ互いに声をかけあっているのを見て、ジャックはそっと舞台袖に視線を向ける
そこに立って此方を見つめていたサリーが笑顔で頷いた