矮小猫のおまじない





それから暫くして
ようやく落ち着きを取り戻した町長はサリーに進められるまま椅子に腰掛けた
蜘蛛の巣の模様が描かれたカップを受け取り、中身のお茶を飲み干す


サリー「落ち着きました?」
町長「すみません、つい取り乱してしまいました…」


飲み終えたカップを机に置き、ジャックへ向き直る
やはり見れば見るほどジャックにそっくりだ


町長「確認しますがこの子はジャックの子なんですよね?つまり二人の…」
サリー「その、違うんです…彼は」
ジャック「サリー、僕から話すよ」


ジャックは町長の顔を見つめ笑顔を浮かべた


ジャック「町長、僕はジャック…ジャック・スケリントン本人なんですよ」


町長は意味が分からずきょとんとした表情
だったのだが暫しの間をあけ、悲観の表情へと入れ替わる
ようやく状況を理解したのだろう
そして目の前の子供がジャックだと分かった瞬間、町長の悲観の顔がますます青みを帯びた

先程まで自分が抱きかかえ可愛いと愛でていたのがジャックであると気付いたからだ


町長「……………す、すすすすすすすすすすすすみません!すみません!貴方がジャックだなんて思わなかったんですーっ!!」


失礼な事をしてしまったとひたすらに頭を下げ謝罪を口にする
そんな彼をジャックは慌てて宥める事となった


ジャック「町長落ち着いてください、別に怒ってはいませんよ?」
町長「ジャックだとわかっていればあんな…ああああ!私はなんてことを!貴方を抱っこするだなんて!!」


確かに自分が町長に抱きかかえられた事は予想外で驚いたが、別にそれに対して怒りの感情はない


町長「し、しかし何でまた子供の姿に…」
ジャック「それなんですが…その事を皆に知らせる為に集会を開こうと思っているんです」


集会に人を集め皆に今の自身の状況を説明する
それにはまず町長に皆を集めてもらう必要があった


町長「ふむ…わかりました!住人達もこの事はしっておいた方がいいでしょうし、早速集会を開きましょう!」
ジャック「よろしくお願いします」
町長「しかしジャック…なんでそんな姿になってしまったんですか?」


子供になってしまったジャックを見て不思議そうに問いかける
確かについ先日まで大人だった者が突然幼くなってしまえばどうしてそうなったのか、原因を知りたくなるのは当然だと言えた
そんな彼へジャックはこれまでの事を簡潔にではあるが告げた





町長「魔女に猫ですか…私も博士の言う通りその猫が怪しいと思いますよ」
ジャック「やっぱりそうですよね」


事情を説明すると町長も博士と同様、魔女と猫の存在が怪しいと告げた
ジャック自身も今ではその説が濃厚だと考えている


サリー「だからこそ集会を開いて皆に事情を知らせようという事になったんです、魔女さんを探すために人手が必要ですし」
町長「そうですね、魔女1人を探すだけとはいえ街から離れてしまっていればそれだけ困難です、他の街に紛れたり…都市などに入られてしまえば尚更ですしね」


この世界にはハロウィンタウンの他にもいくつもの街が存在する
そしてその街の中には他より遥かに規模の大きな都市が存在する
常に多くの種族が行き交う大都市
そんな中に探し人である魔女が紛れてしまえば探すのは非常に困難だといえた


町長「わかりました!では早速集会を開きましょう、皆を集めますのでその間にジャックは準備をお願いします」
ジャック「よろしくお願いします」


任せてください!
町長が意気揚々と椅子から立ち上がる
それと共に集会に向かう準備をとサリーがジャックへ歩み寄った
皆に事情を伝えると決めたジャックだったが、何処か浮かない表情

今の自分の状態を知って皆はどんな反応をするだろうか
勿論皆ジャックの為に協力はしてくれるだろう
それはわかってはいるがもしも…
そんな考えが未だに頭の片隅に居座り続けていた
そんな彼の不安を読み取ったのかサリーが彼の目の前に屈み、そっと声をかける


サリー「ジャック…不安なの?」
ジャック「…皆わかってくれるとは思っているんだけどね、やっぱり少し不安な気持ちはあるよ」
サリー「貴方の不安に思う気持ち、よくわかるわ」


そういって彼の身体を優しく包み込む
サリーの手がジャックの背をそっと撫でる


サリー「私がついてるわ、頼りないかもしれないけれど…」
ジャック「そんな事はないさ、ありがとう…サリー」


町長はそんな二人を微笑ましく見つめ、静かに階段を下って行った


2人とも本当にお似合いだ
早く結婚してしまえばいいのに


ふと2人の結婚式を想像する
それは大いに祝福され皆が幸せいっぱいの笑顔を浮かべる
そんな素晴らしくもやはりハロウィンタウンらしくどこか恐ろしさも兼ね添えたもの

町長はいつか実現させなければ、と1人意気込んだ
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