矮小猫のおまじない
ジャックとサリーの2人は研究所の扉をゆっくりと開き、その隙間から外の様子を覗き込む
見える範囲に小鬼達の姿はなくその事に安心し外へと踏み出した
ジャック「よかった、まだあの子達がうろついてたらどうしようかと思ったよ」
サリー「そうね…ところでジャック、何処に行くの?」
ジャック「とにかく一度家に戻ろうかと思ってね」
2人で暫し会話を交わし、眼前に見えた広場の手前でジャックが立ち止まる
フードを深くかぶり広場の様子を伺った
そこには住人の姿は一切なく、ジャックは今がチャンスと素早く走り出した
特に誰とも遭遇することなく自宅の門後方へ身を隠す
それを見ていたサリーに門の隙間から顔を覗かせ早くと手招き
サリーはそれを見るとコクリと頷き、ジャックに続くよう走り出した
サリーも無事にジャックのもとに駆け付け2人は人目につかぬよう家の中へと入った
螺旋階段を上り、ようやく人目の届かぬ場所へ訪れた2人
ジャックは安心したように椅子によじ登り座り込む
サリーはその様子を見て笑みを浮かべた
サリー「ところでジャック、皆に事情を伝えるのなら…集会を開くの?」
ジャック「そうだね、まずは町長に声をかけておかないと………うーん、けどまた外に出るのはなぁ」
再びこの姿で外に出てしまえば住人に見つかり騒がれてしまう
集会を開き皆が揃った場所で正体を明かそうと考えている為、それまではなるべく身を隠しておきたい
サリーに頼んでみようか
そう考えているとジャックの耳に聞き覚えのある声が届いた
ゼロ「わん!」
サリー「まぁゼロ!こんにちは」
サリーが挨拶を交わし頭を撫でるとゼロは
気持ちよさそうに目を細める
それを見たジャックはこの手があったと椅子から飛び降りてゼロの元へ駆け寄った
ジャック「ゼロ!いいところに来てくれた!」
ジャックが駆け寄るとゼロは嬉しそうに彼の周囲を飛び回る
そんなゼロを両手で捕まえ抱きかかえる
ジャック「実は君に頼みがあるんだ、きいてくれるかい?」
ジャックの頼みとなればゼロが断るはずがない
任せて!とまるで返事をするかのように一鳴きした
町長「ふんふ~ん♪」
此処は町長の自宅
仕事のない合間に鼻歌交じりで自慢の車を磨くのが最近の彼の日課となっていた
町長「う~ん、素晴らしいですねぇ」
すっかり見違えた自慢の車を眺め満足気に笑みを浮かべる
その車で街を走る姿を想像していると町長の耳に犬の声が届いた
何かと思い見上げるとそこにはゼロの姿があった
町長「おや、ゼロじゃないですか、どうしました?」
ゼロ「わん!わん!」
ゼロは町長に何かを語り掛ける
しかしその言葉を理解できる事はなく、何が言いたいのだろうと悩むこととなった
町長「うぅん…私にはゼロの言葉は理解できませんからねぇ……困りました」
どうしたものかと町長が悩む間もゼロはひたすら吠えなんとか思いを伝えようとする
しかしそんなゼロの努力も虚しくただ時が過ぎるだけ
するとゼロは突然町長の頭上へと飛んだ
そして何を思ったか、町長の帽子の先を咥え持ち上げたのだ
町長の頭から帽子が浮き、そのままゼロと共に外へと飛んで行った
町長「え…………ぜ、ゼロ!私の帽子を返してください!!」
暫し呆然としていた町長は自身の帽子が盗まれたとようやく理解し、慌てて外へと飛び出した
ゼロが家を出て数刻
ジャックはゼロの帰りを待つ間、サリー自慢のお茶を飲み寛いでいた
本当ならば貯蔵してある鮮血葡萄で出来た美味しいワインを口にしたかったが、子供の身体にはよくないとサリーに止められてしまっていた
飲み頃だというのに残念だ
すると外から何やら騒がしい声が聞こえ、ジャックもサリーも揃って首を傾げる
ジャック「なんだろう、騒がしいな」
サリー「あの声…町長じゃないかしら」
サリーに言われもう一度その声を聞く
確かに彼女の言う通り、町長の声だった
しかし何故あのように騒いでいるのか
何かあったのかと考えていると開かれていた窓からゼロが勢いよく飛び込んできた
ジャック「おかえりゼロ!……あれ?何か咥えてる」
一体何を持ってきたんだろう
ゼロの口から受け取りジャックとサリーの2人がそれを見つめる
それは何やら見覚えのある帽子だった
サリー「これって町長の帽子じゃないかしら」
ジャック「あ、本当だ…ゼロ、なんで君が町長の帽子を」
そうゼロに問いかけようとした瞬間
螺旋階段を一気に駆け上がってくる足音
そしてそこから姿を見せたのは
町長「ゼロー!私の帽子を返しなさーい!」
それは先ほど外で騒いでいた町長だった
あの長い階段を全力で駆け上がったせいか、すっかり息が切れ疲れ切った様子
サリー「町長、大丈夫ですか?」
町長「ああ、いえ…………ふぅ、大丈夫です!それよりゼロ!早く私の帽子を」
サリーに心配され深く何度も呼吸し息を整える
そして落ち着いたところで颯爽とゼロを見た
しかしそこで町長は動きを止め声すら出せなくなってしまった
彼の視界に黒いコートを着た子供が映ったからだ
そしてその子供の顔
あのジャックと瓜二つな顔だった
町長「………ジャックについに子供が!!?」
彼のその反応を予想していたサリーは溜息を吐く
町長はジャックに近付くとその顔をまじまじと見つめる
見れば見るほどそっくりだ
もはや本人と言ってもいい
すると町長は振り返りサリーを見上げ満面の笑顔を向け
町長「おめでとうございます!!」
サリー「あの……違うんですけど」
サリーがそう答えるも町長にはもう聞こえていない様子
再びジャックに向き直りついに子供が!素晴らしい事です!と1人喜び舞い上がっていた
しかしそこで再び町長は動きを止めた
室内をキョロキョロ、どうやら誰かを探しているようだった
町長「肝心のジャックはどこですか!こんな素晴らしい事を私に黙っているだなんて酷いですよ!」
サリー「えっと、町長?一度落ち着いて私の話を」
町長「は!まさか…またどこかにフラリと出掛けてしまっているんですか!また行方不明ですか!?」
町長は姿が見えないジャックの事が心配になりまた何か問題に巻き込まれているのでは、或いは問題を起こしているのかもしれないと悲観の表情で騒ぎだす
自身の言葉に聞く耳を持たない町長をどうしようかとサリーが悩んでいるとジャックが町長に話しかけた
ジャック「町長!とにかく一度落ち着いてください、ね?」
すると先程まで騒いでいた町長がジャックを見る
そして突然ジャックを軽々と抱き上げた
町長「なんという事でしょう…その口調に仕草、何もかもジャックにそっくりだっ!やはり彼の子供なんですね!!」
なんと可愛らしい!
そう言って抱え上げたジャックを全力で抱きしめる
予想外のその行動にジャックは驚き、なんとか町長の腕から逃れようと必死にもがいた
しかし今の子供の身体では町長の腕の中から逃れる事は適わなかった
なんだかとんでもない事になっているわ…
目の前の二人を見てどうすればいいのかと戸惑う
ジャックを彼の子供と思い込み抱きしめ愛でる町長とそんな町長の腕から逃れられず此方へ助けを求めるかのように腕を伸ばすジャック
まずは彼を助けて町長に落ち着いてもらわなければ
言葉で伝えようにも先程のように自身の声は彼には届かないだろう
サリーはそう考え仕方ないとありったけの力で二人を強引に引き離した