矮小猫のおまじない
ジャックが同意したのと同時に何やら誰かが走ってくる音が3人の耳に聞こえた
一体誰だろうか
最初はイゴールの足音ではと考えた
しかしその足音は明らかに彼のものとは違い、重量のある大きな存在のものだとわかる
その足音が段々と近付いてきて、扉の向こう側でピタリとやんだ
3人が不思議そうに視線を向けていると、扉が勢いよく開かれた
ブギー「邪魔するぜー!!」
そこに現れたのはブギーだった
何か楽しい事でもあったのだろうか、何やらご機嫌な様子で室内に入ってきた
博士「なんじゃブギーか…ここに来るとは珍しい」
サリー「何か用でもあるのかしら」
ブギー「あーお前らには用なんてねぇから気にするな、俺が来たのは…」
そういってジャックの方に視線を向ける
その姿は小鬼達と同じ背丈にまで縮んでしまっている
そんなジャックを見てブギーはたまらず声をあげて笑った
ブギー「ジャーック!お前まじかよ!!こぉ~んなに縮んで傑作だなぁっ!!!」
すっかり小さくなったジャックの頭をペチペチと叩き腹を抱えて笑う
一応力加減はされているが体格差もあり叩かれる度に視界が揺れる
そのブギーを睨みつけジャックは不機嫌そうに口を開いた
ジャック「ブギー、笑っていられるのも今のうちだぞ?」
ブギー「なんだなんだ~?今のお前が俺に勝てるってのかぁ?無理無理!!」
ジャック「……試してやろうか?」
可愛らしく笑みを浮かべたジャックはその言葉を告げると共に床を蹴ってブギーの腕にしがみついた
そのまま更に腕からブギーの背面に飛びつき軽々と頭までよじ登る
ブギー「おーおーくすぐってぇ!それで何が出来るってんだぁ?」
ニヤニヤとされるがままとなっていたブギー
しかしそれも次の瞬間すぐに後悔する事となる
ジャックは笑顔で両手をブギーの顔面に回し、その目元を小さな手で覆う
そのジャックの手が微かに赤い光を帯び、途端ブギーは悲鳴をあげて暴れだしたのだ
ブギー「あっぢいいいいいいっ!!!」
ジャック「謝るなら許してあげない事もないけどどうするっ!?」
ブギーの目元を覆っていたジャックの手が炎を纏っていたのだ
すっかり油断していたブギーはその炎で目を直に攻撃されたまらず暴れ狂う
そしてジャックも暴れるブギーから振り落とされないよう必死にしがみつく
ブギー「わかった!俺が悪かったからその手を離せええええっ!!!」
ジャック「今度また僕の事を馬鹿にしたらこれくらいじゃすまないからな!わかったか!?」
ブギー「わかったわかった早くしろ焼けるーっ!!!」
そんな二人のなんとも言えない戦いを博士とサリーは2人して呆然と見つめるだけだった
その後何とか二人の地味な戦いは無事終結した
ジャックはまだ少しご立腹なのか不機嫌そうに腕を組み、焼かれた顔を擦るブギーを睨みつけていた
ブギー「あー…とんでもねぇ目にあったぜ」
ジャック「僕を馬鹿にしたからだ、反省しろ」
ブギー「ったく…小さくなってもジャックはジャックかよ」
ジャック「当たり前だろ」
互いに言葉を交わしそして睨み合い、室内の空気が一気に重くなる
また変な争いを起こされては話がすすまない
そう考え両者の間にサリーが慌てて入った
サリー「二人とも今は争ってる場合じゃないわ!一度落ち着いて話をしましょう?」
ジャック「………そうだね」
サリーの言葉にジャックは落ち着きを取り戻し、ブギーへと向き直る
未だ顔を擦っていたブギーは僅かに焦げた顔でジャックを見下ろした
ジャック「ブギー、見ての通り僕は子供になってしまっている…博士曰く呪いらしい」
ブギー「呪いねぇ…どこでんな厄介なもんもらっちまったんだ?」
そう言いながらジャックを頭からつま先まで見下ろす
すっかり子供の姿に変わってしまったジャック
確かにこれは呪いという話も強ち間違いではないかもしれないとブギーは内心頷いた
博士「昨日の魔女の連れた猫、それが原因ではないかと睨んでおるんじゃがな」
ブギー「猫ねぇ…あ、そういえばお前噛まれてなかったか?」
魔女と言われブギーは昨日の記憶を呼び起こす
街に訪れた魔女が呪いのかかった商品を売っていた事
その魔女の猫がジャックに噛み付いていた事
あの小さな毛並みの良い猫
あの猫に噛まれた事により呪いを受けたのか
ブギーはあり得る話だと答えた
ブギー「魔女の連れてるもんは厄介な奴が多いからな、特にあの魔女は自分の商品にまで呪いをかけてやがった、ならその従者な猫も同じように呪いの力を持っていても不思議はねぇだろうな」
サリー「やっぱりあの猫が……じゃあ一刻も早く魔女さんを探さないと」
それを聞いてジャックは重い溜息を洩らした
やはり住人達に今の自分の姿を見せる事は気乗りするものではない
しかし人手を得る為には仕方のない事
ジャック「博士、やっぱり住人達にこの事を知らせます、そしてなんとかもとに戻る為に協力してもらおうかと」
博士「それが一番いい方法じゃろうな」
博士にそう告げるとジャックは集会を開く為に外へと向かう事となった
そこで手に何かが触れた
見るとサリーが自身の手を優しく握ってくれていた
サリー「大丈夫よジャック、皆貴方の力になってくれるわ」
ジャック「…そうだね」
確かに彼女の言う通りだ
事情を説明すればきっと住人達は力を貸してくれるだろう
しかし自身のこんな姿を皆に晒すのはやはり気が引ける
サリーが検査の為に脱いでいた黒いコートでジャックの身体を覆う
その袖に腕を通すとフードでしっかりと頭を覆ってくれた
ブギー「なんかこうやって見てると優しいママとガキって感じだよなぁ~なかなかお似合いの親子じゃねぇか」
ブギーの言葉がいちいち癇に障る
しかしここでまた喧嘩を始めてはサリーや博士に迷惑がかかる
ジャックはあえてブギーを無視しサリーの手をとって足早に外へと向かった
その場に残されたブギーはやれやれとため息を吐いた
ブギー「無視かよ、可愛くねぇガキだぜ全く」
博士「お前がからかうからじゃろ」
博士は検査で使った器具を仕舞いこむ為に台へと腕を伸ばす
彼の言葉にブギーはおどけるよう首を傾げ笑う
ブギー「あのジャックがガキになっちまったんだ、こんなレアケースを放っておけるわけねぇだろ?」
博士「全く…あまりいじめると後で痛い目にあうぞ?」
先程のようにな、とブギーの顔面を指差す
その顔を軽く擦りブギーは鼻で笑った
ブギー「ちっとばかし油断しただけだ、まさかあの身体でも魔法が使えるとは思わなかったんでな」
子供となったジャックに何をされたところで痛くもかゆくもないと思っていた
だが魔法となれば話は別だ
通常のジャックの扱うものと比べると威力は格段に落ちてはいるものの、あのように直に触れ焼かれるのはやはり痛いものだ
博士「あまり無茶はさせん事だな、中身は変わらんが体は子供じゃ…体力は勿論、身体能力も年相応に落ちておるじゃろうしな」
ブギー「あの様子なら別に問題ねぇと思うがねぇ…」
そう言って部屋から出る為に扉の方へと向かい歩き出す
そんなブギーを博士が呼び止めた
まだ何かあるのかと振り返ると博士が何やら不思議そうな表情でブギーに問いかけた
博士「そういえばお前はここに何の用があって来たんじゃ?」
ブギー「ジャックに瓜二つの子供がいたって子分共から聞いたんでな、いつの間にガキなんて作りやがったのか気になって来ただけだ」
博士「…まさか他の連中はその事を知っておるのか?」
ブギー「さぁな、子分どもが俺の所に戻るまでに言いふらしてるかもしれねぇなぁ」
じゃあなとそれだけ言ってブギーは部屋を後にした
残された博士は車椅子に力なく凭れ掛かりやれやれとため息を漏らした