矮小猫のおまじない





博士「全く…とんでもない事をしでかすもんじゃ」
ジャック「いやぁ…まさか怒るとは思いませんでした」


博士の怒声の後、頭頂部に拳骨をお見舞いされたジャックは自身の頭を擦りながら苦笑する
冷静になって考えればすぐにわかる事だったと博士は自身の失態を恥じていた


骸骨であるジャックのような種を持たない種族は通常の繁殖活動を行う事が出来ない

しかし人間でいうものとは少々異なる方法でならば可能だ

だがそれにはまず高度な知識や技術が必要不可欠
このハロウィンタウンでそれを行うには博士の協力が必要だった


勿論博士は2人の子など作ってはいない







博士「…で、その姿はどうしたんじゃ」


溜息を洩らしながら博士がジャックの姿を見つめ問いかける
ジャックは自身の姿を一度見下ろし、困ったように頬を掻いた


ジャック「それが今朝目覚めたらこんな姿になってしまっていて…博士なら何かわかるかと思って伺ったんですよ」
博士「ふむ、調べてみるとしようか」


ついて来なさいと数々の器具が並べられている台の方へジャックを先導する
心配そうな表情を浮かべサリーもそれに続く

が、そこで振り返った博士がサリーを見て首を横に振った


博士「サリー、お前は外で待っていなさい」
サリー「でも博士…」
博士「お前がいては気が散って集中できん…いいから出ていくんじゃ!」
サリー「………わかりました」


博士の言葉に反論しようと口を開きかけたが、サリーはそれ以上何も言わず指示に従い扉の方へと向かった


扉が閉まるのを確認して博士はジャックに向き直ると台に横になるよう指示する
それに従い今のジャックには少々高い台によじ登り、体を横たわらせた
博士が傍に置かれていた器具に触れ準備をしている姿を見つめ問いかける


ジャック「博士、今のは少し可哀そうな気がするんですが」
博士「サリーがいては困るんじゃよ」
ジャック「どういう事です?」


サリーがこの場にいたとしても検査には何ら影響はないはず
彼は何故彼女を追いだしたのだろうか
その意図が分からずジャックは首を傾げた


博士「あの子がいると出来ない話があるんじゃ、ジャック」
ジャック「話ですか?」
博士「…サリーの事をどう思っているか教えてくれんか?」


その博士の問いかけにジャックは何故そんな事をと不思議に思った

勿論サリーを愛しているに決まっている
その気持ちに偽りなどは決してない
ジャックはその想いを素直に博士へと告げた
それを聞き博士は微かに笑みを浮かべる


博士「そうじゃな…お前たちが愛しあっておるのは誰の目から見ても明らかじゃな」
ジャック「…博士、何故そんな質問を?」


すると博士は横たわるジャックの小さな手をそっと掴み顔を覗き込む
視線が交わるとそこには真剣な眼差しがあった


博士「ワシはな…お前におじいちゃんと言われた時、嬉しかったんじゃよ。今まで子や孫などどうでもよいものだと思っておったんじゃが」


ジャックにおじいちゃんと呼ばれた時、博士は小さな彼をとても愛おしく思った
それはサリーを娘のように思い始めた頃に感じたもの同様、胸の奥が何かあたたかいもので満たされるような感覚だった
その温もりと共に通常研究の事でいっぱいな脳みそに浮かんだのはジャックとサリー、その子供と共に楽しい時を過ごす自身の姿

博士は今まで気にも留めなかった家族という光景を思い浮かべていたのだ


博士「結局は騙されていたわけじゃが…おかげでいずれ本当の孫を見てみたいと思えたぞ」
ジャック「………えっ!?」


その言葉にジャックは思わず飛び起きる
博士の口からまさかそのような単語が出てくるとは思いもよらなかった

彼にジャックの子と言われ、つい魔が差して博士に孫だと仕掛けたのは自身
予行練習と考えたがそれもあくまで、もしも子供が出来たならという話
しかし博士はそれに酷く喜んだのだ
それはジャックの予想を反するもの

博士をぬか喜びさせてしまった
彼の気持ちを知りジャックに徐々に申し訳なさが込み上げた



博士「まぁお前とサリーが望むのならば、じゃがな」
ジャック「博士、僕は…」
博士「待て待て、そうすぐ決めるような事ではないじゃろう…それに今は一刻も早くその体になった原因を突き止めなければいかん」


検査を始めるぞとジャックの身体を軽く押し再び横たわらせる
博士が器具を選ぶ最中、ジャックは1人天井をぼんやりと見つめた




僕とサリーの子供が本当に出来たなら
そうなれば博士は喜んでくれるだろう
あの時の博士の反応を見ればそれは明らかだ


勿論僕自身も嬉しいに決まっている

しかしサリーはどうなのだろうか

果たして彼女は一緒に喜んでくれるだろうか
それとも…




博士「さぁ、検査を始めるぞ。大人しくしておるんじゃぞ」


深く考え込んでいたジャックは博士の言葉に我に返り、コクリと頷いた
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