蠱惑の糸
翌日―…
住人達の間で昨夜の出来事が広く伝わっていた
ジャック達が退治したと聞き喜ぶ一方、街中にまで例の蜘蛛が侵入していたという事に不安がる者も多かった
そのためか皆一人になる事を控え、常に誰かと共に行動するようになっていた
その中で一人
連れもなくダウンタウン内を駆け抜けていく姿があった
ハーレクイン「ウェアウルフいるか~?」
それはハーレクインだった
ウェアウルフの家の扉をドンドンと叩き、大きな声で彼を呼ぶ
何の反応もなく、まだ寝ているのかと思い再度扉を叩こうと腕を振り上げる
と、そこで扉が静かに開く
ウェア「おー…ハーレクインか。こんな朝からどうしたんだよ」
寝起きらしく眠たげに目をこすり大きな欠伸を一つ
ハーレクイン「なんだ寝てたのか?」
ウェア「そりゃまだこんな時間だしなぁ…とりあえず入るか?」
ハーレクイン「じゃあ上がらせてもらうか!」
嬉しそうに笑いウェアウルフに招かれるまま中へと入った
室内はさほど広くはなく家具も質素なものばかり
ウェアウルフに導かれ古ぼけたソファに腰かけるとスプリングが嫌な音をたてる
ウェア「で?どうしたんだよ」
ハーレクイン「いや、実はちょっと心配になってな」
ウェア「心配?」
何のことかと首を傾げる
ハーレクイン「ほら、昨夜の…」
ハーレクインに言われ昨夜の事を思い出す
あの蜘蛛達に襲われた光景が浮かんだ
嫌な事思い出しちまった…
それを振り払うように頭を左右にフルフルと振る
ハーレクイン「お前が1人で足止めしてこっちはサリーと逃げただろ?で、後でお前が気絶してたって聞いたから」
ウェア「あんな奴らにやられるなんて俺も思わなかったからな。情けねぇ」
ハーレクイン「それでお前に謝っておこうと思って」
その言葉にウェアウルフはますます不思議に思った
何を謝る事があるのだろうか
ハーレクイン「町長やサリーがお前を助けにいった時、一人そこから動こうとしなかった…というより動けなかったんだよ。自分が行って何になるんだって思って」
自分が気絶していた間の出来事は簡単にトールウィッチに聞いたが、あの二人が助けに来てくれていた事は知らなかった
戦えるわけじゃないのに無茶するな、と苦笑する
そして落ち込んだ様子のハーレクインを見る
助けに行かなかった自分を恥じているらしいが、戦う術のない者の選択肢としては別に間違っているわけではない
ハーレクイン「あの時、余計な事を考える前にとにかく助けにいけばよかったってちょっと後悔したんだよ…そうしたらどんな形であれお前の助けになったんじゃないかって」
ウェア「…あまり気にするな!」
ハーレクインの横に腰を下ろし、その背を強めに数度叩く
その突然の行動にハーレクインは前方に倒れ込みそうになり、なんとか踏ん張って体勢を整える
ウェア「あんなもんが相手だったんだ。お前の行動もしょうがないと思うぞ?それに心配してくれた気持ちだけで十分だって!」
ハーレクイン「でもなぁ…」
ウェア「……お!ならあれだ。今日の昼飯、お前が奢るって事でどうだ?詫びって事で」
ハーレクイン「そんなもんでいいのか??」
ニっと笑顔を見せるウェアウルフ
それを見てハーレクインは耐えられなくなり声をあげて笑い出した
ハーレクイン「お前…ほんと最高だな!」
ウェア「当たり前だろ!」
ハーレクイン「よし!じゃあ今日の昼は思う存分食っていいぞ!奢りだ!」
いつもの調子に戻ったハーレクインを見てウェアウルフも共に笑いながらほっとしていた
ハーレクイン「じゃあ後で広場で待ち合わせるか?」
ウェア「そうだな!」
ハーレクイン「よし!あ、遅れるなよ?じゃあな!」
元気に大きく腕を振り家を出ていくハーレクイン
彼をその場で見送り、とりあえず服を着替えようかと再び室内へ戻るウェアウルフ
先程までハーレクインが座っていた場所に腰をおろす
ウェア「もしかして、アイツみたいに他の奴にも心配かけちまったのかもしれねぇなぁ…」
そんな事を考えていると、ふと背中に違和感を覚える
ウェア「?…何か痒いな」
腕を回し背中を軽くかくが痒みは収まらない
ウェア「…痒い」
もう片方の手でも背を引っ掻くがそれでも痒みは収まらず、逆に増す一方
痒い
痒い
痒い
背中だけではなく腕も痒い
胸や肩
首も痒い
なんなんだよ
ガリガリと全身をくまなく引っ掻く
掻きむしるウェアウルフの足元にいくつもの毛がハラリと落ちた