蠱惑の糸
タウンホール内―…
ウェアウルフを横たわらせ、サリーとメイヤーはジャック達の帰りを無言で待っていた
その場にはトールウィッチの姿もあり、ウェアウルフの介抱にあたっていた
トールウィッチ「ジャック達、大丈夫かしらねぇ…」
町長「ジャックとブギーですよ?負けることはないでしょう!」
サリー「…ジャック」
ジャックやブギーの強さは十分理解している
けれどあれだけ大きな蜘蛛が相手なのだ
もしかしたら怪我をしてしまうかもしれない
サリーの不安は募る一方であった
再び沈黙が訪れる
しかしその沈黙も長くは続かなかった
沈黙を破ったのはタウンホールの扉が開く音
入り口に目をやるとそこにはジャック達の姿があった
町長「ジャック!皆無事でしたか!」
ジャック「心配をおかけしました、町長」
ブギー「無事でしたかってお前、俺達がやられるとか考えてたか?」
町長「いや心配くらいしますよ!あんな大蜘蛛なんですよ!?」
ロック「その蜘蛛はもう倒しちゃったんだよね!」
ショック「アタシ達がとどめ刺したんだから!」
バレル「オレ達最強だもんねー!」
盛り上がる小鬼達をその場に残し、ジャックはサリーの元へ歩み寄る
ジャック「サリー怪我はない?」
サリー「あ…私は大丈夫よ……けど」
そう言ってトールウィッチの方に視線を向ける
ウェアウルフは未だ横たえたまま目を覚まさない
トールウィッチ「とりあえず目立った怪我もないし、気を失っているだけみたいよ」
その言葉にジャックは良かった、とやっと笑顔を見せた
ブギーは近くにあった椅子に腰を下ろし、背もたれに寄り掛かる
ブギー「しっかしさっきの大蜘蛛、あんなのが街中にいやがるなんてな」
トールウィッチ「町長達に聞いたけど例の蜘蛛なんだってねぇ」
ブギー「まぁな、けど他にはいないみてぇだし今のところは安全だろ」
それを聞いてトールウィッチは安心したのか表情を和らげる
その様子を見ていたジャックだったが、袖を軽く引っ張られそちらに顔を向ける
サリー「ジャック…」
ジャック「どうしたんだい?」
サリー「よかった…私、貴方が心配で」
ジャック「見ての通りさ、僕は大丈夫!」
そういって笑顔でその場でクルリと一回転しサリーに無事な事を見せる
元気な仕草を見せるジャックに微笑む、が彼の姿を見てサリーは少し驚いた
よくよく見てみると彼の服は土埃などで汚れ、傷がつき破れている
サリー「それ…もしかしてさっきの蜘蛛に」
サリーに指摘されジャックは自分の服に注目する
地下墓所ですっかり汚し傷付けてしまっていた事をようやく思い出す
ジャック「あ、これは違うよ!墓場に行った時にちょっとね」
サリー「怪我してるかもしれないわ…よくみせて?」
ジャック「平気だよ!怪我なんてしてないからね」
サリー「ジャック…」
その顔を見てジャックは言葉を詰まらせる
この悲しそうな表情を見るのはやはり辛い
彼女のそういう所には流石のジャックも弱い
ジャック「…じゃあ、みてくれる?もしかしたら自分じゃ気付いてないだけかもしれないからね」
そう言ってサリーの前に素直に座り込む
サリーはその場に膝をつき、ジャックの身体に触れる
外見は汚れ傷付いているように見えるが彼の言う通り、身体そのものに目立った外傷はなかった
それを自分の目で確認してようやく安心したのかその場に座り込む
サリー「よかった…」
ジャック「サリーすまない、心配させちゃったね」
申し訳なさそうな表情を浮かべるジャックにサリーはポケットから白いハンカチを取り出し、そっと彼の頬に添える
サリー「顔、汚れちゃってるわ」
ジャック「え、本当かい?それは気付かなかったよ」
照れ臭そうにはにかむジャックの頬を優しく拭う
ブギー「おーおー…早速いちゃついてやがる」
それを眺めていたブギーはつまらなそうに呟き、それと同時にふと聞こえた声の方を見た
それは目覚めたウェアウルフの声だった
ウェア「う…ぁ?ここ、どこだ?」
トールウィッチ「おや、気が付いたようだね」
それに気付いたジャックとサリーもその場に歩み寄る
ジャック「ウェアウルフ!気が付いたんだね!」
自分を覗き込む皆を見て未だに何が起こっているのか、自分の状況を理解できていない様子のウェアウルフは己の頭を軽くおさえる
ウェア「ジャック…なんでここに…俺は確か」
そこで蜘蛛と対峙していた事を思い出したのか、ウェアウルフは慌てて飛び起きた
ウェア「あ、あいつはどうなったんだ!あのでかい蜘蛛は!」
町長「ジャック達が退治してくれましたよ!もう安心です!」
それを聞いて安心すると同時に、ウェアウルフは今度はその場で項垂れる
ウェア「俺、あの蜘蛛に負けちまったのか…?情けねぇ」
耳を寝かせ、両手で顔を覆ってしまったウェアウルフの肩に手が触れる
それはジャックの手だった
ジャック「君のおかげでサリーや町長は救われたんだよ…情けなくなんてないさ」
ブギー「まぁお前じゃまず勝てなかっただろうなぁ」
ジャックの言葉に感動すると同時に、ブギーの言葉に苛立ちを覚える
睨みつけるがブギーはたいして気にする事はなく
ブギー「だが、正直それでも一人で挑んだその根性は見事なもんだと思うぜ…やるじゃねぇかお前」
それを聞いてウェアウルフは驚いた
ブギーに称賛されるなど全く予想していなかった事だ
ジャック「君が褒めるだなんて珍しい…もしかしてどこかやられてる?さっき吹っ飛んだ時に頭でも打った?」
ブギー「素直に褒めただけでなんでそこまで言われるのかわからねぇんだが!?」
その二人のいつものやり取りにウェアウルフはつい声をあげ笑ってしまった
サリーや町長、小鬼もその見慣れた光景に笑みを浮かべる
トールウィッチ「相変わらずだねぇ…さぁウェアウルフ。あんたはもう少し休んでおいた方がいいよ?なんならよく眠れる薬でも出してやるよ」
ウェア「おう、ありがとよ」
町長「我々も今日は帰りましょうか!皆にも安全な事を一刻も早くしらせなければいけませんしね!」
ロック「ぼくも今日は疲れた~」
ショック「いっぱい暴れたからお腹もすいたしね~」
バレル「親分と一緒に帰ろー!」
町長は他の住人に事を知らせる為に足早に外へと向かった
小鬼達はブギーの元へ駆け寄りお腹がすいた眠たい帰ろうとせがみ
わかったから騒ぐなと言い聞かせながら立ち上がる
ブギー「お、そうだ。ジャック…墓場での話、一応真面目に考えとけよ?」
ジャック「話って…あぁ、アレ」
墓場での話
ブギーが言っているのはあの時の「本気で殺り合うか」という言葉の事だろう
入り口へ向かうブギーは一度足をとめ、ジャックに顔を近づけ耳元で囁く
ブギー「別にお前の為じゃねぇが…もしお前が暴走でもしちまったら色々面倒だからな」
よく考えておけよ?
それだけを告げ、小鬼達と帰路につく
扉を出て行ったブギーの後ろ姿を睨みつけ、小さく舌を打つ
ジャック「余計なお世話だよ…」
サリー「…ジャック。どうしたの?」
視線を下げるとサリーが心配そうに此方を見つめていた
彼女にこんな自分は見せてはいけない
そう考えすぐに表情を和らげる
ジャック「何でもないさ…さぁ、家まで送るから僕達も帰ろうか」
サリーは何か言いたげではあったが、それ以上口にはしなかった