蠱惑の糸
町長「ウェアウルフ!」
現場へとたどり着いたメイヤーの視界には辺り一面に広がる子蜘蛛の死骸
壁に張り付き白い模様を光らせる大蜘蛛
そして壁に寄り掛かるようにして座り込むウェアウルフの姿だった
町長「これはいったい…何があったんですか!」
メイヤーが愕然とする最中、遅れてサリーもその場に駆け付ける
サリー「た、大変!!」
座り込んだまま微動だにしないウェアウルフに気付き慌てて駆け寄る
気絶しているのか目を閉じたままの彼の身体をくまなくチェックする
身体には特に目立った傷は見られない
サリー「ウェアウルフ…だめ、起きないわ」
町長「さ、サリー…彼を連れてここは一旦引きましょう!」
壁に張り付いたままの大蜘蛛を警戒しつつ、サリーに声をかける
今は大人しくしているが、いつ此方に危害を加えるかわからない
ウェアウルフが動けない今、自分達だけでは到底太刀打ちできないだろう
それに賛同するように頷き、ウェアウルフの腕の下に体を潜らせる
が、意識のない者の身体を支えるにはサリーの力では無理があった
それに気付きメイヤーも駆け寄りサリーとは反対へつき、彼の身体を支えた
町長「ゆっくりと行きましょう…ゆっくりと…」
大蜘蛛を刺激しないように2人はなるべく足音を立てず、ゆっくりとその場を離れだす
背後から飛び掛かってくるのではとサリーも時折大蜘蛛の姿を見る
このままいけば大丈夫
そう考えた矢先
大蜘蛛が突然素早い動きを見せた
壁から地面へ滑るように降り立ち、サリー達目掛け走り出したのだ
町長「うわあああああ!来たーーーっっ!!!」
サリー「きゃあああああああっ!!」
大蜘蛛が口を開き、大きく鋭い鋏角が襲い掛かる
迫りくる恐怖と襲い掛かるであろう痛みを覚悟した
痛みを感じない
それとも痛みを感じる間もなかったのだろうか
恐る恐る目を開くとそこには
サリー「…ジャック?」
サリーの視界には大蜘蛛の姿ではなく、見慣れた燕尾服に身を包んだ彼の後ろ姿
大蜘蛛は地面に倒れ込み、起き上がろうと8本の足を痙攣させていた
町長「ジャック!!」
ジャック「何とか間に合った…二人とも怪我は?」
町長「我々は大丈夫です!ですがウェアウルフが…っ」
未だ気絶したままのウェアウルフを見てジャックの表情が曇る
ジャック「町長、サリーとウェアウルフを連れて避難してください」
町長「ひ、一人でアイツを相手にするんですか!?」
ブギー「俺もいるんだが?」
その声に振り返るとブギーが立っていた
町長「…わかりました。サリー、行きましょう!」
サリー「…ええ」
再度ウェアウルフの身体を支えなおし、不安げな表情のままその場から離れる
残されたジャックとブギーは共に並び、体勢を整える大蜘蛛を前に構える
ブギー「おいおい、これは随分な大物だな」
ジャック「街中にこんなモノがいるだなんて…これ以上被害が出る前に片づけてしまわないとね」
それぞれ魔力を集中させ大蜘蛛の動きを警戒する
大蜘蛛はゆっくりと後ろへと下がり2人に対して威嚇するように鋏角を見せる
ロック「うわっでかい!!」
バレル「さっきの蜘蛛のボスかな!」
それを聞き足元を見下ろすと、ロックとバレルの姿があった
ジャック「ちょっ君達なにしてるんだ!?」
ブギー「お前ら来るなって言っただろ!?」
ショック「あたし達だって戦えるわよ!甘く見ないでよね!」
腰に手をつけ自信満々な表情を見せる
一体どこからそれだけの自信が出てくるのか
小鬼達にすっかり気を取られてしまったその時
大蜘蛛がその一瞬の隙を突くかのようにジャック達に飛び掛かった
その動きをいち早く察知したジャックは咄嗟にブギーの身体を蹴り飛ばし、同時にその反動で自らも後方へと飛んだ
大蜘蛛の攻撃は空を切り、小鬼達の頭上を抜け地面へ着地する
ジャック「大きいけど蜘蛛だけあって動きはやっぱり素早いんだな」
ブギー「お~い~…」
なんだ?とブギーを見ると突然の蹴りに対応出来なかったらしく、背後にあったゴミの山に突っ込んでしまっていた
そんな彼を見て小鬼達が慌てて駆け寄る
ブギー「いきなり蹴るとかありえねぇ…」
ジャック「そうでもしなきゃ避けられなかっただろ?」
ソウルラバーを構え大蜘蛛に対峙するジャックに、ごみの山から抜け出したブギーは体を軽く叩き舌打ちする
ジャック達に向き直った大蜘蛛は素早く糸を吐き出す
その糸をクルリと身を翻してかわすと同時に素早く噛み付きに飛び掛かった大蜘蛛の攻撃を掠るギリギリの距離で回避
再び地面に着地した大蜘蛛目掛けて腕を振るいソウルラバーが勢いよく尻を引っ叩く
その衝撃に大蜘蛛が全身を跳ね上げ、巨体を倒れ込ませる
ブギー「さぁて、さっさとコイツも片づけちまうか」
倒れ込んだ大蜘蛛にブギーが歩み寄る
すると突如、大蜘蛛の腹の模様が強く光りだす
それを見て爆発するのかと2人は素早く距離をとる
先程の蜘蛛達とは違い巨体
爆発すればそれだけ影響範囲は広い
小鬼達もそれに気付いたのか慌てて物陰へと身を隠す
しかし大蜘蛛は爆発する事はなく、そのまま腹の光は力を失い消えてしまう
巨体がドロドロと溶け始め、その溶けた体液と共に大蜘蛛の体内に残っていたのだろうか
子蜘蛛が数匹、その場から逃げるようにカサカサと走り出す
ショック「あ、蜘蛛!」
ロック「逃がすなー!」
バレル「やっちゃえー!」
逃げ出す子蜘蛛に気付いた小鬼達が物陰から飛び出し、各々が子蜘蛛を潰し始める
弱っていたのだろうか、それらは抵抗する間もなく小鬼達の手にかかった
ジャック「やっぱり逞しいね、あの子達」
ブギー「そりゃお前…あいつらが蜘蛛怖かったよ~とか言いながら泣きだしてみろ」
ジャック「…ごめん、ちょっと想像したら色々な意味で恐ろしかったよ」
ブギー「だろ?」
小鬼達の活躍(?)により無事に蜘蛛を片付けたジャック達は帰りを待っているであろうサリー達の元へ向かった